日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

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23.世界を結ぶ声

理想の輪郭

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1943年3月15日。
東京帝国大学附属研究棟の一室にて、蒼月レイは一枚の図を壁に掲げていた。

それは、世界地図。だが、通常とは異なる分類がなされていた。国家の枠ではなく、経済圏・言語圏・文化圏・インフラ網のつながりで色分けされた地図だった。国境を無視し、人間の“営み”がどこでどう結びついているかを示す、彼の作図だった。

「先に国境を引くから争いが生まれる。世界を見る上で国境は無視して考えよう」

レイは呟くように言い、側に立つ結城桜に視線を向けた。

「素晴らしい考えね……私たちが目指す“平和”って、ただ戦争がない状態じゃないんだよね?」

桜はその目をまっすぐに地図へ向けた。

「うん。“誰かを脅す必要のない豊かさ”。そして“力ではなく信頼で結びつく秩序”。それを形にしよう」

レイは頷いた。彼がいま取り組んでいるのは、戦後を見据えた国際秩序の設計──つまり、第二次世界大戦後の「新たな国際連盟」の草案づくりだった。



「平和を維持する仕組みとしての“組織”が必要だ。だけど、旧来の国際連盟は理想を掲げるだけで、実効力に乏しかった。だから僕は、三つの柱を立てる」

レイはスライドの操作端末を操作し、桜の前に三つの図解を映した。

一つは、国際協調の強化。
一つは、経済安全保障。
そして一つは、倫理的な戦争抑止機構。

「戦争の種は“恐怖と貧困”だ。ならば、その二つを解消する構造を最初から制度化してしまえばいい」

「……倫理的な抑止って?」

「簡単に言えば、“人道に対する罪”を未然に止める国際的な枠組み。たとえば、各国の内部で起きる虐殺や迫害に対して、国際的な介入が可能になるようにする。もちろん、そのためには法的根拠と信頼の土台が必要だ」

桜はしばし黙考し、やがて静かに言った。

「素晴らしい未来だね…」

レイはわずかに微笑んだ。

「だから、ひとつでも多く“実験”を日本で成功させる必要がある。日本がモデル国家として機能すれば、それを見た国々は真似する。そして“平和の連鎖”が起きる」



その夜、レイは執務室の書棚から一冊のファイルを取り出した。

《未来秩序構想草案 Ver.1.0》と書かれたその書類は、すでに十数回の修正が施された形跡を残していた。

彼は一枚ずつ紙をめくる。そこには、新たな国際組織の名称も、各加盟国の投票権構造も、緊急介入に関する規定も、すでに書き込まれていた。

「理想は絵空事だと言われる。でも、それを現実にするのが僕の役割だ」

窓の外を見ると、東京の夜景が広がっていた。その光の海は、今のレイには、ただの夜景ではなく、"未来を照らす光"に見えた。



翌朝。
帝国官邸にて、レイは各省庁から集められた若手官僚を前に語っていた。

「私たちは世界に向けて、“戦後”という空白をどう埋めるかを示さなければなりません。戦争に勝つだけでは不十分なのです。その後の“秩序”を用意できなければ、また次の破壊が始まるだけです」

「では、どう秩序を築くのか?」

その問いに対し、レイは指を三本立てた。

「国際市場の再統合、戦後復興支援の枠組み構築、そして世界規模の教育ネットワークです」

彼は続けて言った。

「教育は国家を作ります。思想も文化も伝えるのは教科書です。次の世代が戦争を知らぬ子どもであるならば、最初に出会う“世界”が争いではなく、協調であるように整える。それが我々の義務です」

会場は静寂に包まれ、やがて一人、また一人と頷いていった。



その日の夕刻。
レイは桜と共に帝国庭園の一角にいた。夕陽が彼らの影を長く落とす。

「……ねぇ、レイ。あなたが描いているこの“輪郭”、本当に実現できると思う?」

桜の声は優しかった。だが、それは問いの本質を揺るがす鋭さを持っていた。

レイは答えた。

「できるかどうかじゃない、やらなきゃいけない。僕がやる。他に誰がやる?」

桜は微笑み、彼の手を握った。

「じゃあ、私もやる。あなたがその未来を導くなら、私はそれを支える」

ふたりは目を合わせた。

理想は輪郭を持ちはじめていた。
それはまだ線に過ぎない。だが、その線は、やがてこの世界を塗り替える色になる。
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