残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
216 / 302
第六章 試練編

第215話 機工巨人

しおりを挟む
 部屋のサイズが二倍になって超大部屋になり、立方体だった部屋が直方体になった。
 大部屋の奥には巨大な鎧が直立している。丈は三階建てのビルくらいあるだろう。
 その鎧は全体的に丸みを帯びたフォルムで、藍色に金縁のパーツが連なって装甲をなしている。
 目の部分は横一文字に穴が開いていて、そこから見える鎧の中身は空っぽだった。しかし、そこに赤い発光体が二つ現れて兜の目になった。

 これが第一の試練、機工巨人。

 俺は制裁モードを発動した。柔剛を兼ね備えた空気鎧をまとう執行モードの上から、第二層目の巨大な空気の鎧をまとう。
 目には見えないが、俺は機工巨人と同等の大きさの巨人と化している。

「来るよ、気をつけて!」

 機工巨人はまっすぐこちらへ走ってくる。一歩が大きく、あっという間に距離を詰められるが、その動作自体はそんなに速いわけではない。
 得物はなく、攻撃方法は拳による殴打だ。

 俺も空気巨鎧の拳を敵の拳に合わせるようにしてぶつける。
 いまの俺なら空気で鉄板に穴を開けられるくらいの操作力がある。相手が鋼鉄の巨人だろうと負けはしない。

「え?」

 空気の巨大鎧が弾けた。魔法を消すとかリンクを切るとか、そういうたぐいの現象ではない。一方的に鉄の塊が突撃してくる。そこに何があっても関係なく突き進む掘削マシンみたいに、純粋に圧倒的なパワーで俺の空気鎧を破壊して、機工巨人の巨大な拳による右ストレートがそのまま俺へと向かってくる。

「うわぁああっ!」

 かわせない。機工巨人が速くないといっても、繰り出される拳は子供のパンチくらいには速い。
 俺の体は第二層の空気が弾け飛んでも第一層の空気鎧に包まれているが、機工巨人の拳を正面から受けて、後方へ押し込まれるように壁へと向かう。
 このまま壁に挟まれたら圧死する。

「エア!」

 いよいよ壁が迫ったところで、壁にできた影の黒が濃く染まってワープホールへと変わった。
 ワープホールはちょうど俺の体が入る大きさなので俺だけがワープして機工巨人の拳は壁を叩いた。

「悪い。助かっ……」

「エスト!」

 別の位置の壁に出現したワープホールから出た俺は、慣性で後ろ向きに飛ばされているが、その勢いを殺そうと減速しているところで横から巨大な影が迫ってきた。
 機工巨人の左の裏拳が飛んできたのだ。俺はその直撃を受け、壁まで飛ばされて背中を強く打った。
 執行モードの空気鎧があったから致命傷には至らなかったが、衝撃で執行モードも弾け飛んで大ダメージを受けた。
 空気の鎧の中身は生身の人間なのだ。どんなに頑強な鎧を着ていたとしても、高速で飛ばされたり、何かにぶつかったりしたら衝撃は受ける。

「くっそ……」

 体が動かない。痛みが体を動かしたがらないのかと思ったが、無理やりに体を動かそうとしても動かなかった。

「エスト、大丈夫?」

「ヤバイ。これ、ガチでヤバイやつ」

「私が引きつける」

 エアが機工巨人に近づいていく。

「よせ、近づくな!」

「段階的自己強化を使っている。いまは8くらいまでギアが上がっているから」

 自己強化……、ジム・アクティの魔法か。
 種類でいえばあれも概念種。応用力さえあればいくらでも化ける魔法だ。
 いまのエアは強化に時間をかける代わりに際限なく強くなれる技を使っている。体の丈夫さだけでなく、腕力やスピード、動体視力、魔法の力と何でも強くなる。

 エアは機工巨人の右ストレートをかわし、左のアッパーも避けたが、そこに機工巨人の両目から極太の赤い光線が放たれた。
 エアは自分の体に投影した影を伸ばして前面に展開したが、不意の攻撃にワープホール化が間に合わなかったらしく、ただの黒い板で光線を受けることになった。
 半端な魔法で貫かれなかったのは上等だが、黒い板ごとすごいスピードで飛ばされて背中から床に激突した。
 機工巨人は左足を上げ、容赦なく追撃の踏みつけを繰り出す。

