料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人

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第39話 全力疾走

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「お、来たな」

 国境近くの高い木に登り、待つ事暫し。
 西の方から、轟音を響かせて騎馬隊がやって来た。
 とはいえ、今の時点でこっちから手を出したら俺が悪者になってしまうので、国境の門の近くへ身を隠す。

「おい、止まれ! ここから先は……うぐっ!」
「こいつら……おい、王宮へ緊急連絡だ! ポーツグスが攻めて来たっ!」
「門を……壊しやがった!」

 騎馬隊たちが予想通りそのまま突破してきたので、隠れていた茂みから姿を現し、街道に立ちはだかる。

「そこの者! 死にたくなければ道を開けるのだな!」
「そいつは忠告をどうも。だが、ここから先は通さないけどな」

 先頭の騎馬がそのまま突っ込んで来たので、クルッと回転し、回し蹴りを放つと、馬ごと後ろへ吹き飛ばす。

「死にたくなかったら、帰った方が良いぜ。そうしたら、モレノ以外は見逃してやる」
「ふざけ……ごはぁっ!」
「何だ、コイツは!? 体術で騎馬を……ぐはぁっ!」

 とにかく蹴り倒し……途中から、馬が巻き添えに遭うのは可哀想だなと思い、乗っている兵士だけを蹴り落とす。

「誰か、矢を放て! あの化け物を何とかしろっ!」
「もう何度かやってます! ですが矢を放つと、投げ返されるんですっ!」
「投げ……何を言っているんだ!? がっ……そんな、バカな」

 背後からとかならともかく正面から飛んで来た矢なら、掴んで投げ返せばこっちの武器になるからな。

 そんな事を暫く繰り返していると……もう、何人倒したか分からないが、蹴り飛ばした兵士たちで門が埋め尽くされ、向こうも進んで来なくなってしまった。
 時折飛んで来る矢を掴み、投げ返すくらいだが……しかし、モレノは出て来ないな。
 門の側で倒れてピクピクしている兵に近付くと、

「あのさ、モレノは出て来ないのか?」
「モレノ……モレノ様の事か。ふっ、そんな事を教えるとでも思ったか」
「あっそ、じゃあいいや。他の奴に聞くし。じゃあな」
「待て待て待て! 話す! モレノ様は別部隊だ。ここには居ない!」
「……くっ、そうきたか」

 正直なところ、俺としては姉さんの力を封じたモレノが最優先だというのに、ここに居ないなんて。
 しかし、ここを通らないとなると、何処から攻めてくるつもりなのだろうか。

「いや、君! 凄いね! ありがとう! 勲章授与ものだと思うんだが、連絡先を教えてくれないか?」
「いえ、そんな事より、まだ敵は残っていますので、気を抜かずにお願い致します」
「しかし君のおかげで攻めてくる気配はないし、逃げ出す者まで居るではないか。君さえ居てくれれば、ここは絶対に守れるよ」

 国境の警備兵っぽい人が、凄く上機嫌でポンポン肩を叩いてくるし、後は任せても良いという事だろうか。
 そんな事を考えていると、

「むっ! アルよ。あのクララという少女から声が届いたぞ……くっ、先ほどまで我らが居た王宮というところに、我の力を封じたモレノという人間族が現れたそうだ」
「なっ!? ……そうか、しまった! テレポートだ!」
「うむ。モレノを含む、魔法に長けた者たち……少数精鋭で攻めてきているそうだ」

 姉さんから予想外の言葉が出て来た。
 いや、予想外というより、この可能性は大いにあり得たのに、俺の考えが至らなかったんだ。

「ん? その白猫……今、喋らなかったか? そういえば、あんなに激しい動きをしていたのに、肩から一切動かなかったし、魔法か何かか?」
「オジサン。悪いがここは任せた。王宮へ行ってくる」
「……は? いやいや、君無しでここを守り切れる訳ないだろ!? それに、ここから王宮までどれだけあると思っているんだ!? 後で馬車を出して送ってあげるから、一緒にここで……って、おーいっ! マジかよっ! 少年……戻って来てくれーっ!」

 遥か後方の国境から、兵士のオジサンが叫んでいるが、それどころではない。
 白虎の力を全て足に注ぎ込み、飛ぶように全力で走る。
 少しして、遠目に王宮が見えて来たけど……今はまだ中で戦っているのだろうか。
 街に変わった様子は見られない。
 一先ず、そのまま街を駆け抜け、王宮へ突撃する事にした。
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