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第六章 試練編
第222話 海底神殿からの脱出
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魔術神官を倒すと、大部屋の天井の中央部分がゴロゴロと音を立てて開いた。煙突のような垂直の狭い通路になっていて、天空遺跡の小部屋へと通ずる道と同じように周囲の四面を白いパネルが覆っている。
「エア!」
俺は機工巨人を解除して、空気で包んだエアを引き寄せ、同時に俺もエアの方へと飛んだ。
エアは相変わらず意識がないが、どんどん弱ってきているのは分かった。
俺はエアを抱えて飛んだ。白いパネルの細い通路を抜けると、海底神殿の中央から出た。
「――ッ!!」
海底神殿の周囲を白い石魚たちが取り囲んでいた。全方位、隙間なく白で埋め尽くされていて、いっせいに俺たちの方へと突撃してくる。
もはや突破方法なんて思いつかない。どんどん弱っていくエアのことで頭がいっぱいで気が気でないのだ。
「空気読めよ、くそがっ!!」
俺はただそう叫ぶしかなかった。
だがその瞬間、石魚たちは方々へと散っていった。
俺には何が起こったのか分からなかったが、とにかく海底都市の出口へと急いだ。
海溝からこの海底都市へと続く洞窟の中は真っ暗だが、一直線だったことは覚えている。俺とエアを包む空気の塊が、洞窟の岩肌を削りながら軌道を修正して出口を目指した。
洞窟を抜けた先も暗い。そこは水深十キロの海溝最深部なのだ。海上の光も届かない。
「エア、もう少し頑張れ。絶対に助けてやるからな!」
俺は海上を目指して高速で飛んだ。
五分ほど飛ぶと、俺たちは海面から大きな水しぶきを上げて飛び出していた。久しぶりの陽光が俺の眼を眩ませる。
エアを回復させるためには癒しの泉にいく必要がある。シミアン王国の東部にある祠の中にあるが、かなり遠い。最高速度で飛んでもだいぶ時間がかかる。
エアの顔が青く白く染まっていく。エアの鼓動が弱くなりはじめていた。
「くそっ、間に合わない。どうあがいても不可能だ……」
あと何分、いや、何秒もつかも分からない。
「エア、死ぬな、エアッ! エアーッ!!」
もう駄目だ。
そう思ったとき、突如として俺の視界が黒く染まった。
そしてその次に目にした光景は、青や橙の光がかすかに明滅する薄暗い空間だった。
「エスト、空気の魔法を解除して」
それはダースの声だった。
俺とエアはいま、シミアン王国の祠の中、癒しの泉にいた。ここはかつて、俺がエアに敗れたときに傷を癒した場所でもある。
俺は空気の魔法を解除してエアを泉に浮かべた。
エアの血色がもどって表情も和らいだ。どうやら間に合ったらしい。
「ダース、おまえなのか?」
「うん、そうだよ」
姿はない。どこかの影を闇のワープホールにして声を届かせているのだろう。
俺はダースから事情を聞いた。
まず、海底に潜る際に空気の鮮度を維持するための闇魔法は、エアではなくダースによるものだった。
これは万が一にもエアが死んでしまったときに、俺の空気供給が止まらないようにと、エアがダースに頼んでいたということだった。
ダースは俺たちが海溝から洞窟に入った時点で位置を見失ったが、海面から飛び出して海底神殿の海域上空にワープホール化している影が戻ったことを感知し、俺とエアの存在を再捕捉したのだった。
さらに、俺の叫び声でエアの窮地を察知してワープさせたということだ。
「すまん、助かった」
「無事でよかったよ」
「もう大丈夫だ。悪いが消えてくれ。俺も休みたい」
「はいはい」
俺とエアに寄り添っていた闇の穴は消失した。
ここは精霊の聖地でもあり、精霊がときおり俺たちのことを覗き込み、すぐに去っていく。
彼らは契約者を探しているのだ。俺は魔導師、エアは魔術師で、俺たちは彼らの契約の対象にはならない。
「エス……ト……」
「気がついたか、エア!」
泉に浮かぶエアはまっすぐ上を向いていた。顔を傾けたら沈んでしまうことを知っているからだろう。
「ごめんなさい。私、たぶんエストの足をひっぱったよね……」
「そんなことないさ。おまえがいたから俺は頑張れた」
エアは無表情だが、目尻から涙が零れ落ちた。
泉に小さな波紋が生まれるも、一瞬のうちに消えた。
「もし私が邪魔だったら、私を見捨ててもいいから。エストは世界を守らなければならないんだから」
「見捨てねーよ。おまえがいなきゃ、奴には勝てねえしな」
俺はそう言ってから、言い方が悪かったと少し後悔した。これでは紅い狂気に勝つために見捨てないと言っているみたいではないか。そうではなく、俺はエアを絶対に失いたくないのだ。
俺は泉に浮かぶエアの肩に手を回し、自分の頭をエアの頭に近づけて寄り添った。
「エア、おまえが地獄に落ちるときは俺もついていくし、俺が天国に昇るときはおまえも連れていってやる」
「私が地獄であなたが天国? それは逆じゃないかしら?」
おっと、ここで反論がくるとは思いも寄らなかった。
「じゃあ言い直そう。おまえが天国に昇るときはついていくし、俺が地獄に落ちるときはおまえも連れていってやる」
「へー。それはとんだゲスの所業だわ」
「ま、そうなるよな」
もっといい言いまわしで言いなおそうかと思ったが、エアが笑ったのでやめた。
癒しの泉の水はとても心地良い。
俺はここに来るのは二度目だが、初めて来たときよりも数倍心地良いと感じている。
それは間違いなく、俺の腕の中にエアがいるからだ。
