王太子殿下は悪役令息のいいなり

一寸光陰

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「来月の俺の誕生パーティーのことなんだが、俺に衣装を任せてくれないか?」
「うん。そうするよ。ディーに頼めば間違いなしだもんね。」

来月の3月10日はディアスの誕生日だ。王宮ではパーティーが開催される。シルヴィンは毎年ディアスの婚約者として参加していた。
2人は夕食後、ダンスの練習を楽しんだ。


「明日はこれを着てくれ。」
侍女たちが服を持って現れる。
「わぁ…」
濃青色のジャケットに細やかな金の刺繍が施されている。光を浴びてキラキラと輝き、一目見て高価な者だとわかる。
腕を通すとシルヴィンにピッタリとフィットした。
「とても似合っている。」
ディアスがうっとりと微笑む。
「俺のはこれだ。シルとお揃いに仕立てた。」
黒地のジャケットにシルヴィンと同様、金の刺繍が施されている。
互いの瞳の色のジャケットにシルヴィンは幸せな気分になった。
「早くこれを着てシルと踊りたい。」
「僕も。」
2人はどちらともなくキスをした。


シルヴィンはディアスにエスコートされて会場へと入場した。
大きな豪華な扉が開かれる。何度経験してもこの瞬間には慣れそうにない。
足を踏み入れると、会場の者すべてがお辞儀をして迎え入れる。
人々が顔を上げると、シルヴィンは多くの視線を感じた。羨望の眼差しと嫉妬の眼差し。嫉妬の方が多いかもしれない。それでもシルヴィンは姿勢を正して堂々と歩いた。

国王陛下からの挨拶が終わり、ディアスがお礼の言葉を述べるとパーティーの始まりだ。

「シルヴィン・セカーシスト・マリンバルト、共に踊る名誉を私に。」
「はい。喜んで。」

2人は優雅な音楽に合わせて体を動かす。小さい頃からダンスレッスンを受けてきた2人はどの者にも引けをとらない上手さだった。
2人の美しいステップに人々が見惚れる。
厳かな空気のまま一曲目のダンスは終了した。


「王太子殿下、御誕生されたことを大変喜ばしく思います。これからも殿下に神のご加護があらんことをお祈り申し上げております。」
「ありがとう。」
公爵令嬢がディアスに挨拶する。
ディアスに見つめ返され公爵令嬢は顔を赤く染める。
「あの、殿下…。よろしければ次のダンスは私と踊っていただけないでしょうか。」
会場中の令嬢たちの視線が集まる。皆本当はディアスをダンスに誘いたいのだ。しかし、身分が高いものから声をかけるという暗黙のルールが存在していた。

「すまない。それはできない。」
ディアスはつれなく断った。
公爵令嬢は目を見開き驚いた。
彼女は美しく、令息の間でも人気であった。

「理由をお聞きしてもよろしいでしょうか。」
「俺はシルヴィン以外と踊る気はない。」
「あの噂は本当だったのですね!」
「噂?」
「殿下がシルヴィンに束縛されて困っているという噂です。」
「…ほう。貴女は私が婚約者に迫られたからといって断れないほどの者だと考えているのか。」
あたりがしんと静まる。
「い、いえ!そういうわけではっ!」
「俺がシルヴィンとしか踊らないのは、俺が他の人と踊っている時にシルヴィンが他の人と踊るのが耐えられないからだ。シルヴィンには俺とだけ踊っていて欲しいからだ。
…行こう、シル。」
ディアスはシルヴィンの手を引いてその場から去っていった。
公爵令嬢の周りではザワザワと驚きの声が広がっていた。


2人の様子をよく観察する。
王太子殿下は公爵令息の腰に手を回し密着している。2人は顔を寄せ合い、何か話したかと思うとクスクスと笑っている。
殿下の美しさ比喩する時よく「氷」という表現がされるが、今の殿下は春の陽だまりのような笑顔だ。
殿下は令息の頭上にキスを落とす。公爵令息は少し頬を膨らまし何やら文句を言っているようだ。殿下はまた微笑む。

私たちは何故公爵令息の一方的な片思いだと思い込んでいたのだろう。あんなにも殿下は愛していらっしゃるのに。

王宮では当たり前の光景であり、2人が愛し合っていることは当たり前の認識であったが、とうとう2人の関係をよく知らない子供達にも知れ渡っていった。


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