残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

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第二章 帝国編

第61話 修練⑤

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 俺は空気で包み込み無理矢理動かしてキーラとリーズを正面に並ばせた。体が突然支配されて驚いたためか、二人はおとなしくなった。
 キーラとリーズの隣にはそれぞれスターレとウィンドが駆け寄り、彼らもそのままおとなしくひかえている。
 リーズは自力で精霊を召喚したわけではないが、ウィンドのプライドをテキトーに刺激してやれば召喚くらいはできるだろう、たぶん。

「それじゃあ、まずおまえらが弱い原因を教えてやる。それは、おまえらが自分の魔法エレメントの性質を分かっていないからだ。シャイルもそうだったが、おまえらは自分の魔法を愚直に相手へぶつけようとする」

「でも、ほかに何しろっていうのよ。あたしの電気なんか、相手にさえ当たれば大ダメージを与えられるんだから」

 キーラがいじけた子供みたいに口を尖らせて、手を後ろに回した体をモジモジと左右に揺らしている。

「もちろん、敵を感電させるのは有効な攻撃だ。だが、おまえのやり方では防がれるのがオチだ。電気を空気中で無理矢理飛ばしても、近くに伝導性のある物体があればそっちに吸い寄せられてしまうし、操作する術者の消耗も大きい。だから、逆に伝導性の高い物体を利用するんだ。例えば、地面を水浸しにして敵を誘い込めば、その水に電気を流すだけで水が勝手に電気を運んでくれる。つまり、少しの操作で電気を確実に敵に命中させられるわけだ」

「なるほどね。でも、そんなに都合よく水浸しになんてできないよ」

「だからいまのは例え話だ。水でなく鉄板でもいいし、なんなら帯電させた鉄の棒で敵を殴ってもいい。いちおう言っておくが、自分は感電しないようにゴムテープを巻いたりゴム靴を履いたりするんだぞ」

「あー、でも、たぶん、あたしなら大丈夫だと思う。感電慣れしているから」

「おまえが痛みを耐えられるレベルの電気じゃ相手も殺せないぞ」

「え、殺さないよ! なに怖いこと言ってんの!?」

 こいつもか。
 俺の考え方が偏りすぎているのか? ここは魔導師と魔術師とイーターがいて命のやり取りは日常的におこなわれている世界じゃないのか?
 こんなことを言うと「法律がなければ人を殺すのか」と俺の倫理観を疑われかねないが、俺はこの世界で生きてきて何度も命を狙われている。
 敵を完全に排除しなければ自分が殺される。
 ここは地球上のどこかの国ではないし、ましてや日本でもないのだ。完全なる異世界なのだ。当然ながら道徳的観念も異なってくる。

「分かった。だが、できるだけ自分は感電しないようにしろ。その分、無駄にスターレのスタミナを消耗するってことだからな」

「そっか、分かった」

 何より、キーラがこれ以上バカになっても困る。おそらく、スターレへの抱きつきによる感電がなければ、キーラはもっと頭がいいはずなのだ。
 これまで三人を見てきた中で、キーラが最も現実的な判断をしていた。損得勘定ができるし、俺の話に納得できたら意地を張らずに素直に受け入れる。

「それから、電気は攻撃以外にも活用法がある。キーラ、人体にも常に電気が流れていることを知っているか?」

「え、あたしの体にはいまもスターレの電気が流れているってこと?」

「そうじゃない。すべての人間に微弱な電気が流れている。人は何かを考え、それを行動に移すとき、脳からの命令を電気信号が筋肉へと伝えているんだ。つまり、おまえは自分の体に微弱な電気を流して自分を強化できるはずだ。もちろん、ただ流すだけじゃ駄目だぞ。ちゃんと自分の思考が体へと反映される事実を意識し、それを補助するようイメージするんだ。そうすれば、普段出せないような力が出せたり、いつよもり頭の回転も速くなるかもしれない。それができるようになれば、逆に相手に微弱な電気を流して相手の行動を操ることもできるかもしれない」

