日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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6.向かうべき未来

軍刀と白紙

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1942年(昭和17年)3月初旬
新京・関東軍司令部――特別戦略会議室。

薄明かりの会議室に、重厚な軍服の男たちが並ぶ。
中央には、14歳の少年――蒼月レイが立っていた。

会議の冒頭、満州国の統治構造に関する見直し提案が読み上げられる。

「……要するに、我々軍が築いてきた“安定”を捨て、土着民族とテーブルを囲めというのか?」

そう口火を切ったのは、関東軍参謀長・土肥原賢二。彼の眼光は、まるで敵を見るようにレイを射抜いた。

「その“安定”は、“不満を押し殺す力”によって保たれているに過ぎません」

レイは一歩も退かずに言い切った。

「関東軍が現地を支配して以来、満州国は“独立国家”ではなく“日本の前線基地”として存在してきました。
だがその構造は、時間が経つほどに腐敗し、民意を削り取っていくのです」

「民意? 笑わせるな。奴らが我々に勝てるとでも?」

「いいえ。勝てません。ですが、憎しみは積み上がり、銃ではなく思想によって火薬庫になる。
“日本に協力した者こそ裏切り者”という感情が、一度広まれば、我々が築いた協力体制そのものが崩壊する」

レイは、卓上の資料を手に取った。

「現時点で、満州国民のうち日本軍に対して肯定的な意見を持つ割合は、約38%に留まっています。
この数字は、2年前には52%を超えていた。つまり、関東軍が“支配”を強めるほど、“信頼”は減っている」

ざわめきが走る。

「さらに付言すれば、我々が用いる“満州語教育の統制”や“土地収用”は、一見制度的に成功しているように見えて、
根底では民族的怨念を生んでいます。」



ここでレイは言った。

「……私は、満州国を“独立国家”にはしません。
ですが、“植民地”にもしたくありません。
私の構想は、“連邦構造”です」

「連邦構造?」

「はい。“日本を中心としたアジア共栄圏”という構想のもと、
満州国を、日本が盟主となる“平等協議制”のモデル国家とし、
これを軸に中国・朝鮮・蒙古・台湾・インドシナと“思想による連結”を構築していくのです」

「……空論だな」

土肥原が低く吐き捨てる。

「なぜ我々が、既に従わせている民族に“対等”を演じる必要がある?」



レイは、懐から一冊の小冊子を取り出した。
タイトルは――

『民族自決論と帝国存続の条件』

彼が静かに語り始める。

「帝国という言葉は、もはや“軍による支配”では持ちません。
世界は“影響力の帝国”に移行しています。
経済力、情報、思想、尊敬――これらによって他国を動かす“精神的帝国”こそ、これからの世界の覇者となる」

「……精神的帝国だと?」

「私は未来を見ています。軍事によって支配された帝国は、全て滅びました。
オスマンも、ナポレオンも、清も。例外はない。
だからこそ、私たちは“日本が盟主であることを誇りに思われる構造”を作らなければならない」

そして、決定的な言葉を投げかけた。

「……軍による支配は、“占領”です。
日本が目指す主導は、“信頼”による連邦化です。
“占領”は敵を増やし、“信頼”は味方を増やす。
いま我々が選ぶべき道は明白です」



土肥原は黙った。

長い沈黙の末、彼は低く言った。

「……貴様の論は、理屈の上では通っている。
だが、我々が積み上げてきた“戦友の死”はどうする。
この地に流れた日本の血を、ただ“平等”という言葉で薄めるのか」

レイは初めて一歩近づいた。

「だからこそ、この構想の“盟主”は日本です。
それを支えるのが、戦場に散った日本人の“記憶”であり、“理念”です。
この構想は、彼らの死を“奪うための戦争”ではなく、“導くための礎”に変えるものです」

――その瞬間、誰もが、黙った。

やがて、土肥原はゆっくりと立ち上がり、背筋を正した。

「……構想案、持ち帰らせてもらう。
だが忘れるな。理念が軍刀を制するには、覚悟が要る」

レイは頷いた。

「その覚悟なら、もう持っています」
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