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19.理想への試練
波紋
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1943年1月4日。
新年の空は晴れわたっていたが、日本各地には微かな動揺が波のように広がっていた。
その中心にあるのは、蒼月レイの描いた“新制度”──
公共代表制による第二院の発足と、再調整された衆議院制度である。
それは、国民の熱烈な支持と、天皇の後ろ盾を得て、確かに動き始めていた。
だが、動かぬ者たちも、いた。
⸻
東京・霞ヶ関。厚生省内の一室。
「……これは“理想”ではあるが、現場に無理がかかりすぎている」
中年の官僚が、机に叩きつけるように書類を置いた。
そこには、地方に設置された公共代表推薦委員会の初期報告が並んでいた。
「誰が“代表にふさわしいか”なんて、地域ごとに考えが違いすぎるんだよ。
特に北関東と九州では、“村の顔役”がそのまま上がってきてる。古い慣習の焼き直しじゃないか」
別の若手官僚が口を挟んだ。
「でも国民は歓迎してます。とくに女性や農村部の声が制度に入ったことで、支持率は急上昇中です」
「問題は“政治”がその波に乗れていないことだ。
中央省庁の対応が遅れれば、“民意”と“行政”がねじれるぞ」
⸻
一方、東北地方のとある町役場。
公共代表の選出過程を任された担当者が、頭を抱えていた。
「候補者が2.人いて、2人とも人格も経歴も申し分ない……だが、村が真っ二つに割れてしまった」
「今までは“国から来た命令”で済んでいた。だが今は、“誰に託すか”を問われる。
民が、自分の責任で政治に関わる……それがどれほど重たいか、ようやく分かってきた」
それは、制度が真に“民の手に降りてきた”ことの証でもあった。
⸻
東京・帝国議会。
新たに選出された公共代表たちが、初めて議場に集結した日。
その場に立ち上がったのは、北海道の酪農代表・五十嵐勝男だった。
「我々は、票ではなく、責任をもってここに来た者たちです。
ならば、ただの“意見陳述者”で終わってはなりません」
「私たちが本当にこの国を変えるためには、“実行”に踏み込む胆力が必要です。
そしてそれを可能にするのは、我々を信じてくれた“民の期待”そのものです」
拍手が起こる。
若き医療代表の女性が立ち上がる。
「私は、かつて国政が病院に何の関心も示さなかった日々を覚えています。
でも今、この場で、命の現場を語ることが許された──
ならば、必ず届けます。“医の言葉”を、“政の言葉”に」
⸻
だが、その熱気を冷笑する声も、あった。
ある新聞は、論説欄でこう記した。
『政治は遊びではない。
制度に情熱は必要だが、情熱だけで動けば、理性を失う。
十五歳の少年が理想に酔い、国家を導く姿に、国民は何を感じているのか──
盲目的な崇拝は、やがて“神話”の暴走に変わる』
この記事は、数日で全国に波紋を広げた。
“神話に依存する国”、“少年政治”、“感情国家”──
揶揄と警鐘の言葉が、次第に“現実派”と“改革派”の間に亀裂を生みはじめた。
⸻
そんな中、蒼月レイは、あくまで冷静だった。
「反発があるのは当然です。ですが、揶揄や抵抗は、“届いている証拠”でもある」
帝国戦略本部の会議室で、参謀が問う。
「では、次にどう動きますか?」
レイは、一枚の地図を机に広げた。
「地方です。次は、地方自治そのものを“生きた制度”に変える段階に入ります」
「中央が制度を作り、地方が形だけを真似る──そんなやり方では、もう未来は拓けません」
「各県に“地方改革代表会議”を設け、民から選ばれた改革官を各地に派遣する。
目的は、現場に“自分たちで制度を運用する”意識を根付かせることです」
その言葉に、参謀たちは息を呑んだ。
これは制度ではない。
“革命”だ──静かで、血を流さぬ、だが確かな構造的革命だった。
⸻
その夜、首相官邸。
重鎮たちが集まる秘密会議の席で、ある人物が声を潜めて言った。
「──レイ殿は、このまま進まれるつもりか?」
「陛下の御信任があり、国民の支持も厚い……止められるか?」
「いや、今は止めぬ。だが……制御する手段は、必要だろう」
「放っておけば、“あの少年”は、もはや“制度”を超える」
会議室の窓の外、冬の闇が深く広がっていた。
⸻
そしてその頃──
レイは一人、書斎で地図を見つめていた。
北の地、北海道。南の島、九州。
中部地方の山間部、関東の旧市街。
「制度の導入は終わった。でも、これからが始まりだ」
その言葉は誰に向けたものでもなく、
ただ、静かに書かれた日記の一頁に綴られた。
「私は、理想を掲げた。
でも今は、それを“届ける”方法を考えている」
その手はわずかに震えていた。
疲労は、確実に身体を蝕み始めていた。
