日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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17.世界を結ぶ手

アジアの心臓部

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1942年11月6日。
東京・帝国経済戦略本部 別館第二会議室。

「……まずは、胃袋と足元からだ」

蒼月レイのその言葉に、参列した各地域統括官らは一瞬、意味を測りかねたようだった。

だが、続けて彼が示したプレゼン資料の中に、それは明確に表現されていた。
“満州・台湾・朝鮮半島・東南アジアにおけるインフラ・食糧・生活支出比率分布”——

それは数字ではなく、生活だった。

「内需というのは、ただの購買力ではない。
腹が満ちていること、道が整っていること、病気を治せること、学べること。
それが揃ってこそ、“経済”という歯車が日常の中で動き出す」

壁に映し出されたスライドには、台湾の農村部、朝鮮の炭鉱地域、満州の学校不足地帯などが、色分けされて示されていた。

「ここが、我々が次に手をつける“アジアの心臓部”です」

レイは、胸の中心をトントンと指で叩いた。

「機関車を走らせても、線路がなければ意味がない。
だから、鉄道、道路、電力網の整備を最優先に行う。特に、満州の東部と、台湾南部、朝鮮北部には、重点投資を」

通信省から派遣された若手官僚が手を挙げた。

「教育や医療は後回し、ということでしょうか?」

レイは首を振った。

「逆です」

すっと、彼の目が鋭くなる。

「学校と病院は、“投資対象”ではなく、“国家の心臓”です。
まず五年以内に、各地に小学校と衛生診療所を普及させる。
文字が読めて、病気で死なない。それが、“文明圏”としての第一歩です」

静まりかえる会議室。レイは手元の資料を一枚抜き取る。

「この紙に書いてあるのは、台湾・高雄の農村地帯の子どもたちのデータです。
五人に一人が小学校に通っていない。三人に一人が五歳未満で赤痢に感染している。
これを放置して、我々が経済大国を名乗れると思いますか?」

誰も何も言えなかった。
彼の語る“経済”は、現場の土と人に根差していた。

「……日本の繁栄だけでは、もう足りない。
我々が手にしているのは“帝国”という構造だが、私はそれを“共栄体”へ変えたい」

そのとき、朝鮮統括局の代表が意を決して口を開く。

「ですが蒼月様、現地の反発もあります。教育や医療の導入は、必ずしも歓迎されません」

「理解しています」

レイは冷静にうなずいた。

「だからこそ、“押しつけない”。
各地域には、その土地の風習、言語、誇りがある。
我々は、“与える側”ではなく“支える側”として、静かに背中を押せばいい」

彼の発言には、日本の従来の「支配の構図」と決別する意志が滲んでいた。

「帝国が一方的に“導いてやる”などという考えは、長くは持ちません。
必要なのは、“自ら選ばせる余地”です。そのための環境整備を、我々が裏側から整えるんです」

午後になると、会議はより具体的な政策協議へと移った。
レイが提案した主な施策は以下の五項目だった。



【帝国内需拡大・五大柱案】
1. 満州東部:鉄道網の整備拡張(軍用優先から民間物流へ)
2. 台湾南部:農業機械の導入支援と小規模貸付制度の創設
3. 朝鮮北部:鉱山労働地域における衛生環境の抜本改善
4. 共通施策:5年間で1000校の初等教育機関(公設小学校)設置
5. 医療:各地に基礎診療所を配置、医師・看護師育成制度の確立



これらは、短期的な軍需景気ではなく、**長期的かつ持続可能な“生活経済圏”**を築くための施策だった。

「利益は数年後から出始めるだろう。だが、今やらなければ、我々は“帝国の墓守”になる」

レイの言葉に、誰もがただ黙って頷いた。

その夜、レイは官邸の書斎に戻っていた。
資料に目を通しながら、ひと息つく。

窓の外では、東京の夜景が静かに瞬いていた。
高層ビルはまだない。だが、その地平には確かに“未来の灯”があった。

「……次は、“貨幣”と“情報”か。生活の次に、信頼を築く道具が必要になる」

彼はペンを取り、次の議題をノートに記した。

《帝国通信網構築案》

経済とは、血脈のようなものだ。
止まらず、巡らせなければ、腐る。

レイは最後に一行、こう書き記した。

──この心臓部を、絶対に止めるな。
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