「へぇ、すごいじゃん! あたし、実はすごいポテンシャルを秘めているのね?」

「いや、できるかもしれないと言っているだけだ。実際にできるかどうかは電気操作型の魔導師であるおまえ自身が試してみなけりゃ分からん」

「ふーん、そっか。ちょっとやってみるよ」

 キーラはスターレとともに離れた場所へと移動した。
 キーラが屈んでスターレに話しかけている。スターレもキーラを見上げ、その話に耳を傾けている。

 キーラについては、いったん彼女自身に任せてみよう。
 本来、電気を使う魔導師が弱いわけがないのだ。もしかしたらキーラは化けるかもしれない。
 いや、さすがに期待しすぎか。

 とにかく、俺の仕事はまだ残っている。
 俺はリーズの方へと向き直った。

「次はおまえだ、リーズ。だが、その前に一つ確認しておくことがある」

「何ですの?」

「おまえ、帝国に攻め入ってもいいのか? 帝国の有名な家系なんだろ? 実際、サキーユには手出しできなかったわけだし」

「問題ありませんわ。わたくしはルーレお姉様やリーン様と違って顔も名前もそこまで広くは知られておりませんの。それに、リッヒ家が絶対的な忠誠を誓っているのは皇帝家であって、帝国そのものではありませんわ」

「そうか。じゃあそのことに関しては一つだけアドバイスしておく。これはもしもの話、万に一つ起きたときの話だが、もし五護臣との戦闘中に皇帝家の人間が現れたら自分を攻撃して気絶しろ。仲間を裏切れと命令でもされたら、おまえは逆らえないんだろ?」

「そう……ですわね……。そうするようにしますわ」

「で、本題に入るぞ。はっきり言って、おまえの操作型風魔法は俺の操作型空気魔法の下位互換だ。これはエアが言ったとおりだ」

 ウィンドの風のタテガミが逆立った。
 風がかたどっている顔からはその表情はうかがえないが、おそらく輪郭がはっきりしたところで馬の気持ちなんて読み取れないだろう。
 しかし逆はどうだろう。俺はわりと本気の殺意を込めてウィンドを睨みおろした。
 実際に俺は自分の時間を割いてリーズたちを訓練しているわけで、ちっぽけなプライドのために邪魔されることは腹立たしいのだ。

「エストさん?」

 しばし俺とウィンドの睨み合いは続いたが、俺の膨れ上がる殺意を感じ取ったのか、ウィンドが前足を折って顔を背けた。

「何でもない。リーズ、おまえの魔法は俺の魔法の下位互換だが、裏を返せば、俺ができることの半分近くはおまえにもできるということだ。それが弱いはずがない。いいか、愚直に風を敵にぶつけようなどと考えるな。風が強くて自分が困った日のことを思い出せ。相手にそのときの自分を味わわせてやれ」

「わたくし、風の強い日に外へは出たことありませんわ。具体的にどうすればよろしくて?」

 リーズは腕組みしてあごを上げている。自分は高貴な身分なのですわ、とでも言いたげだ。髪が巨大団子でなければ右手でファサァッと髪を後ろに払いのけていそうだ。

「いいだろう。実体験させてやる」

 俺はリーズの後ろに空気の壁を作り、そしてリーズへ向けて強風を吹きつけた。吹きつけつづけた。
 リーズは目を閉じ、口を閉じ、手を前に出して風を防ごうとする。しかし風が彼女の手を押し戻して空気の壁にはりつけにした。
 じきに彼女は口を開いた。呼吸ができなかったのだ。歯を食いしばっているが、唇が風にまくられ、歯茎がむき出しになる。
 実に哀れな姿だ。こんな哀れなお嬢様は世界初じゃなかろうか。滑稽こっけい。愉快。愉悦!

