残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
240 / 302
最終章 狂酔編

第239話 狂気は感染し、伝染し、拡散する

しおりを挟む
 ここはシミアン王国。

 発狂というと、突如として人格が変貌した様子を思い浮かべることだろう。
 しかし、カケララの狂気に当てられた最初の人間は、異常と正常の境界が明確ではなかった。

「もし……もしも……」

 これに火を着けたらどうなってしまうだろう。

 一人の王立魔導騎士団員が、いつも自分たちの使う馬を飼っている厩舎きゅうしゃをジーッと見つめていた。
 ここはシミアン王城敷地内であり、そこで放火するなんてことは最大級の犯罪行為だ。
 だから、その「もしも」は絶対に「もしも」のままで終わらせなければならなかった。

 しかしこの日、彼は厩舎に火を放った。
 理由は、間が差したから。ただそれだけだった。
 そんなことをして後々どうなるか、漠然と想像はできている。しかし、この日は好奇心が勝ってしまった。

「…………」

 もし火を放ってしまったら自分の犯した罪の大きさに耐えられず、後悔に押し潰されることだろう。
 そう思いながらわらに着火したわけだが、意外にも気分は高揚し、もっと火が回る様子を見てみたいという衝動に駆られた。

「よーしよしよし。おまえたち、ちゃんと逃がしてやるからな。でも、もう少し待てよな。おまえたちだって、こんな経験はめったにできないんだからな」

 自分たちの寝床に火が起こったことに気づいた馬たちは暴れている。
 火の回りはかなり速く、ついに一頭の馬の尻尾にも火が着いた。

「お? おまえ、ケツに火が着いてんな。はははは! 格好良いぞ。人に見せてこいよ」

 騎士が一頭の馬を解放してやると、その馬は一目散に外へ駆け出した。
 ほかの馬に目を戻すと、ほかの馬にも火の手が回っていて、そのうちの一頭は全身を火で包まれていた。

「ああ、おまえはアレで体を洗ってやった奴か。いいぞ、おまえも行ってこい。おまえも、おまえも、おまえも行ってこい」

 騎士は次々に馬を解放していく。
 馬たちは全速力で外へ飛び出し、シミアン王城の敷地外へと駆け出した。
 しだいに外から悲鳴が聞こえはじめる。騎士はそれをまるで歓声のように感じ、酔いしれた。

「おまえが最後か。お、もう火も着いているな。おまえも出たいか? でも駄目だ。おまえはここで焼かれながら踊る姿を俺に見せるんだ。ははーはははは!」

 真紅に染まった瞳が、炎に包まれた馬を見上げる。
 その騎士を、真紅に染まった眼が見下ろす。あんぐりと開いた口がスッポリと騎士の頭部をくわえ込んだ。

「お? 草食動物の癖によう、人肉を食らうとは悪食あくじきがすぎるってもんだぜ。はははーはは!」

 頑強なあごでザックリと騎士の首を骨まで切断し、その後、バリボリと頭蓋骨ずがいこつ咀嚼そしゃくし、そうやって割り出した脳髄のうずいを舌で転がしながら、馬は焼かれて死んだ。


 シミアン王国は大騒ぎになっていた。
 火のついた馬が駆けまわったせいで国中に火の手があがり、さらには狂気も伝染した。
 民家の消火活動をする人を後ろから撲殺する民家の住人、その住人を取り押さえようとしていたのに面倒になって殺してしまう王国騎士、王国騎士の暴走を止めようとする上級王国騎士を魔法でまとめて爆殺する王立魔導騎士、王立魔導騎士を後ろから刺し殺す一般国民。
 もうシミアン王国は滅茶苦茶だった。
 騎士も国民も約四割が発狂しており、それを沈静化するには相応の人員を要するが、それをできるのは騎士だけである。
 あまりにも人員が不足していた。

 国王の執務室にて、ミューイ・シミアンは頭を抱えていた。
 暴動を沈静化するために派遣した王国騎士たち、上級王国騎士たち、王立魔導騎士が次々と発狂して暴走している。
 それに場内でもいつ誰が発狂してもおかしくない。

