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4.大学へ
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慌ただしい申し込みの日から3ヶ月後――。
すごい!すごいわ!
ローラは教授の言葉に内心で興奮していた。
教授が講義の最後に言った言葉が、ローラの胸を打ったのだ。
「まだこの問題についての研究は道半ばで、結論は出ていない状態です。いつか皆さんの内の誰かが研究を進めてくれることを願っています」
結論の出ていない最新の知見に触れる―――それは、大学ならではのことだった。
◇
締め切り当日で受験を申し込んだローラは、幸いにして、試験にも、奨学金の審査にも合格することができ、晴れて大学で学ぶようになった。
合格できたのは、高度な王太子妃教育を修めたことも一因だったけれど、叔父の協力が大きかった。
叔父は築き上げた人脈を、ローラのためにも活かして、大学の過去の試験傾向を調べ上げてくれたのだ。
一ヶ月の間、しっかりと効率よく対策に打ち込むことが出来たことは、合格への大きな助けとなった。
そして助けてくれたのは、叔父だけではなかった。
公爵家と違い、叔父の家は使用人との距離が近い。
受験勉強をしていた間、屋敷の皆が応援してくれているのを感じた。
マーガレットは夜遅くまでの勉強に付き合って、ローラの勉強の区切りが付いたのを見ては、お茶を淹れてくれていた。
料理人のジェフは食べやすいメニューを作ってくれた上に、マーガレットのお茶に合う軽食まで用意してくれていた。
庭師のヘンリーは、香りの良い花や、鮮やかな色の花を、部屋に飾るように用意してくれ、休憩するローラの目を楽しませてくれた。
きっとローラが見えないところでも、他にも心を砕いてもらっていたのだろう。
自然にそう思えるほど、屋敷は優しい温かな気配に満ちていた。
―――私はつくづく恵まれているのね。
ある晩、マーガレットが淹れてくれたお茶とジェフのクッキーを目にして、ふと気付かされた。叔父の下へ来る前には、目の前の不運に囚われて、自分は色々なものが見えなくなっていたのだろう。
公爵家の財政が厳しくなったこと、婚約破棄となったこと、幼い頃からの想いが断ち切られたこと、それらが軽いことだとは思わない。
今も胸を締め付けるほどの哀しみに襲われることが、弱いことだとも思わない。
けれど、それ以外のことが世界にはあることを、どこか忘れてしまった気がする。
そのことを思い出させてくれた皆の心遣いが身に沁みて、ローラは自分に出来る恩返しとして、受験までの一ヶ月、母国のことを思い出す暇もなく、意識の全てを勉強に向けたのだ。
合格できて、本当に良かったと思う。
合格の通知を受け取り、叔父にも、皆にもその場で感謝を伝えたものの、「私の娘は優秀だ!」「お嬢様はすごい!」と皆の興奮にかき消されてしまった。けれど、興奮で目を輝かせる皆の顔を見て、ささやかな恩返しはできたと思えた。
喜びが高じて、叔父はもちろん、屋敷中でお祝いというお祭り騒ぎになったのだ。マーガレットは「お嬢様、本当に頑張っていらしたから」と涙ぐんで喜んでくれた。
あぁ、自分は本当に恵まれている。
思わずマーガレットと抱き合いながら、ローラは改めてそう思った。
◇
お祭り騒ぎも収まった夜更け、ローラは静かに文机の引き出しを開けた。
そこには小箱がひっそりと収まっていた。
王太子妃教育で初めて大学の存在を知ったとき、ローラは授業の後のケネスとのお茶の時間に、高揚した気持ちを露わに彼に夢を語った。
「いつかこの国にも大学を設立してほしい」
「設立のために、学園の教師に留学してもらってはどうか」
「短期間だけでも、大学から教授を招くことはできないか」
尽きることなく語り続けるローラを見ながら、ケネスは目を細めて頷いてくれていた。
お茶に口も付けずに語り続けたローラに、彼はとうとう身を乗り出して軽い口づけで言葉を封じたのだ。
「ゆっくり夢を形にしていこう」
温かな唇から零れ出た彼の柔らかな声が、ローラと彼女の夢をそっと包んでくれた気がした。
ローラは溜息を一つ吐くと、眩しく切ない思い出から離れ、引き出しをそっと閉まったのだった。
すごい!すごいわ!