俺は第二試練を通して、エアへの想いを再認識した。
俺は心の底からエアのことが好きだ。俺は無感情なんかじゃない。
俺はゲス野郎だが、人を愛する心を持っている。
「エア!」
俺は機工巨人を解除して、空気で包んだエアを引き寄せ、同時に俺もエアの方へと飛んだ。
エアは相変わらず意識がないが、どんどん弱ってきているのは分かった。
俺はエアを抱えて飛んだ。白いパネルの細い通路を抜けると、海底神殿の中央から出た。
「――ッ!!」
海底神殿の周囲を白い石魚たちが取り囲んでいた。全方位、隙間なく白で埋め尽くされていて、いっせいに俺たちの方へと突撃してくる。
もはや突破方法なんて思いつかない。どんどん弱っていくエアのことで頭がいっぱいで気が気でないのだ。
「空気読めよ、くそがっ!!」
俺はただそう叫ぶしかなかった。
だがその瞬間、石魚たちは方々へと散っていった。
俺には何が起こったのか分からなかったが、とにかく海底都市の出口へと急いだ。
海溝からこの海底都市へと続く洞窟の中は真っ暗だが、一直線だったことは覚えている。俺とエアを包む空気の塊が、洞窟の岩肌を削りながら軌道を修正して出口を目指した。
洞窟を抜けた先も暗い。そこは水深十キロの海溝最深部なのだ。海上の光も届かない。
「エア、もう少し頑張れ。絶対に助けてやるからな!」
俺は海上を目指して高速で飛んだ。
五分ほど飛ぶと、俺たちは海面から大きな水しぶきを上げて飛び出していた。久しぶりの陽光が俺の眼を眩ませる。
エアを回復させるためには癒しの泉にいく必要がある。シミアン王国の東部にある祠の中にあるが、かなり遠い。最高速度で飛んでもだいぶ時間がかかる。
エアの顔が青く白く染まっていく。エアの鼓動が弱くなりはじめていた。
「くそっ、間に合わない。どうあがいても不可能だ……」
あと何分、いや、何秒もつかも分からない。
「エア、死ぬな、エアッ! エアーッ!!」
もう駄目だ。
そう思ったとき、突如として俺の視界が黒く染まった。
そしてその次に目にした光景は、青や橙の光がかすかに明滅する薄暗い空間だった。
「エスト、空気の魔法を解除して」
それはダースの声だった。
俺とエアはいま、シミアン王国の祠の中、癒しの泉にいた。ここはかつて、俺がエアに敗れたときに傷を癒した場所でもある。
俺は空気の魔法を解除してエアを泉に浮かべた。
エアの血色がもどって表情も和らいだ。どうやら間に合ったらしい。
「ダース、おまえなのか?」
「うん、そうだよ」
姿はない。どこかの影を闇のワープホールにして声を届かせているのだろう。
俺はダースから事情を聞いた。
まず、海底に潜る際に空気の鮮度を維持するための闇魔法は、エアではなくダースによるものだった。
これは万が一にもエアが死んでしまったときに、俺の空気供給が止まらないようにと、エアがダースに頼んでいたということだった。
ダースは俺たちが海溝から洞窟に入った時点で位置を見失ったが、海面から飛び出して海底神殿の海域上空にワープホール化している影が戻ったことを感知し、俺とエアの存在を再捕捉したのだった。
さらに、俺の叫び声でエアの窮地を察知してワープさせたということだ。
「すまん、助かった」
「無事でよかったよ」
「もう大丈夫だ。悪いが消えてくれ。俺も休みたい」
「はいはい」
俺とエアに寄り添っていた闇の穴は消失した。
ここは精霊の聖地でもあり、精霊がときおり俺たちのことを覗き込み、すぐに去っていく。
彼らは契約者を探しているのだ。俺は魔導師、エアは魔術師で、俺たちは彼らの契約の対象にはならない。
「エス……ト……」
「気がついたか、エア!」
泉に浮かぶエアはまっすぐ上を向いていた。顔を傾けたら沈んでしまうことを知っているからだろう。
「ごめんなさい。私、たぶんエストの足をひっぱったよね……」
「そんなことないさ。おまえがいたから俺は頑張れた」
エアは無表情だが、目尻から涙が零れ落ちた。
泉に小さな波紋が生まれるも、一瞬のうちに消えた。
「もし私が邪魔だったら、私を見捨ててもいいから。エストは世界を守らなければならないんだから」
「見捨てねーよ。おまえがいなきゃ、奴には勝てねえしな」
俺はそう言ってから、言い方が悪かったと少し後悔した。これでは紅い狂気に勝つために見捨てないと言っているみたいではないか。そうではなく、俺はエアを絶対に失いたくないのだ。
俺は泉に浮かぶエアの肩に手を回し、自分の頭をエアの頭に近づけて寄り添った。
「エア、おまえが地獄に落ちるときは俺もついていくし、俺が天国に昇るときはおまえも連れていってやる」
「私が地獄であなたが天国? それは逆じゃないかしら?」
おっと、ここで反論がくるとは思いも寄らなかった。
「じゃあ言い直そう。おまえが天国に昇るときはついていくし、俺が地獄に落ちるときはおまえも連れていってやる」
「へー。それはとんだゲスの所業だわ」
「ま、そうなるよな」
もっといい言いまわしで言いなおそうかと思ったが、エアが笑ったのでやめた。
癒しの泉の水はとても心地良い。
俺はここに来るのは二度目だが、初めて来たときよりも数倍心地良いと感じている。
それは間違いなく、俺の腕の中にエアがいるからだ。
俺は第二試練を通して、エアへの想いを再認識した。
俺は心の底からエアのことが好きだ。俺は無感情なんかじゃない。
俺はゲス野郎だが、人を愛する心を持っている。
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