「女王陛下、王立魔導騎士団長メルブラン・エンテルト、参上つかまつりました」

「来たわね、メルブラン。それとコータ」

 彼ら二人はシミアン王国における最終戦力だ。
 もちろん、彼らだっていつ狂気に汚染されてしまうか分からないのだが、いまの王国を沈めるためには一騎当千の彼らを使うしかない。

「メルブラン、コータ、あなたたち二人で協力して王国中で起こっている暴動を鎮圧してきてちょうだい」

 彼ら二人は女王であるミューイの護衛役でもある。
 その彼らを派遣するということは、自分が狙われるリスクを高めてしまうが、国民たちを救うためには仕方のないことだ。

「姫さん、その命令には賛同できないね」

 コータがそっぽを向きながらミューイに言った。
 こんなときまで素直に言うことを聞かないコータに苛立いらだちを隠せないミューイだったが、意外なことに、命令には忠実に従う騎士団長がコータの肩を持った。

「女王陛下と呼べ、馬鹿者が。しかし陛下、わたくしもその意見には賛同できかねます。元凶を叩くべきです」

「そういうことだよ。なんでこの僕が紅い狂気討伐の最高戦力に入っていないんだ? 戦闘能力のないキューカだけ呼ばれちゃってさ」

 そういうコータの背中を騎士団長はバシンと叩き、べつに彼の意見に賛同しているわけではないことを示す。
 そして自分の考えを述べた。

「陛下、キューカ殿が呼ばれるときにカケララという紅い狂気の欠片が世界各地に飛んで狂気を振りいているという情報を受けましたが、そのカケララを倒せば、王国に蔓延まんえんした狂気を消せるかもしれません。たとえ消えなかったとしても、先にカケララを倒さなければ全国民が狂気に染まってしまうでしょう」

「それは……そうね……」

 ミューイにとっては、いま現在苦しんでいる国民たちを差し置くのがとても辛く心苦しかった。
 ミューイをよく知る騎士団長もその心中を察している。しかし自分の言うことは正しい確信があるし、結果的により多くの国民を救えるのは明らかだ。

「まあ、まずは中ボスからだよな」

 コータの言動にはミューイもメルブランも辟易へきえきさせられるが、彼も立派な戦力だ。
 もっとも、彼のような芯の細い雑魚メンタルでは、狂気に染まって足をひっぱられかねないという不安もあるのだが。

「分かりました。カケララを探し出して倒しましょう。捜索は私を含めた三人で手分けをします。私たちの能力であれば、いずれもすぐに情報を伝達することができます。もしカケララを見つけたら、すぐにほかの二人を呼んで三人がかりで倒しましょう」

 ミューイのその言葉に騎士団長とコータがうなずいたそのとき、三人を強烈な寒気が襲った。

「あららぁー? 私はここにいるのに、どこに捜しに行くつもりかしら?」

 国中を覆っていた紅いモヤが執務室内にも充満し、そして彼女が姿を現した。モヤの密度が一部だけ高まってそれが拡散すると、そこに紅い狂気の姿があった。
 しかしそれはカケラではなく、その欠片であるカケララだということは三人とも直感的に分かった。
 圧倒的な存在感はあるが、これがカケラだったらまともに呼吸することすらままならなかっただろう。

 しかしカケララの気配も十分にバケモノじみていて、三人は息を呑むことしかできなかった。

「安心していいわよ。あなたたちはまだ狂気に染めない。王国が完全に狂気に染まる様子をあなたたちが見て絶望する様を私が見たいから。それとアラト・コータ、あなたは天然物のところがあるから、私が狂気に染めるのは逆にもったいない気がするわ」

「はぁ? 失礼な!」

 カケララの存在感が行動を抑圧してくる中、最初に動いたのはコータだった。
 正直なところ見下している彼に引けを取るなどしゃくだと感じ、ミューイも騎士団長もすぐさま臨戦態勢へと移行したのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...