アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy

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24 指導してみよう

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 まず難関は、ツァーラに「風の道」を会得させること。
 そう思ってたんだけど。
 最初にお手本を作ってみせて、触らせて。

「わかりゅ? ここ」
「あ、うん。何かあるねえ」

 見えない空気に手で触れて、ツァーラは一応形を認識したみたいだ。
 その手本に向けて、段階を踏んでいく。

「まじゅ、てのさきに、かじぇのもと、ふくらましゅ」
「うん、こんな感じかな」
「それ、うしゅく、ひらたく、しゅる」
「え、え、こう? どう?」

 やっぱり、膨らませた空気を変形した経験はなかったみたいだ。
 それでも何度か試みて、くり返しのうち、意外とすんなりツァーラはコツを掴んできた。
 ややしばらくの時間をかけて、何とか思った変形を実現したようだ。
 父に近寄せてもらい、あたしは手で触れて確認する。

「うん、これ、もっとうしゅく、ながく」
「うん、こうかな」
「それ、もっとながく、こんな、まりゅくして」
「長く、丸くね。うんしょ――」

 何だかんだで三十ミーダくらいの試行錯誤の末、ツァーラは注文通りのものを作り上げていた。

――こんな早くできてしまうとは、思わなかった。

 もしかして、ツァーラが若くて頭が柔軟なせいとかだろうか。
 赤ん坊に若い呼ばわりされても、困っちゃうだろうけど。

「じゃそれ、まとにむけて、そのへんに、だしゅべし」
「そこに出す、と、よっこらしょ」

 指先の五百ミター(ミリメートル)見当前方を指定し、現出させる。
 手を伸ばして触れると、大丈夫そうだ。
 父に素速く移動してもらいながら確かめた限り、長さも十分だ。

「じょうでき。あとは、こんらととくんで、れんしゅうしゅべし」
「分かった」
「ほうこうきめて、いきをあわせりゅ。ふたりで、れんしゅう、ありゅのみ」
「了解です」

 拳を握って、ツァーラは頷く。
 その女の子に向けて、父は苦笑していた。

「ツァーラお前、何と言うか、凄いな」
「え、何?」
「よくこんな赤ん坊の言うこと理解して、会得してみせたもんだ」
「ああ、うん、イェッタちゃんの言うこと、何か感じ、分かるって言うか」
「大人たちより、年が近いせいかなあ」
「かもねえ」

 あっけらかんと、笑っている。
 もしかするとこの子、思った以上に大物なのかもしれない。
 聞いていたコンラートが、振り返って声をかけてきた。

「それってお前、ツァーラが赤ん坊と精神年齢が近いってことじゃないのか」
「ええーー? あたしもう、大人だよお。赤ちゃんと一緒にしないでよお」
「そうやって騒ぐところが、子どもだ」
「コンラートだって子どものくせにい」
「けんかしてにゃい。れんしゅ、しゅべし」
「わ、赤ちゃんに怒られた」
「分かったよお」

 何だかんだで気が合っているようで、二人は組んで練習を始めた。
 ツァーラの狙いつけはすぐ会得できたようだけど、コンラートとの息がなかなか合わない。
 それでも何回目かには成功して、的に大きく炎を弾けさせた。

「やった!」
「よおし、今の感覚だ。もっと連続成功させるぞ」
「おーー」

 二人で拳を握って、練習を続ける。
 あたしは元の箱の上に戻って、全体を見回した。
 父は、男たちの指導に戻る。
 オイゲンとイーヴォの火魔法は、かなり威力と精度を安定させてきている。
 それでもコンラートとツァーラのコンビで、もうそれを上回っている感じだ。
 マヌエルとケヴィンの水は、敵の顔にぶつけるのと口の中に直接出現させるのと、両方できるようにする。
 脇の方ではロミルダが別の女性を連れてきて、フェーベとライラの組とともにさっきの水と火のコンビネーションを試している。
 これでかなりのところ、今すぐ魔獣の襲来があっても対処できるんじゃないか、と父は男たちと話していた。