「エア!」

 俺は意識を失っているエアを空気で包み込み、高速で床上を走らせた。
 ギリギリ機工巨人の足をかわしたが、俺にできるのはそこまでだった。
 俺のほうも背中の激痛で視界が白くかすんでいた。空間把握モードを展開できる精神状態ではないし、視覚がまともに機能しなければ魔法も使えない。

「くそっ、出し惜しみしている場合じゃないな」

 俺は神器・天使のミトンを右手にはめた。
 このミトンでさすった回数に応じて怪我や疲労は回復し、五さすりで全快する。ただし、一日に効果があるのは五さすり分までだ。さする場所は関係なく、服越しだろうが、どこかしらをさすりさえすれば体の傷はえる。
 ひとまず全快すべきと考え、俺はミトンで腹を三回さすった。しかし全快には至らないと判断してもう一回さすった。

「あー、もう!」

 いきなり四さすり分も使ってしまった。残りは一さすり分だけだし、それを使ったとしても、瀕死から全快になるまでの五分の一程度しか回復しない。

 俺はとにかく空間把握モードを展開してぐったりしたエアを空気で包みなおした。
 機工巨人から遠ざけると、機工巨人は俺の方を向いた。どうやら距離の近い者を優先して狙うらしい。

 さて、どうやって倒すか。
 さっきの土人形みたいにムニキスで斬りつけたら倒せるだろうか。というより、それしか思いつかない。
 ただ、もしムニキスで勝てるとしても、機工巨人に近づくのはかなり危険だ。ムニキスは直接持っていなければ効果が出ないので、空気で飛ばしても意味がない。

 さて、どうやって近づいたものか。
 さっき攻撃を受けた感覚からして、機工巨人の動作はいかなる抵抗も受けつけない。特定の位置に移動しようとすれば、必ずそこへ到達し、途中にある障害物は無理やりに排除される。
 もしも鋼鉄の塊を踏ませたら、おそらく鉄は極限まで押し潰されて極薄の板になるだろう。いや、ゲルみたいにぜんぶ足の横側から出てくるかもしれない。
 よって、いちばん気をつけなければならない攻撃は掴み攻撃だ。あらがいようがなく潰されて即死する。
 もちろん、拳と壁に挟まれても駄目だ。この部屋の壁は機工巨人と同等の硬さを有している。
 機工巨人は完全圧殺マシンだ。

「執行モード!」

 俺は柔剛の空気で自分を包み込み、宙へ浮いた。
 さっきの土人形と同じなら、体のどこかにムニキスの刃を当てれば勝ちだ。拳で攻撃してきたところをかわして斬りつけるのが最善手。
 俺は機工巨人の初手を体勢を崩さずに避けるべく集中した。

「行くぞ!」

 俺は機工巨人に向かってまっすぐ高速で飛んだ。
 並々ならぬ反射神経と集中力が求められるが、スピードを出していたほうが攻撃をかわしやすい。

 機工巨人は左手で拳を打ってきた。
 動きは直線的だから、俺は拳の軌道から逃れてムニキスのつかに手を伸ばし、拳とすれ違いざまにムニキスを振り抜いた。

 カンッ――。

 甲高い音とともにムニキスは弾かれた。
 手のしびれを感じる間もなく、右手が伸びてくる。

「こいつ! 効いてな――」

 機工巨人の右手は開かれていた。掴み攻撃だ。
 絶対に捕まってはいけないので無理やりにでも避けた。
 しかし中指にぶつかって壁まで飛ばされた。

「ぐああっ……」

 壁に背中から激突した俺はまたしても執行モードが弾け飛んだ。壁から床へとずり落ちる。
 再び視界が霞む。ボヤけた視界に藍色の塊が迫ってくるのが見えたが、体は痛くて動かないし、空気にもうまくリンクが張れない。

「くそ。今度こそ終わりか……」

 そう思うと俺は急に恐ろしくなった。
 死ぬのが怖い。痛いのが怖い。潰されるって、さぞかし痛いだろうなぁ。痛いのが恐ろしい。死ぬのが恐ろしい。

「俺は……死にたくない……」

 俺はずっと死ぬことなんか怖くないと思っていたが、いざ死を前にすると急に恐怖が襲ってきた。
 ここにきて俺は自分が生きていることを実感した。
 自分が作られたとか、本物か偽物かとか、そういうことはぜんぜん関係ない。
 俺は一人の人間で、感情があり、欲求があり、知性がある。

 俺は、生きている。

 しかし、もうじき死ぬ。

 俺は目蓋まぶたを閉じた。

 真っ暗闇の中、体が沈む感覚に襲われ、ついに地獄へ落ちていっているのだと思った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

処理中です...