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23 鍛錬と提案
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男たちの火と水魔法の訓練を見守りながら、ライナルトはイェッタの指示で女たちがつないだ野兎を仕留めるのを、離れて見ていた。
ロミルダとフェーベのやりとりに、ライラも近寄り加わっている。
ライラは水適性だったようで、改めてフェーベと組んでもう一羽の野兎を仕留めていた。
確認して、ライナルトはそちらに歩み寄っていった。
「うまくいけそうじゃないか」
「ああ、うん、いけるよこれ」ロミルダが振り向いて応えた。「水と火適性の者二人で組んでやれば、これぐらいの距離で獣を狩れるってことだ」
「水を、何だ、口の中にぶち込んでやるわけか」
「そうさ。それで少しの間苦しんで、動けなくなる」
「その隙に、頭に火を点けてやる、と」
「そうそう」
「すごいよね、これ」ライラが身を乗り出してきた。「あたしたちでも兎とか狩れるってことだよ。ロミルダ、よく思いついたもんだ」
「いやでも、思いついたの、あたしじゃないのさ」
「え?」
「あたしとフェーベ、イェッタちゃんに言われてやってみたのさ」
「はあ?」
「そうなんだよ」フェーベが大きく頷く。「ライナルト、これどういうことさ? この赤ちゃん、こんなに話せるとも思わなかったけど、何でこんな意味のあること言い出してるのさ」
「いや……」
困惑して、ライナルトは首を傾げる。
何でと言われても、父親でさえ理解できていないのだ。
当の娘は箱の上に座って、あらぬ方を見ているし。
誤魔化したいのも山々だが、この女たちに無闇な隠し事をするのもこの先面倒になるだけという気がする。
「いや俺もさっぱり分からないんだが、ここ数日、急にこういうことを話すようになっているんだ」
「そりゃあ――イェッタちゃん、とんでもなく賢いってことなのかねえ」
ロミルダも理解及ばないようで、首を傾げている。
他の二人も合わせて皆子持ちなわけだが、経験に照らしても理解を超えているらしい。
ややしばらく互いに顔を見合わせて、フェーベは首を振った。
「いや、どうにも分からないけどさ。今のこと、イェッタちゃんの口から出たのも事実、こうしてやってみて役に立ちそうってのも事実なんだから。とにかく村の今後のために役立てようよ。ライナルトさ、こうして女たちでこんなことができたら、猿魔獣が攻めてきたとき、ものの役に立ちそうかね」
「ああ。確かにここからあの野兎をつないだくらい、二十ガター程度の距離のうちに今のやり方で数匹でも仕留められるなら、当てになりそうだな。しかし群れがそれ以上近づいてきたら、すぐに後ろに逃げることだ、十ガター以内まで近づいて接近戦になったら、剣を使えない者は対処できない」
「なるほど、そういう練習を積んでおくことだね」ロミルダが頷く。「じゃあ、フェーベとライラで組んで、練習を続けなさいな。あたしは別に誰か、火適性のものを選んで組むことにしよう」
「年寄りや小さな子は避けた方がいいぞ。後ろに逃げるのに、間に合わないかもしれない」
「そうだね。分かったよ」
そのまま相談している女たちから目を転じると、「オータ」と娘が両手を伸ばしてきた。
抱き上げてやると、背後の方向を指さしている。
男たちが的に向けて火と水の練習をしている。その向こう端、コンラートに指が向いていた。
他の大人たちに比べてやはり火の調整がうまくいかないようで、的を外れてはやり直し、をくり返しているようだ。
すぐ後ろにツァーラが立って、声援を送っている。
「何だ、コンラートが気になるのか」
「うん。あてるの、むじゅかしそう」
「まあそうだな、他の大人たちより、練習期間が必要そうだ」
「かじぇのみち、あったほうが、いいんじゃない?」
「ああ、確かに。火の勢いはつけれるようになっている。むしろ大人より勢いはあるくらいなんだから、あれがあれば役に立つだろうな。しかし風適性が必要なんだが、お前がやるのか?」
「つぁーら、かじぇ」
「そうなのか」
うーむ、と考える。
コンラートの火の調整も、数日かければ使い物になるだろう。
ツァーラにその「風の道」を覚えさせるのと、どちらが早いか。
若い者のことだから時間さえかければどちらも何とかなりそうだが、今はとにかくいつ来るか分からない魔獣に備えて、すぐ明日にでも実戦に臨める態勢を作る必要があるのだ。
二人同時進行で練習させていくことだな、と断を下す。
問題は、この技術の指導はイェッタにしかできないということなのだが。そこは割り切るしかなさそうだ。
「お前、指導できるか?」
「やる、きゃない」