 翌日の朝食後、父はあたしを抱いて家を出た。
 何処へ行くのか訊くと、「村長の家だ」との答えが返る。
 村長ホラーツの家では囲炉裏端に家長が座り、脇でホルガーとヨーナスが転げ回って遊んでいた。ロミルダは台所で後片づけらしい。
 床に下ろされたあたしが這っていくと、わああ、と機嫌よくヨーナスが迎えてくれた。
 招かれて、父はホラーツの向かいに胡坐をかく。

「考えたんだがな、もう数年ほどこの村にいさせてもらおうと思う」
「それは願ってもねえ、ありがたいこったが。考えたってことは、何か理由ができたってことかい」
「うむ。少しこっちの事情を聞いてもらいたいんだが」
「ああ、聞こう」
「前にも言ったように俺は、このフンツェルマン侯爵領の領都ウェッセルで長いこと魔狩人をやっていたわけだが、元はこの西のケッセルリンク伯爵領の出でな。父親が騎士爵で、伯爵に仕えていた。その父が死んでもう家もないんだが、知り合いは何人か残っている。ウェッセルで魔狩人仲間が廃業して、俺も一緒に住んでいた女が出産のときに命を落として、ということが重なったんで、伯爵領を目指して出てきたわけだ」
「なるほど、故郷に帰って子どもを育てようってわけかい」
「ああ。あそこでは入植者を募集しているし、その辺りに知り合いの年寄りがいるんで育児の相談にも乗ってもらえるかと思ってな」
「なるほどな。しかしその気が変わったのかい」
「うむ」

 頷いて、父は遊んでいるあたしの方を見た。
 あたしはヨーナスと並んで、布の鞠をホルガーに向かって投げ、投げ返してもらい、と遊んでいる。
 台所仕事を終わったロミルダが少し離れて座り、見守ってくれている。

「いや、最近気がついたんだがな。親の欲目かもしれんがうちの娘、かなり賢いんじゃないかという気がするんだ」
「そうなのかい」

 ホラーツは、苦笑いの顔。それこそ親の欲目だろうと笑い飛ばしたいのを堪えているみたいだ。
 そこへ、ロミルダが口を入れた。

「それがさ、お義父さん。ライナルトの親馬鹿だけじゃないみたいなんだよ。このイェッタちゃん、ここしばらくであっという間に言葉を覚えて喋れるようになっちゃってさ」
「そうなのかい」
「ここ何日か、女の子たちに絵本を読んでやっているんだけどね、ちゃんと分かって聞いているみたいだし。どうかすると自分で本を開いて読みたそうにしているくらいでさ」
「それは確かに、早いな。まだ一歳にならないんだったろう」
「そうなのさ。それどころじゃなく昨日なんて、何か魔法の使い方について意味のあるみたいなこと言い出しているし」
「それは昨日も聞いたが、さすがに気のせいじゃないのか」
「お義父さんは実際に聞いてないから分からないかもしれないけどさ、そんなもんじゃなかったよお」
「ふうん」
「それはともかく、だからさ。イェッタちゃんが賢いのは、まちがいないみたいなんだよ」
「そうなんかい」

 頷いて、ホラーツは父の方に顔を戻している。
 頷き返して、父は続けた。

「まあ、将来的にどうなるか分かったもんじゃないけどな。とにかくこの子にそんな素質みたいなもんがあるなら、伸ばしてみたいと思う。だとすると、何て言うんだ。特に女の子に教育みたいなのを受けさせようとすると、ケッセルリンク伯爵領ではそういうものがない。最低こちらの領都ウェッセルか王都のようなところじゃないと」
「それは、そうかもしれないな」
「伯爵領の入植地に入っちまうと、こっちに出てくるだけで半月以上かかっちまうからな。このドーレス村からだと、ウェッセルまで三日、王都まででも十日程度なわけだから。この村で数年娘を育てて、遠出ができるようになったらそちらに向かおうと思うんだ」
「なるほど。もっともなこったな」

 ホラーツは何度も頷いている。

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