瓦解する甘い盾

流音あい

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八度目の接触、対等な恋人

27、何もしない?

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「送ってくれてありがとうございました」
「うん」
「もう手を離してくれません? 鍵が出せないんですけど」
「うーん」

 今日のデートでは、きよみは待ち合わせた駅で別れるつもりだった。だが彼が家まで送ると言い、繋いだ手を離さなかった。

「もうデートは終わりましたよ」
「でもまだ俺たちは付き合ってるよね」
「そうですね。明日にはわかりませんけど」
「そんなこと言われたら帰れないじゃん」
「冗談ですよ。別れるときはちゃんと言いますから。自然消滅はしない派なんで」
「怖くて電話も取れないよ」

 彼はすがるようにきゅっと抱き着いてきた。緩んでしまう頬を引き締め直し、きよみは彼の肩を優しく押して引き離す。

「とりあえず明日はまだ大丈夫ですよ。だからもう帰っていいです」
「明日もまだ休みじゃん。このまま泊まってっちゃダメ?」
「今日は泊まる予定じゃなかったでしょ」
「そうだけど、きよみちゃんが脅すからじゃん」

 むすっと拗ねた顔を向けられる。

「部屋に上がっても何もしないって約束できます?」
「今更? さんざんあれこれやってきたのに?」
「それじゃセフレと変わらないでしょ。別れて前の関係に戻ります? セフレでも恋人でもない、中途半端な関係に」
「やだ」

 即答だった。

「何もしなければ恋人でいられるの?」
「どうでしょうね」
「ホントは手を出せって意味?」
「それは違うでしょ」
「女心って難しい」

 彼の手が、するりと甘えるように腰に回される。

「とにかく、今日はもう帰ったらどうですか?」
「帰らなきゃダメ?」
「大人しくしてるなら別にいてもいいですけど?」

 口を閉ざした彼が、じっと見つめて真意を探ろうとしてくる。きよみも静かに見つめ返した。

「じゃあ、もし私がいま生理だったらどうします?」
「え、そうなの?」

 きよみは答えず、彼の返答を待った。

「いや帰、らなくてもいいのか……。傍にいてもいいんだっけ」
「私は寄り添ってほしい派なんで」
「なら傍にいたい」

 彼はきっぱりと言った。

「気持ち良くなれなくても?」

 問うてみると、彼は肩をすくめた。
「いざとなったら、自分でどうとでも処理出来るし」
 軽く言ってのける彼の瞳をまじまじと見つめ、嘘はないと判断する。きよみは彼の手を腰から外し、鍵を開けた。
「どうぞ」
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