日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ

文字の大きさ
108 / 120
26. 世界を照らす知性

ポツダムの影

しおりを挟む
1943年8月下旬。ドイツ敗戦から間もないある日、歴史の転換点となる会談がひっそりと始まろうとしていた。

会場はドイツ・ポツダム郊外のツェツィーリエンホフ宮殿。敗戦後間もない焦土のなかに、荘厳な国際会議の舞台が整えられていた。

そこに集ったのは、世界における戦勝の象徴といえる三人の指導者たち――
アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルト。
ソビエト連邦最高指導者ヨシフ・スターリン。
イギリス首相ウィンストン・チャーチル。

日本はこの会談に招かれていなかった。日本はドイツとの戦争に直接的には関与しておらず、ドイツ占領における権益を主張する立場にないからである。
だが、誰の胸にも、日本の存在は確かに影を落としていた。



「……さて、ドイツという国家の行方を決める時が来たようだな」
チャーチルが葉巻に火をつけながら低く言った。古い木の天井に煙が静かに漂う。

「分割統治が妥当でしょう。ドイツ国民をすぐに“統治”させるには、まだ早すぎる」
スターリンの目は、窓の外の曇り空を見つめている。

「我々は勝った。だが、“どう終えるか”が未来を決める」
ルーズベルトが呟くように語った。

会談は慎重に、そして重苦しく進行していった。

まず議題となったのは、ドイツの分割管理である。三国それぞれが一定地域を占領し、監督するという案が出され、互いに主張を交わす中で、その骨子が練られていった。

「ベルリンはどうする?」
チャーチルが切り込む。

「例外だ。三国で共同管理する」
ルーズベルトが応じると、スターリンも口を挟む。

「それでいい。だが、我々の監督区域は工業地帯を含むよう、再調整を要求する」

三者の間には、すでに戦後の“主導権”をめぐる微かな火花が散り始めていた。



その議論の合間――ふと、日本の名前が持ち出された。

「日本が提示した“欧州復興支援構想”――ERSP、だったか」
ルーズベルトがそう漏らした。

「あれは驚いたな。あれほど早く、戦後の支援に乗り出すとは」
チャーチルが感心と皮肉の混ざった声を出す。

「ふむ。あの少年か」
スターリンの視線が、壁の地図に貼られた“日本帝国”の赤い輪郭へと向かう。

「日本はドイツに直接的な権益を持たぬが、世界秩序の構築においては、もはや無視できぬ存在だ」
ルーズベルトの声音には、どこか複雑な響きがあった。

帝国の名は、この場にはない。だが、その影は確実にこの部屋の空気を変えていた。



会談の終盤。
各国は、以下の事項で暫定合意を形成した。

・ドイツは四国(米英仏ソ)による分割統治とし、首都ベルリンは共同管理区域とする。
・ナチス政権の徹底的な排除と戦犯裁判の実施。
・ドイツ再建における政治的・経済的方針は、各占領区域ごとに定め、後日調整を継続する。
・ヨーロッパ全体の復興支援は“各国の自由意志”に委ねる。

最後の項目――“各国の自由意志による支援”という表現には、ルーズベルトの深慮が込められていた。

アメリカは、今後、欧州支援で世界的影響力を保持するつもりだった。
だが、その先手を打とうとしている日本の構想に対し、牽制も忘れてはいなかったのだ。

「では……ここに、戦後の第一歩を記そう」
チャーチルがペンを持ち、署名欄に名前を記す。

三人の男が、それぞれの信念と計算とを胸に秘めながら、協定文書に署名していく。



その夜。
会議室の灯が落ちたあと、ルーズベルトは一人、書斎にこもっていた。

机の上には、一通の電報。差出人は――東京・蒼月レイ。

《欧州復興支援構想“ERSP”の第一弾資金供与を、来月より開始する》

短く、それでいて明確な一文だった。

「……未来を築く競争は、既に始まっているのかもしれんな」

ルーズベルトは静かに呟いた。窓の外に広がるドイツの夜空は、深く、そして遠かった。



その頃、東京。

レイは机の前でペンを走らせていた。次に向かうのは、再建される“新たな世界秩序”の中心――教育と知の力である。

彼の目には、もはや戦争の終わりではなく、次の時代の胎動が映っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。 現在1945年中盤まで執筆

離反艦隊 奮戦す

みにみ
歴史・時代
1944年 トラック諸島空襲において無謀な囮作戦を命じられた パターソン提督率いる第四打撃群は突如米国に反旗を翻し 空母1隻、戦艦2隻を含む艦隊は日本側へと寝返る 彼が目指したのはただの寝返りか、それとも栄えある大義か 怒り狂うハルゼーが差し向ける掃討部隊との激闘 ご覧あれ

処理中です...