婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第248話 イナリの策

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 イナリの作戦を実行すべく、カタリナさんに大切な話があるからと、個室へ移らせてもらった。

「そちらへどうぞ」
「ありがとうございます」

 お互い席に着き……部屋を沈黙が支配する。
 どうしよう。個室に入ったら、イナリに話を合わて欲しいって言われたけど、そのイナリが入って来ないから、何を話せば良いかわからないんだけど。

「それで、アニエスさん。大事なお話とは?」
「そ、そうですね。えっと……」

 イナリ……早く! ただの雑談なら幾らでも出来るけど、個室に来て雑談を始めたら、違和感しかないからっ!
 ひとまず、何かそれっぽい事を言わない訳にはいかず、無理矢理言葉を紡ぐ。

「フランセーズの第三王子はトリスタン王子と言うんですけど……」
「はい。先程仰っていた方ですね?」
「えぇ。そのトリスタン王子は、男性にしては長めの金髪で、あと碧眼でして……」

 もう何を話しているのか、訳がわからなくなったところで、ようやく扉が開く。
 良かった。イナリが来たと思って、部屋の入り口に目を向けると……違うっ! イナリじゃなくて、トリスタン王子が入って来た!?

「すまない。待たせたな。そちらのアニエスという女性に言われて来たのだが、何やら我……こほん。俺に似た者を探しているらしいではないか」

 似た者? トリスタン王子に……あ、確かにちょっと違う。
 微妙に背が低かったり、茶髪だったり、瞳の色が赤だったりして、物凄くよく似たそっくりさんって感じだ。
 でも、私はこの人に何も依頼なんてしていないんだけど。

『アニエス。我だ。変化の力で、あのバカ王子になり、少しだけ顔を変えた。この者の顔を見たかどうか聞くのだ』

 なるほど。誰かと思ったら、この人がイナリなのね。
 というか、念話があるんだから、先に説明しておいてくれたら良かったのに。

「あ、あの。アニエスさん、こちらの方は?」
「えっと、ここへ来る前に見つけて声を掛けた、トリスタン王子に凄く似ている人です。この人を見た覚えはありませんか?」
「この人に似た人……」
「はい。顔はこんな感じなんですけど、金髪碧眼です」

 カタリナさんが暫く考え……顔を上げる。

「はい、この人なら昨日見ました! 大通りを大勢で歩いていたので、よく覚えています」
「大勢で!?」
「はい。その中心に居たので、邪魔だなーって思って見ていたんです」

 大勢で……冒険者を雇ったりのかな?
 でも、以前に行動を共にしていた時は、パーティメンバーが多過ぎると、統率が取れないとか、分配で揉めるから、多くても六人が限界って言っていたんだけどな。

「あの、大勢っていうのは何人くらいですか?」
「ハッキリとはわかりませんが、十人以上は居たのではないかと」

 それなら冒険者じゃないよね?
 でも、だとしたら一体どういう集団なの!?
 とはいえ、トリスタン王子がイスパナに来ているのは分かったわね。

「カタリナさん。ありがとうございます。この街に来たというのが分かっただけでも、助かります」
「お役に立てて何よりです。ただ、どのような理由でその方を探されているのはお聞きしませんが、正直言ってあまり良い雰囲気とは言い難い感じでしたが……」
「そう……ですね。その、色々あったんですよ」

 情報が得られそうなのは、ここまでかと思ってギルドを出ると、すぐに子狐姿のイナリがやって来た。

『まったく、あのバカ王子め。またくだらぬ事をしようとしているようだな』
「そうね。でも、トリスタン王子はどうでも良いけど、また魔物が強くなったり、土地が変な事になったりしたら大勢の人が困るし、何としても止めなきゃ」
『そうだな。何としても魔の力は封じておかなければ』

 トリスタン王子がどこへ向かっているかはわらかないけれど、イスパナへ来た事が間違っていなかったと確認出来たので、一度ロレッタさんとコリンと合流する事にした。
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