だが、少年の背には、まだ“国”が乗っていた。
新年の空は晴れわたっていたが、日本各地には微かな動揺が波のように広がっていた。
その中心にあるのは、蒼月レイの描いた“新制度”──
公共代表制による第二院の発足と、再調整された衆議院制度である。
それは、国民の熱烈な支持と、天皇の後ろ盾を得て、確かに動き始めていた。
だが、動かぬ者たちも、いた。
⸻
東京・霞ヶ関。厚生省内の一室。
「……これは“理想”ではあるが、現場に無理がかかりすぎている」
中年の官僚が、机に叩きつけるように書類を置いた。
そこには、地方に設置された公共代表推薦委員会の初期報告が並んでいた。
「誰が“代表にふさわしいか”なんて、地域ごとに考えが違いすぎるんだよ。
特に北関東と九州では、“村の顔役”がそのまま上がってきてる。古い慣習の焼き直しじゃないか」
別の若手官僚が口を挟んだ。
「でも国民は歓迎してます。とくに女性や農村部の声が制度に入ったことで、支持率は急上昇中です」
「問題は“政治”がその波に乗れていないことだ。
中央省庁の対応が遅れれば、“民意”と“行政”がねじれるぞ」
⸻
一方、東北地方のとある町役場。
公共代表の選出過程を任された担当者が、頭を抱えていた。
「候補者が2.人いて、2人とも人格も経歴も申し分ない……だが、村が真っ二つに割れてしまった」
「今までは“国から来た命令”で済んでいた。だが今は、“誰に託すか”を問われる。
民が、自分の責任で政治に関わる……それがどれほど重たいか、ようやく分かってきた」
それは、制度が真に“民の手に降りてきた”ことの証でもあった。
⸻
東京・帝国議会。
新たに選出された公共代表たちが、初めて議場に集結した日。
その場に立ち上がったのは、北海道の酪農代表・五十嵐勝男だった。
「我々は、票ではなく、責任をもってここに来た者たちです。
ならば、ただの“意見陳述者”で終わってはなりません」
「私たちが本当にこの国を変えるためには、“実行”に踏み込む胆力が必要です。
そしてそれを可能にするのは、我々を信じてくれた“民の期待”そのものです」
拍手が起こる。
若き医療代表の女性が立ち上がる。
「私は、かつて国政が病院に何の関心も示さなかった日々を覚えています。
でも今、この場で、命の現場を語ることが許された──
ならば、必ず届けます。“医の言葉”を、“政の言葉”に」
⸻
だが、その熱気を冷笑する声も、あった。
ある新聞は、論説欄でこう記した。
『政治は遊びではない。
制度に情熱は必要だが、情熱だけで動けば、理性を失う。
十五歳の少年が理想に酔い、国家を導く姿に、国民は何を感じているのか──
盲目的な崇拝は、やがて“神話”の暴走に変わる』
この記事は、数日で全国に波紋を広げた。
“神話に依存する国”、“少年政治”、“感情国家”──
揶揄と警鐘の言葉が、次第に“現実派”と“改革派”の間に亀裂を生みはじめた。
⸻
そんな中、蒼月レイは、あくまで冷静だった。
「反発があるのは当然です。ですが、揶揄や抵抗は、“届いている証拠”でもある」
帝国戦略本部の会議室で、参謀が問う。
「では、次にどう動きますか?」
レイは、一枚の地図を机に広げた。
「地方です。次は、地方自治そのものを“生きた制度”に変える段階に入ります」
「中央が制度を作り、地方が形だけを真似る──そんなやり方では、もう未来は拓けません」
「各県に“地方改革代表会議”を設け、民から選ばれた改革官を各地に派遣する。
目的は、現場に“自分たちで制度を運用する”意識を根付かせることです」
その言葉に、参謀たちは息を呑んだ。
これは制度ではない。
“革命”だ──静かで、血を流さぬ、だが確かな構造的革命だった。
⸻
その夜、首相官邸。
重鎮たちが集まる秘密会議の席で、ある人物が声を潜めて言った。
「──レイ殿は、このまま進まれるつもりか?」
「陛下の御信任があり、国民の支持も厚い……止められるか?」
「いや、今は止めぬ。だが……制御する手段は、必要だろう」
「放っておけば、“あの少年”は、もはや“制度”を超える」
会議室の窓の外、冬の闇が深く広がっていた。
⸻
そしてその頃──
レイは一人、書斎で地図を見つめていた。
北の地、北海道。南の島、九州。
中部地方の山間部、関東の旧市街。
「制度の導入は終わった。でも、これからが始まりだ」
その言葉は誰に向けたものでもなく、
ただ、静かに書かれた日記の一頁に綴られた。
「私は、理想を掲げた。
でも今は、それを“届ける”方法を考えている」
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だが、少年の背には、まだ“国”が乗っていた。
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