ローラは教授の言葉に内心で興奮していた。
教授が講義の最後に言った言葉が、ローラの胸を打ったのだ。
「まだこの問題についての研究は道半ばで、結論は出ていない状態です。いつか皆さんの内の誰かが研究を進めてくれることを願っています」
結論の出ていない最新の知見に触れる―――それは、大学ならではのことだった。
◇
締め切り当日で受験を申し込んだローラは、幸いにして、試験にも、奨学金の審査にも合格することができ、晴れて大学で学ぶようになった。
合格できたのは、高度な王太子妃教育を修めたことも一因だったけれど、叔父の協力が大きかった。
叔父は築き上げた人脈を、ローラのためにも活かして、大学の過去の試験傾向を調べ上げてくれたのだ。
一ヶ月の間、しっかりと効率よく対策に打ち込むことが出来たことは、合格への大きな助けとなった。
そして助けてくれたのは、叔父だけではなかった。
公爵家と違い、叔父の家は使用人との距離が近い。
受験勉強をしていた間、屋敷の皆が応援してくれているのを感じた。
マーガレットは夜遅くまでの勉強に付き合って、ローラの勉強の区切りが付いたのを見ては、お茶を淹れてくれていた。
料理人のジェフは食べやすいメニューを作ってくれた上に、マーガレットのお茶に合う軽食まで用意してくれていた。
庭師のヘンリーは、香りの良い花や、鮮やかな色の花を、部屋に飾るように用意してくれ、休憩するローラの目を楽しませてくれた。
きっとローラが見えないところでも、他にも心を砕いてもらっていたのだろう。
自然にそう思えるほど、屋敷は優しい温かな気配に満ちていた。
―――私はつくづく恵まれているのね。
ある晩、マーガレットが淹れてくれたお茶とジェフのクッキーを目にして、ふと気付かされた。叔父の下へ来る前には、目の前の不運に囚われて、自分は色々なものが見えなくなっていたのだろう。
公爵家の財政が厳しくなったこと、婚約破棄となったこと、幼い頃からの想いが断ち切られたこと、それらが軽いことだとは思わない。
今も胸を締め付けるほどの哀しみに襲われることが、弱いことだとも思わない。
けれど、それ以外のことが世界にはあることを、どこか忘れてしまった気がする。
そのことを思い出させてくれた皆の心遣いが身に沁みて、ローラは自分に出来る恩返しとして、受験までの一ヶ月、母国のことを思い出す暇もなく、意識の全てを勉強に向けたのだ。
合格できて、本当に良かったと思う。
合格の通知を受け取り、叔父にも、皆にもその場で感謝を伝えたものの、「私の娘は優秀だ!」「お嬢様はすごい!」と皆の興奮にかき消されてしまった。けれど、興奮で目を輝かせる皆の顔を見て、ささやかな恩返しはできたと思えた。
喜びが高じて、叔父はもちろん、屋敷中でお祝いというお祭り騒ぎになったのだ。マーガレットは「お嬢様、本当に頑張っていらしたから」と涙ぐんで喜んでくれた。
あぁ、自分は本当に恵まれている。
思わずマーガレットと抱き合いながら、ローラは改めてそう思った。
◇
お祭り騒ぎも収まった夜更け、ローラは静かに文机の引き出しを開けた。
そこには小箱がひっそりと収まっていた。
王太子妃教育で初めて大学の存在を知ったとき、ローラは授業の後のケネスとのお茶の時間に、高揚した気持ちを露わに彼に夢を語った。
「いつかこの国にも大学を設立してほしい」
「設立のために、学園の教師に留学してもらってはどうか」
「短期間だけでも、大学から教授を招くことはできないか」
尽きることなく語り続けるローラを見ながら、ケネスは目を細めて頷いてくれていた。
お茶に口も付けずに語り続けたローラに、彼はとうとう身を乗り出して軽い口づけで言葉を封じたのだ。
「ゆっくり夢を形にしていこう」
温かな唇から零れ出た彼の柔らかな声が、ローラと彼女の夢をそっと包んでくれた気がした。
ローラは溜息を一つ吐くと、眩しく切ない思い出から離れ、引き出しをそっと閉まったのだった。
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