 リーズはさらに口を開けた。何かをしゃべろうとしているが、うまく声が出せない。
 そこで頃合と見て、俺は風を止めた。

「ちょっ、はあっ、はあっ、はぁっ、息が、できないっ……」

「うむ、そういうことだ」

「そういう、ことだ、じゃなくて……、口で、説明、して、くれれば、はぁっ、はぁっ、はあぁ」

「百聞は一見にしかず。経験しなければ有効性は見えないだろ。口で説明して教えたとしても、実際に体験していなければ、おまえは効き目がうすいんじゃないかと途中でやめてしまうに決まっている。この技は継続することで効果が出るのだ」

「それも説明してくれれば、さすがにわたくしでも分かりますわよ!」

 どうやら呼吸は落ち着いたらしい。
 後ろ髪のお団子が形を崩して背中を覆うほどの長髪になっている。

「おまえ、そっちの髪のほうが似合っているぞ」

「な! こんな乱れた髪をめるなんて、とことん皮肉が好きなお方ですわね」

 ほおが紅潮しているところを見るに、まだ体調は万全には戻っていないようだ。
 べつに皮肉ではないが、面倒なので訂正はしないでおく。

「とにかく、おまえの風の攻撃はただぶつけるだけでなく、継続させることで効果が出るのだ。で、おまえも相手を傷つけるのは嫌だとか倫理にもとるとか言いだすのだろうが、風は鋭く研ぎ澄ましたほうが攻撃力は高い。細く速い風を飛ばして標的を斬ることだってできる。手元で円か楕円を描くように回転させつづけ、ブーメランのように飛ばしたり、剣のように斬りつけたりしてもいい」

「それは名案ですわね。ちょっと難しそうですけれど」

「ほう……。意外だな。おまえは風紀委員だったはずだが、そういう危険な行為を否定しないのか?」

「わたくしはあくまでルールを尊重しておりますの。それを破る不届き者はきつく制裁されて当然ですわ」

「そうか。おまえとは案外、気が合いそうだな」

「褒めても何もでませんわよ」

「おまえは俺と気が合うと言われて、褒められたと感じるのか。もしもおまえが天使なら、堕天しているだろうな」

「わたくしが天使ですって? エストさん、どうしましたの? 今日はやけにわたくしを褒めますわね。下心がありますの?」

 リーズは再び頬を紅く染め、俺へ向けてピンと延ばした指先をぶんぶんと上下に振っている。
 これは怒っているのか? 判断力も鈍っているようだ。

「せいぜい堕天使としか言っていないぞ。とにかく次だ。これまでは風で直接相手を攻撃する方法を教えたが、風を利用して別の武器を使う方法もある。例えば、相手を天高くへ吹き飛ばして墜落死させたり、尖った岩に強風で押しつけて岩の出っ張りに突き刺したりする攻撃方法もある」

「それは……なんというか、エストさんらしい攻撃方法ですわね……」

 今度は少し青い顔をしている。想像力が豊かでリアルな情景を浮かべてしまったのかもしれない。
 ま、想像力が豊かなことはいいことだ。魔法の使い方や威力、精度に直結する部分だからな。
 この世界の魔法の源として魔力などというものが存在するわけではない。魔法によっては精霊が原料となるが、すべての魔法は想像力が動力源だ。

「おまえらみたいに愚直にエレメントを叩きつける方法も、工夫しだいで威力を増すことができる。風の場合は自分の周囲をグルグル回転させるんだ。それをどんどん加速させる。操作するエレメントは自分に近いほうが操作しやすいからな。加速させている間は風がバリアの役目も果たしてくれる。風をこれ以上は制御できないというところまで加速させておいて、その風を解き放て。相手には落下する巨大岩の直撃を食らったくらいのダメージを与えられるだろう。念のために言っておくが、風を解放するポイントは自分の真横だぞ。正面で開放したら横に飛んでいくからな」

 強い風が吹いている。魔法ではない。自然風だ。

「なるほど。エストさん、ありがとうございます。わたくし、とても強くなれた気がしますわ」

 リーズは風が顔に当たるのをさけるように少しうつむき、それから風になびく黒髪をすくって耳にかけた。
 彼女は俺と視線を合わせてやわらかく微笑ほほえんだ。

 そんな彼女に、俺は言った。

「おい、練習しろよ」
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