召喚失敗から始まる異世界生活

思惟岳

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第14話

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 そのとき、世界が震撼した…らしい。

 あとで聞いた話では、この王国が消滅したと騒ぎ出した魔道士もいたという。
 もちろん、王国からはるかに離れた地域でのことだ。

 どこの世界にも、やたらを話を大きくして、騒ぎたがる奴はいるものだ。
 注目されたいばかりに、嘘ばかりつくやからもいる。


 ライムは、ほんの一瞬で、魔力隠蔽を再構築した。
 だが、逆に言えば。一瞬だけオレの魔力の一部が、この異世界にさらされたことになる。

 
 冒険者ギルドでは、誰も彼もが、息をするのも忘れて凍り付いたように『停止』していた。


 「…くっ、こりゃあ、きついぜ…」

 いちばん最初に、我に返ったのは、元勇者だった。
 美女の肩を支えながら、ケントさんに言った。

 「と、とにかく早く、ここを出たほうがいい…」
 「わ、わかったっす…」

 ケントさん兄妹もうなずきながら、ようやく立ち上がった。

 オレの首をロックしながら、いつの間にか眠ってしまった聖女を、件の美女が見下ろしながら言った。
 今までとは打って変わった、おだやかな声だった。 

 「あなたは、妹を…、セシリアをお願い…」


 冒険者ギルドをあとにしたオレたちは、急ぎ足で城門に向かった。
 王都を貫く街路には、ひとがあふれていた。
 やはり、みな、呆然と立ちすくんでいる。

 幸いなことに、倒れているひとはいない。
 オレは、ほっと胸をなで下ろした。


 __オレの魔力のせいなのか?
  
 自分が、放射能漏れを起こした、壊れた原発のように思えた。
 

 「…ジュンしゃまと、聖女セシリアは、魔法の波長がシンクロしやすいのですニャ。そのせいで、隠蔽障壁を破って、ジュンしゃまの魔力を引っ張り出してしまったのニャ」
 「そうね。たしかに同調しやすいわ。だから、異なる世界にいても見つけ出し、召喚することができるのよ」

 聖女の姉が、ケンイチさんを上目遣いでじっと見つめた。

 彼女はアンナさんというらしい。
 ケンイチさんを召還した先代の聖女であり、第三皇女だ。
 
 現在の聖女は、オレに抱かれたまま熟睡している。

 「この子は…。セシリアは、もうぎりぎりだったのよ。なのに、無理ばかりして…」

 たしかに、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔は、ひどく青ざめていた。
 でも、今は、うっすらと頬を紅潮させている。 

 「でも、もう心配ないのニャ。今は、ジュンしゃまの魔力でお腹いっぱいなのニャ」
 「だとしたら、もう、この子は、彼の魔力に染められているのね…」
 「そうニャ、そういうことなのニャ…」

 何故か、ふたりして、オレをジト目で見ている。
 オレが、何をしたというのだろうか。
 ただ、聖女のタックルを受け止めただけなのに。
 コレは、アスリートな案件だぞ。

 
 城門を守る衛兵たちも、みな、呆然としていたので、すんなり外に出られた。
 
 しばらく森を歩くと、原っぱに出た。
 
 「お前さんの言うとおり、ひとけのない草っ原に来たぞ。だが、こんなところで何をするつもりだ?」

 ケンイチさんが、尋ねた。


 原っぱは、かなり広かった。
 少し森に入ったので、街道からは、直に見えない。

 __ここならいいか 

 オレは、『庭付き一戸立て住宅』を取り出した。


 「うおっ!なんすかこれ!」

 ケントさんが、飛び上がって驚いた。

 日本でなら、CMとかドラマにでも出てきそうな三階建てだ。
 もちろん、車庫もついている。


 ケンイチさんは、魔道具としての性能にも気づいたのだろう。

 「こりゃ、ちょっとしたもんだぜ」

 あごに手を当てて、うなっていた。

 「これって、ケンイチの元の世界の家なのね」
 「ああ、そうだ。向こうで、お前と一緒に暮らす時には、こんな家に住みたいと思っていた…」
 「…ごめんなさい。でも、いまのセシリアには、私が必要なの…」
 「ああ、わかってるさ。気にすんな…」

 ふたりで、しんみり言葉をかわしている。
 気安く言葉を掛けられる雰囲気ではなかった。
 
 
 『庭付き一戸建て住宅』は、『魔道具』であり、ふつうの家ではない。
 
 まず、基礎工事というか、地面に穴を掘る必要がないのだ。
 そのまま、ぽんっと、地面に置くことができた。
 家全体が、大きな土台の上に載っているからだ。
 庭でさえ、その土台の上にあるから、家の一階は、ほぼ二階の高さになる。

 やや急な坂道に家を建てると、一階が二階になり、地下が一階になったりする。
 アレに似た感じだと思えばいいだろう。


 みなで、ぞろぞろと階段を上り、玄関のドアを開けた。
 『家に上がる時は靴を脱いでくれ』…と言おうとした時だった。


 「おかえりなさーい、あ・な・た。お食事にするぅ…、お風呂にするぅ…、それともぉ…ア・タ・シ?」

 純白のミニ・ワンピに、かわいい花柄のエプロンをつけた、女神セーラが飛び出してきた。


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