「だな」
頷き合って、端の方に寄っていった。
ツァーラはすぐ気がついて顔を向けてきたが、コンラートは練習に夢中のままだ。
「コンラート、調子はどうだ」
「ああ、おっちゃん。もう少しだ」
「どれくらい的に当たっている?」
「えーと――十回に一回ぐらい……」
「ううむ。最初としては悪くないが、正直に言わせてもらえば、今すぐ魔獣が攻めてきたとしたら先頭に立たせることはできんな。ほぼ確実に二十ガター先の的に当てれるようでなければ、相手の接近を許してしまう」
「いや俺、練習するから」
「ああ、もちろん練習は続けてもらう。ただ、今すぐ役に立てるように、別の方法も試してみよう」
「何だい、別の方法って」
「ツァーラ、コンラートと組んで練習すること、できるか?」
「あ、え? うん、あたしができることなら、やるよ。でもあたしの適性、風だから……」
「分かってる。ちょっと、見ていてくれよ。まずコンラート」
「おお」
腕に抱いた娘を揺すり上げてやる。
頷きを返して、イェッタはコンラートのすぐ前の辺りを指さした。
「こんらと、あいっていったら、このへんにおもいきり、ひをとばしゅべし」
「え、え?」
「あいっていったら、すぐ」
「お、おう」
小さな指が振れ、もう一度コンラートの胸先五百ミター辺りを指した。
「あい」
「おう!」
言われた通り、思い切り腕が振られた。
飛ばされた火球が、すぐ先でわずかに軌道を修正。そのまま一直線に飛翔して、的に大きく弾けた。
ブワッと轟音が響く、幻聴を覚えるほどに。
「え、え?」
「わあ、命中ーー、凄い、コンラート!」
当の本人は目を丸くし、後ろで少女が躍り上がる。
コンラートは、何度も自分の指先と的の方を見比べていた。
「え、え、何だ今の?」
「かじぇのみち」
「え、何?」
「風魔法で、火が飛ぶ方向をしっかり決める道を作っているんだ」
「ええーー?」
「ええ、風?」
ライナルトが説明してもわけが分からず、コンラートは絶句。
後ろで、今度はツァーラが目を丸くした。
「イェッタちゃん、風適性なの?」
「うん」
「風を飛ばさずに、細長く伸ばして空中に置く感じらしい。ツァーラ、これをできるように練習してみないか」
「う、うん。できるもんなら」
「コンラートはしばらく今のまま、狙いをつけるのと火の威力を増す練習。ツァーラがこれをできるようになったら、二人で息を合わせるようにすることだな」
「あ、ああ、分かった」
ライナルトの指示に、若い二人は大きく頷いた。
ロミルダとフェーベのやりとりに、ライラも近寄り加わっている。
ライラは水適性だったようで、改めてフェーベと組んでもう一羽の野兎を仕留めていた。
確認して、ライナルトはそちらに歩み寄っていった。
「うまくいけそうじゃないか」
「ああ、うん、いけるよこれ」ロミルダが振り向いて応えた。「水と火適性の者二人で組んでやれば、これぐらいの距離で獣を狩れるってことだ」
「水を、何だ、口の中にぶち込んでやるわけか」
「そうさ。それで少しの間苦しんで、動けなくなる」
「その隙に、頭に火を点けてやる、と」
「そうそう」
「すごいよね、これ」ライラが身を乗り出してきた。「あたしたちでも兎とか狩れるってことだよ。ロミルダ、よく思いついたもんだ」
「いやでも、思いついたの、あたしじゃないのさ」
「え?」
「あたしとフェーベ、イェッタちゃんに言われてやってみたのさ」
「はあ?」
「そうなんだよ」フェーベが大きく頷く。「ライナルト、これどういうことさ? この赤ちゃん、こんなに話せるとも思わなかったけど、何でこんな意味のあること言い出してるのさ」
「いや……」
困惑して、ライナルトは首を傾げる。
何でと言われても、父親でさえ理解できていないのだ。
当の娘は箱の上に座って、あらぬ方を見ているし。
誤魔化したいのも山々だが、この女たちに無闇な隠し事をするのもこの先面倒になるだけという気がする。
「いや俺もさっぱり分からないんだが、ここ数日、急にこういうことを話すようになっているんだ」
「そりゃあ――イェッタちゃん、とんでもなく賢いってことなのかねえ」
ロミルダも理解及ばないようで、首を傾げている。
他の二人も合わせて皆子持ちなわけだが、経験に照らしても理解を超えているらしい。
ややしばらく互いに顔を見合わせて、フェーベは首を振った。
「いや、どうにも分からないけどさ。今のこと、イェッタちゃんの口から出たのも事実、こうしてやってみて役に立ちそうってのも事実なんだから。とにかく村の今後のために役立てようよ。ライナルトさ、こうして女たちでこんなことができたら、猿魔獣が攻めてきたとき、ものの役に立ちそうかね」
