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25.新世界の鼓動
灯を点す者たち
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1943年4月、スイス・バーゼル近郊――
その日、厚い雲がアルプスの麓に垂れ込め、春の光は抑えられていた。だが、その陰翳のなかで、一つの会合が静かに始まろうとしていた。
場所は、歴史ある修道院の一室。外部の目を完全に遮断できるその場所に、五人の人物が集まっていた。
日本から、特命全権代表・蒼月レイ。
ドイツから、亡命中の哲学者カール・ヤスパース、政治学者ヴァイツゼッカー兄弟、宗教哲学者パウル・ティリッヒ、そして反ナチ運動で知られた若き神学者ディートリヒ・ボンヘッファー。
彼らの集いは、ただの思想家の語らいではない。第二次世界大戦の終焉を見据え、「ナチスのないドイツ」「自由と理性に基づくヨーロッパ」の未来を描くための、極秘の“思想会議”であった。
⸻
「君が、日本の――いや、アジアの未来を導く者だとは、報道で見ていたが……実際にこうして会うと、まるで神話の中の少年だな」
そう言ったのは、ヤスパースだった。灰色の瞳がレイを見据える。だがそこには、猜疑心ではなく、未来に託す想いが滲んでいた。
「あなた方のような“知の勇者”が今もこの世界にいてくれることに、私は希望を感じます。今日、皆さんと語り合えることを、誇りに思います」
レイは深く頭を下げた。その態度に、ボンヘッファーが静かに頷く。
「我々はナチスに抗いながら、自らの思想で抵抗してきた。だが、それはあまりに微力だった。ドイツという国そのものが、思想の根から侵されてしまった」
「だからこそ、我々は今ここで、“次のドイツ”を語らねばならない」とティリッヒ。
彼らの間にあったのは、共通の問いだった。
――ヒトラー亡き後、ドイツはどうあるべきか。
――ヨーロッパはどこへ向かうべきか。
――そして日本は、その未来とどう向き合うのか。
⸻
「日本は今、欧州復興支援構想“ERSP”を立ち上げようとしています。ただの支援ではありません。これは、未来を“共同設計”するプロジェクトです」
レイが取り出したのは、先日の草案をさらに発展させた文書。その冒頭には、「文明の再建に向けた知の連携」と記されていた。
「復興支援だけでは、未来は作れません。思想の火が消えては、経済も、国家も、腐ります。ですから、皆さんの知恵を必要としているのです」
ボンヘッファーが唇を引き結ぶ。
「日本は、戦争をやめた。ドイツはまだ、それすらできていない。……だが、我々は諦めない。たとえ敗北の果てにあっても、“魂の復興”はできると信じている」
レイは静かに頷く。
「その魂の復興を、世界が支えねばなりません。勝者が裁く“戦後”ではなく、未来を“ともに築く”戦後へ。私はそのために、日本を動かすつもりです」
⸻
会議の終盤、ヴァイツゼッカーが口を開いた。
「ソ連は、この混乱の隙にヨーロッパを自国の影響下に置こうとするでしょう。スターリンの野望は、単なる対ナチス戦とは違う“拡張の戦略”です」
「我々もそれを察知しています。だからこそ、日本が、欧州にもう一つの“選択肢”を示さねばなりません」とレイ。
ヤスパースは静かに言った。
「その選択肢は、自由か、それとも支配か。……日本が“自由”の側に立ち続けるのなら、我々は命を賭けて支援しよう」
少年の目が、鋭く光を帯びた。
「ならば、私は灯を点しましょう。ドイツの暗夜に、ひとつ、またひとつ」
⸻
その夜、レイは一通の書簡をしたためた。
宛先は、アメリカ大統領ルーズベルト。
件名は――「欧州精神支援計画(Cultural Support Initiative)についての要請」
その結びに、レイはこう記した。
「この戦争の終わりは、ただの勝利ではなく、未来の始まりであるべきです。世界が再び希望の灯を取り戻すために、我々は“考える者たち”と手を取り合う必要があります」
テラスの外、バーゼルの夜空に星が瞬いていた。
その光は、焦土の果てに咲く――新たな文明の芽吹きを、照らしていた。
その日、厚い雲がアルプスの麓に垂れ込め、春の光は抑えられていた。だが、その陰翳のなかで、一つの会合が静かに始まろうとしていた。
場所は、歴史ある修道院の一室。外部の目を完全に遮断できるその場所に、五人の人物が集まっていた。
日本から、特命全権代表・蒼月レイ。
ドイツから、亡命中の哲学者カール・ヤスパース、政治学者ヴァイツゼッカー兄弟、宗教哲学者パウル・ティリッヒ、そして反ナチ運動で知られた若き神学者ディートリヒ・ボンヘッファー。
彼らの集いは、ただの思想家の語らいではない。第二次世界大戦の終焉を見据え、「ナチスのないドイツ」「自由と理性に基づくヨーロッパ」の未来を描くための、極秘の“思想会議”であった。
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「君が、日本の――いや、アジアの未来を導く者だとは、報道で見ていたが……実際にこうして会うと、まるで神話の中の少年だな」
そう言ったのは、ヤスパースだった。灰色の瞳がレイを見据える。だがそこには、猜疑心ではなく、未来に託す想いが滲んでいた。
「あなた方のような“知の勇者”が今もこの世界にいてくれることに、私は希望を感じます。今日、皆さんと語り合えることを、誇りに思います」
レイは深く頭を下げた。その態度に、ボンヘッファーが静かに頷く。
「我々はナチスに抗いながら、自らの思想で抵抗してきた。だが、それはあまりに微力だった。ドイツという国そのものが、思想の根から侵されてしまった」
「だからこそ、我々は今ここで、“次のドイツ”を語らねばならない」とティリッヒ。
彼らの間にあったのは、共通の問いだった。
――ヒトラー亡き後、ドイツはどうあるべきか。
――ヨーロッパはどこへ向かうべきか。
――そして日本は、その未来とどう向き合うのか。
⸻
「日本は今、欧州復興支援構想“ERSP”を立ち上げようとしています。ただの支援ではありません。これは、未来を“共同設計”するプロジェクトです」
レイが取り出したのは、先日の草案をさらに発展させた文書。その冒頭には、「文明の再建に向けた知の連携」と記されていた。
「復興支援だけでは、未来は作れません。思想の火が消えては、経済も、国家も、腐ります。ですから、皆さんの知恵を必要としているのです」
ボンヘッファーが唇を引き結ぶ。
「日本は、戦争をやめた。ドイツはまだ、それすらできていない。……だが、我々は諦めない。たとえ敗北の果てにあっても、“魂の復興”はできると信じている」
レイは静かに頷く。
「その魂の復興を、世界が支えねばなりません。勝者が裁く“戦後”ではなく、未来を“ともに築く”戦後へ。私はそのために、日本を動かすつもりです」
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「ソ連は、この混乱の隙にヨーロッパを自国の影響下に置こうとするでしょう。スターリンの野望は、単なる対ナチス戦とは違う“拡張の戦略”です」
「我々もそれを察知しています。だからこそ、日本が、欧州にもう一つの“選択肢”を示さねばなりません」とレイ。
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