婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人

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第6章 太陽の聖女と星の聖女

第290話 宝物庫の奥

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 宝物庫へ着くと、黒ずくめの人たちと戦ったというコリンの無事を喜び、頭を撫で……建物の中へ入る。
 ファイアー・ドレイクの封印の場所とは異なり、黒ずくめの人が物陰にいて、何かを投げてきた!
 だけど……

「鬱陶しい」

 イナリが呟くと、床に飛んできたナイフや矢が落ち、更に物陰から黒ずくめの人が倒れて来る。

「い、イナリ!?」
「大丈夫だ。命は奪っておらぬ」

 眠っているだけだと聞いたので、そのまま奥へ。
 前に来た時は、宝物庫は空で何もなかった。
 だけど、私たちが見つけられなかった何かがあるの?
 不思議に思っていたけど、その疑問がすぐに氷解する。

「地下!?」
「なるほど。魔力の宿った武器や魔槍で結界を無理矢理破ったか」

 イナリによると、床の下に認識を阻害させ、かつ防護も兼ねた結界の残滓があるみたい。
 それが、床に大きな穴が開けられると共に、雑に壊されているそうだ。

「トリスタン王子は、この為にポートガへ? ……いえ、これだけの為なはずないわよね」
「うむ。金品の為だけなら、花の女王に手を掛ける必要はなかったはずだからな。何かよからぬ事を企んでいるのだろう」

 イナリでさえ気付けなかった……いえ、もしかしたら結界があるからあえて言わなかっただけかもしれないけど、宝物庫の下に隠された何かがある事を、トリスタン王子はどうやって知ったのだろう。
 穴の下にはイナリの身長より少し高いくらいの通路があって、宝物庫の更に奥へと続いている。

「来たぞっ! 奴らだ!」
「黙れ」

 通路には身を隠す所がないからか、黒ずくめの人たちが私たちに立ち塞がるようにして現れるけど、あっという間にイナリが戦闘不能にしていく。
 そして、最奥には既に開かれた重厚な扉があって、黒ずくめの人が手に何かを持っていた。

「ふふっ、トリスタン王子の読み通りだ。だが、遅かったな。これは既に我らの手の内に……ぐっ!」

 黒ずくめの人が何か言いかけている間に、イナリが男性を床に倒し、手にしていた何かを奪っていた。

「喋れるように加減した。これは何だ? 何かの資料のように思えるが」
「お前たちに話す義理はないな」
「そうだな。では、我もお主らを生かしておく義理もない」

 イナリが古い紙の束を眺めながら怖い事を言ったところで、ロレッタさんが慌てた様子で口を開く。

「ま、待ってください! トリスタン王子がいません!」
「お姉ちゃん! 魔槍もないよっ!」

 言われてみれば……ここへ来るまでの間、隠れるような場所はなかったはずなのに、トリスタン王子の姿もないし、肝心の魔槍が見あたらない。

「ポートガから盗んだ槍はどうしたの!?」
「槍? 何の事かわからんな……ぐはっ!」
「正直に答えた方が身の為だぞ。我は今、機嫌が悪い」

 イナリが黒ずくめの人を踏みつける。
 だが、黒ずくめの人は顔を歪めるだけで、一向に喋る気配を見せずにいると、イナリが小さく溜息を吐く。

「この力は好きではないのだが……話せ」
「――っ!? ……槍は王子が持っている」

 イナリの言葉で、黒ずくめの人の目の焦点が合わなくなり、どこか虚空を眺めているように見える。
 確か、ゲーマの偉い人が使っていた、精神支配系の力だったかな?

「あのバカ王子は何処にいるのだ」
「……太陽の神殿」
「奴は何を企んでいる」
「……魔の力でこの国を一度滅ぼし、新たに支配する」

 何て事を! 急いで止めなきゃ!
 慌てて走り出そうとした私を、イナリが制止する。

「アニエス、待つのだ。まだ聞く事がある……この紙の束はなんだ」
「……魔の力の使い方が載っている」
「その内容は、ここに居る者たちしか知らぬのか?」
「……かなり前に伝令を出して王子へ伝えている」
「お前たちがここに居る理由は?」
「……時間稼ぎだ。とはいえ、もうとっくに準備は済んでいるはずだがな」

 そう言うと、イナリが力の行使を止めたのか、黒ずくめの人が動かなくなった。
 私たちは……間に合わなかったの!?
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