日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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17.世界を結ぶ手

巨人の足音

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1942年11月3日。文化の日。

東京・霞ヶ関。帝国経済戦略本部本庁舎──
午前8時、通常より早く開かれた特別会議には、各省庁から選抜された経済官僚や財界の若手、さらには軍需部門からも幹部が列席していた。

この日提出された議題はただ一つ。

「日本が世界第二位の経済大国として、今後どのように地位を強化するか」

そして、その中央に座すのは、十四歳の少年——蒼月レイ。

「この会議の目的は、ただの自慢でも、目標設定でもありません」

レイの口調は静かだった。しかし、その声には、誰にも抗えぬ「現実」がこもっていた。

「私たちは、もはや“追いかける側”ではない。アメリカを除けば、いま世界で最も経済力のある国が、ここです」

無言のうちにうなずく出席者たち。
イギリスとフランスは本土が戦火に巻き込まれ、イタリア・ドイツは軍事優先で経済が崩壊寸前。ソビエト連邦もまた、国民を軍需に総動員しており、民間向けの消費財やインフラ整備はほぼ停止していた。

一方で、日本は、戦火を免れたまま、アジア諸地域と共に“生きている経済”を育てていた。

レイは、机上の大地図に視線を落とした。

「これは、私たちがこの一年で積み上げた“地盤”です。
本土の工業力、満州の資源と人材、朝鮮の鉄道と港湾、台湾の農業力。インドシナでは教育制度も始動しました。
そして……これからは“消費する力”を育てる段階に入ります」

官僚の一人が首をかしげる。

「消費……というと、内需のことですか?」

「そうです」
レイは即答した。

「経済は、数字ではなく“幸福の体験”に還元されなければ意味がない。
この国で働く人々、統治下の人々、教育を受ける子供たち──彼ら一人ひとりが、“より良い明日”を感じられたとき、経済成長は本物になります」

その言葉に、誰もが神妙な面持ちになる。

「つまり……我が国の未来を支えるのは、大砲ではなく台所と学校、ということですか」

「正確には、“その両方を制した者が未来を取る”ということです」

レイは表情を変えずに言った。

会議室に緊張が走るなか、レイは話題を変えた。

「ただし、我々はアジアだけを見るべきではありません」

再び広げられた地図の右上。
そこにあったのは、傷ついたヨーロッパだった。

「今、ヨーロッパは戦争の只中にあります。復興はまだ始まってもいない。
ですが──彼らは必ず復活します」

言い切ったその声に、数名が身を乗り出す。

「理由は三つあります」

レイは指を立てながら、間を取って続けた。

「一つ、ヨーロッパ諸国には今なお豊かな文化資産と教育基盤があること。
二つ、植民地との関係が再構築されれば、再び資源供給の経路を持てること。
そして三つ──“敗戦”によって、一時的に労働力コストが著しく低下するからです」

「……つまり、今ではなく“戦後直後”が、最大の投資チャンスになる?」

財務官僚の一人が思わず声を漏らす。

レイは、深くうなずいた。

「ええ。復興に着手する直前の数年間、ヨーロッパ全域の土地、技術、企業が“低く評価される”タイミングが来る。
そのときに、日本資本が入る余地は必ずあります。しかも、我々はもはや“戦争加害国ではない”ので、道義的反発も受けにくい」

会議室内でどよめきが起きる。

レイは続けた。

「アジアで共栄を築き、ヨーロッパの復興に備え、世界全体に“信頼される経済国家”として日本を確立する。
それが、次の10年で私たちが果たすべき役割です」

その瞬間、重苦しかった会議室に、わずかな風穴が開いたような空気が流れた。

「成長とは、上へ上へと積み上げることではありません。
積み上げたものを“誰と分かち合うか”を選ぶことにこそ、本当の強さが宿る」

会議が終わるころには、日が高くなっていた。
彼の言葉は、列席者たちの胸に、深く静かに刻まれていた。

——この国は、経済の力で未来を掴もうとしている。
そして、その舵を取るのは、十四歳の少年なのだ。

外に出たレイは、凛とした秋風の中で目を閉じた。

「……“金”は血に染めるな。
けれど、“未来”には使える。私が、それを証明してみせる」

その決意だけが、彼の胸に、確かな熱を灯していた。
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