日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

文字の大きさ
95 / 120
24.世界秩序の建築者

導かれし声

しおりを挟む
1943年4月1日、東京。

春の気配が漂うなか、国会議事堂の大理石の階段を、少年はゆっくりと昇っていく。蒼月レイ――十五歳の特命全権代表は、黒の詰襟に身を包み、凛とした姿で扉をくぐった。

この日、臨時国会が開かれた。

議題は二つ。
第一に、占領地経済圏における民間経済組織の法整備。
第二に、新憲法草案に基づく制度改革の説明。

議場に集まった議員たちは、もはやレイをただの“少年”とは見ていなかった。その姿は、国家の中心にある“頭脳”であり、同時に“羅針盤”だった。

レイは演壇に立ち、ゆっくりと語り出した。

「我々が進めてきた戦後の経済計画は、今や民衆の生活に実感をもたらしています。しかし、制度が追いついていません。古い体制では、もうこの国を支えきれないのです」

その口調は静かでありながら、決意に満ちていた。

「政治に携わる我々の義務は、民の意思を聞くこと……そして、導くことです」

議場に沈黙が流れた。誰もが、その「導く」という言葉に、わずかに眉を動かした。

——それは、つまり「民意の先導」を意味していた。

しかし、その沈黙を破ったのは、議員ではなかった。

レイが議場を出たあと、国会に併設された応接室で彼を待っていたのは、結城桜だった。

「レイ、今日の演説で気になったんだけど……ひとつ聞かせて」

レイは頷く。

「どうした?」

「“導く”って言ったよね?それってつまり……“操る”って意味じゃないの?今の日本って、本当に“民が選んでる”のかな?
それとも、“あなたが信じている未来”を、みんなが信じてるだけ……?」

彼女の言葉には、非難の色はなかった。ただ、真剣なまなざしがあった。

レイは数秒の沈黙の後、答えた。

「……君は、操られていると思う?」

桜はふっと笑った。

「まさか。むしろ、自分で考えて、君の意志に共鳴してるって感じ」

レイは少し視線を落とし、言葉を選ぶように答えた。

「民意というのは、すべてを把握して形成されるものじゃない。多くの人は、目の前の生活に基づいて判断する。でも僕は、十年後、二十年後の未来を考えている。だから先に“思想”を打ち出す。それに賛同が集まる。」

「それが……“民意と一致している”ってこと?」

「そう。僕は民意を“つくる”ことはしない。でも、民意が向かう先に“道しるべ”を立てることはする」

桜は頷いた。

「つまり、レイの思想と民意が一致する構造って、“結果”としての一致なんだね。民衆の意思が、後から追いかけてくる……」

「だから責任がある。僕の思想が間違っていたら、民意を誤らせることになることになるかもしれない。それを自覚した上で、進むしかない」

その言葉には、少年の背負う“国家の重み”があった。

桜はふと、窓の外に目を向けた。青空が広がっている。その空の向こうにあるのは、民の暮らし。笑い声。悩み。不安。希望。

「……ねえ、レイ」

「ん?」

「君は、どこまで“人間”でいられる?」

レイは答えなかった。ただ、微笑を浮かべた。

——その微笑みは、少年のままの彼と、国家の行く末を背負う彼の間に立つ、儚い均衡を象徴していた。



夜。自宅の書斎。

レイは一人、原稿用紙に万年筆を走らせていた。

《民主主義とは、民の声が正しいとは限らないという前提から出発する。そして、それでもなお“声”に力を与え、社会を築こうとする試みである》

それが、彼の次なる構想の冒頭文だった。

今、民の声はレイを支持していた。
だが、それが永遠に続くとは限らない。
だからこそ、制度に昇華させるのだ。
人ではなく、「構造」で国を導けるように。

レイは目を閉じた。

「……次は、“教育”だな」

民が自ら考え、選び、未来を築くために。

いつの日かレイが導くのではなく、“ともに歩む”国を。

彼の目に、また一つ新たな光が宿った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年夏まで執筆

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

処理中です...