「ああ。確かにここからあの野兎をつないだくらい、二十ガター程度の距離のうちに今のやり方で数匹でも仕留められるなら、当てになりそうだな。しかし群れがそれ以上近づいてきたら、すぐに後ろに逃げることだ、十ガター以内まで近づいて接近戦になったら、剣を使えない者は対処できない」
「なるほど、そういう練習を積んでおくことだね」ロミルダが頷く。「じゃあ、フェーベとライラで組んで、練習を続けなさいな。あたしは別に誰か、火適性のものを選んで組むことにしよう」
「年寄りや小さな子は避けた方がいいぞ。後ろに逃げるのに、間に合わないかもしれない」
「そうだね。分かったよ」
そのまま相談している女たちから目を転じると、「オータ」と娘が両手を伸ばしてきた。
抱き上げてやると、背後の方向を指さしている。
男たちが的に向けて火と水の練習をしている。その向こう端、コンラートに指が向いていた。
他の大人たちに比べてやはり火の調整がうまくいかないようで、的を外れてはやり直し、をくり返しているようだ。
すぐ後ろにツァーラが立って、声援を送っている。
「何だ、コンラートが気になるのか」
「うん。あてるの、むじゅかしそう」
「まあそうだな、他の大人たちより、練習期間が必要そうだ」
「かじぇのみち、あったほうが、いいんじゃない?」
「ああ、確かに。火の勢いはつけれるようになっている。むしろ大人より勢いはあるくらいなんだから、あれがあれば役に立つだろうな。しかし風適性が必要なんだが、お前がやるのか?」
「つぁーら、かじぇ」
「そうなのか」
うーむ、と考える。
コンラートの火の調整も、数日かければ使い物になるだろう。
ツァーラにその「風の道」を覚えさせるのと、どちらが早いか。
若い者のことだから時間さえかければどちらも何とかなりそうだが、今はとにかくいつ来るか分からない魔獣に備えて、すぐ明日にでも実戦に臨める態勢を作る必要があるのだ。
二人同時進行で練習させていくことだな、と断を下す。
問題は、この技術の指導はイェッタにしかできないということなのだが。そこは割り切るしかなさそうだ。
「お前、指導できるか?」
「やる、きゃない」
「だな」
頷き合って、端の方に寄っていった。
ツァーラはすぐ気がついて顔を向けてきたが、コンラートは練習に夢中のままだ。
「コンラート、調子はどうだ」
「ああ、おっちゃん。もう少しだ」
「どれくらい的に当たっている?」
「えーと――十回に一回ぐらい……」
「ううむ。最初としては悪くないが、正直に言わせてもらえば、今すぐ魔獣が攻めてきたとしたら先頭に立たせることはできんな。ほぼ確実に二十ガター先の的に当てれるようでなければ、相手の接近を許してしまう」
「いや俺、練習するから」
「ああ、もちろん練習は続けてもらう。ただ、今すぐ役に立てるように、別の方法も試してみよう」
「何だい、別の方法って」
「ツァーラ、コンラートと組んで練習すること、できるか?」
「あ、え? うん、あたしができることなら、やるよ。でもあたしの適性、風だから……」
「分かってる。ちょっと、見ていてくれよ。まずコンラート」
「おお」
腕に抱いた娘を揺すり上げてやる。
頷きを返して、イェッタはコンラートのすぐ前の辺りを指さした。
「こんらと、あいっていったら、このへんにおもいきり、ひをとばしゅべし」
「え、え?」
「あいっていったら、すぐ」
「お、おう」
小さな指が振れ、もう一度コンラートの胸先五百ミター辺りを指した。
「あい」
「おう!」
言われた通り、思い切り腕が振られた。
飛ばされた火球が、すぐ先でわずかに軌道を修正。そのまま一直線に飛翔して、的に大きく弾けた。
ブワッと轟音が響く、幻聴を覚えるほどに。
「え、え?」
「わあ、命中ーー、凄い、コンラート!」
当の本人は目を丸くし、後ろで少女が躍り上がる。
コンラートは、何度も自分の指先と的の方を見比べていた。
「え、え、何だ今の?」
「かじぇのみち」
「え、何?」
「風魔法で、火が飛ぶ方向をしっかり決める道を作っているんだ」
「ええーー?」
「ええ、風?」
ライナルトが説明してもわけが分からず、コンラートは絶句。
後ろで、今度はツァーラが目を丸くした。
「イェッタちゃん、風適性なの?」
「うん」
「風を飛ばさずに、細長く伸ばして空中に置く感じらしい。ツァーラ、これをできるように練習してみないか」
「う、うん。できるもんなら」
「コンラートはしばらく今のまま、狙いをつけるのと火の威力を増す練習。ツァーラがこれをできるようになったら、二人で息を合わせるようにすることだな」
「あ、ああ、分かった」
ライナルトの指示に、若い二人は大きく頷いた。
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