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3.隣国の憧れの場所
しおりを挟むロジャーは歓迎のための晩餐を饗してくれた。
どれもこれもローラの好きな品が並んでいて、しかも旅で疲れたローラでも無理なく食べられるようにいつもより控えめな量になっている。
心尽くしの晩餐に、ローラは正面に座るロジャーに笑顔を向けた。ロジャーは満面の笑みでさらに彼女をもてなそうとしてくれる。
「ローラ。明日、行きたい場所はあるかい?」
叔父の問いかけは、恐らく買い物や観光だと分かっていたものの、ローラは素直に答えた。
「はい、大学に行って、入学試験の受験の申し込みをしたいのです」
やはり予想をかけ離れた答えだったらしく、ロジャーは目を見開いた。ローラは微苦笑しながら、希望を話し続けた。
「エールズベリー国の大学で学んでみたいのです」
ローラの母国グリンステッド国には大学はないが、このエールズベリー国には大学がある。そして、ローラの母国だけでなく、周辺の国々でも大学を設立している国はない。大学は、各国から、最高の智を求め、研鑽しようとする人間が集う場所となっているのだ。
王太子妃教育でそれを知り、興味と憧れを抱いていた。
しかも、大学の魅力は他にもあった。ローラはそっと目を伏せて、言葉を付け加えた。
「奨学金の試験に受かれば、の話ですが」
優秀な人材を育てるために、エールズベリー国は奨学金の制度を設けていた。大学の人気を支えているのはこの制度もあるだろう。
大学を卒業すれば、各国の文官や学園の教師の道が拓ける。
経済的に恵まれない者にも、人生の選択肢が広がるのだ。
人生の選択肢。
一つの道を断たれたローラには、それは欲して止まないものだ。
何より、この制度を使えば、叔父に負担をかけずに大学に通うことが出来る。
叔父はきっと学費を支援してくれるだろうけれど、ローラにとって、居候となる身でそれは受け入れられるものではなかった。
だから、奨学金の制度を備えた大学とは、眩しく感じるほどに魅力に溢れた最高の場所だったのだ。
ローラの告白を聞き、ロジャーはしばし言葉を失っていたが、立ち直ると表情を引き締めた。
ローラも同時に表情が硬くなる。
大学に行くことを、意味のないことだと反対されるのだろうか。
花嫁修業をすればよいと親の承諾を得にくく、大学では女子学生の割合が少ないと、王太子妃教育で教わっていた。
まして、自分は居候の身で、加えて結婚の適齢期を迎えている。
反対される理由は、直ぐに見つかってしまう。
けれど、せめて受験だけでも認めてもらえないだろうか。
各国から志願者が集う狭き門であり、合格の可能性は残念ながら低い。
何度も挑戦する者もいると聞くけれど、不合格の場合はもちろん、奨学金の審査に通らない場合も、ローラは諦める覚悟はしている。
だから、一度の挑戦は許してもらえないだろうか。
訪れた沈黙に緊張したローラに向かって、ロジャーがかけた言葉は全く違うものだった。
「入学試験の申し込みには、締め切りがあったはずだ。締め切りの日は知らないが、試験の日は確か一ヶ月後ぐらいだ。試験の日から逆算すると、期日は近いだろう。明日、できる限り急いで大学に行って調べよう」
「ありがとうございます。叔父様」
緊張から解放され、笑顔が零れたローラに、ロジャーは目を細めて頷いた。
「しかし、大学か。素晴らしいことだ。さすが私の娘だ!」
「叔父様、せめて合格してからにして下さい」
恥ずかしくて、そう頼むと、ロジャーは譲らず言い切った。
「ローラ。大学を目指すこと自体が素晴らしいのだ!自慢する機会を奪わないでくれ」
叔父に勝てるはずもなく、ローラは釣り込まれて笑っていた。
姪の自慢に力を入れるロジャーであったが、彼の記憶は正しかった。翌日、大学に行くと締め切りの当日であることが分かり、その場で用紙に記入して、インクが乾ききらないうちに提出することになった。
受付の担当者は苦笑していたが、用紙に書かれた名前を見て、ほんの一瞬、目を見開いた。
この国でも、ローラが婚約破棄されたことは伝わっていたのだろうか。
ローラがそう思ったときには、担当者は笑顔を浮かべ、「確かに受け付けました。頑張ってください」と爽やかに受付を終えた。
どうやら、ローラの勘ぐりが過ぎたようで、恐らくはエールズベリー国では馴染みのない家名が珍しかったのだろう。
ローラは自意識過剰な自分に内心で苦笑を零したのだった。
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