日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

文字の大きさ
76 / 120
19.理想への試練

暁の休息

しおりを挟む
──東京・帝国大学構内、1943年1月19日。

冬の陽射しが差し込む診察室。
蒼月レイの顔色は明らかに悪く、白衣の医師たちは互いに目配せをした。

「これは……危険水域です」

主治医の報告は簡潔だった。

「心拍の不整、栄養不足、睡眠時間の著しい欠如。
このまま公務を続ければ、次は倒れるだけでは済まない可能性があります」

レイは無理に笑った。

「……そんなに、やつれてますか?」

だが、それに答える者はいなかった。



「殿下。私たちは……あなたを、休ませるべきだと判断しました」

帝国戦略評議会の面々が、全員で頭を下げた。

レイは眉をひそめる。

「ここで私が抜けたら、誰が舵を取るんです。
……旧勢力は、まだ動いている」

その言葉に、一人の男が静かに口を開いた。
憲兵総監──樋口中将。

「ご安心ください。既に我々は、裏で不正蓄財を行っていた財界人6名、官僚3名、元陸軍人2名を拘束済みです。
全て、法と証拠に基づいての措置です」

さらに別の参謀が続ける。

「殿がお休みの間に、我々が膿を出しきります。
これは、貴方が作ってくれた“秩序”を守るための戦いです」

レイの視線がわずかに揺れる。

「……私を狙った暗殺未遂も、その一環か」

「はい。裏には、政財軍にまたがる残存勢力が絡んでいます。
だが、もう逃がしません。貴方がいない間に、すべて片をつけます」



その夜。御所から、陛下の勅語が届けられた。

「レイよ。そなたが斃れては、国の柱が折れる。
そなたは剣であり、灯であり、導き手である。
それゆえにこそ、今は“生きる”ことを選べ」

それを読み終えたレイは、静かに息を吐いた。

「……わかりました。
では、私が“戻る場所”を、頼みましたよ」



──1943年1月20日。帝都・東京駅。

プラットフォームには、無言で立つ政府高官、秘書団、そして警備部隊。

民衆には公表されていないが、レイが南方静養に赴く日である。

厚手の白いコートに身を包んだ少年は、誰よりも静かだった。
その瞳に宿るのは、“去る者”ではなく、“再び帰る者”の覚悟。

列車に乗り込む直前、重臣の一人が口を開く。

「ハワイには、外務省が確保した専用施設があります。
米国との共同警備体制も敷かれており、完全な安全が保証されます」

「……日本にいたら、私はまた机に向かってしまうでしょうからね」

レイは苦笑し、続けた。

「それに、ハワイという選択は……アメリカとの“信頼”を世界に示す意味もある」

「仰るとおりです。
貴方の静養そのものが、“未来の外交”の証になるのです」

汽笛が鳴る。

「行ってきます」

小さく告げたその一言に、誰もが黙って頭を下げた。



──ハワイ・オアフ島、1月21日

波の音。風の音。鳥の声。

真珠湾の奥に構える白い別荘地に、蒼月レイが降り立った。

そこは、すでに特別警備体制が敷かれていた。
警備兵、医療班、そして日本政府から派遣された信頼の置ける秘書官たち。

「ここが、私の“牢獄”ですか」

冗談めかして呟くレイに、側近が笑った。

「いえ、“再生の巣”です。
殿下にしか守れない国のために、ここで心と体を養っていただきます」

レイは空を見上げた。
広がる青。眩しい陽光。日本とは違う時間の流れ。

「……戦いは終わっていない。けれど……
今だけは、“生きること”を優先しよう」

そう呟いた時、ふと――
別荘の先にある図書館のベランダに、一人の少女の姿が見えた。

静かに本を読み、微笑みを浮かべるその少女の名を、レイはまだ知らない。

だがそれは、新たな運命の始まりだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

処理中です...