残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

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最終章 狂酔編

第252話 カケラ戦‐戦力分析

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「絶望は狂気の入り口だ。思考を前向きに保て」

 感覚共鳴で全員をつながせた上で、あえて声にして全員に呼びかけた。
 それから俺の思考を共有する。

 カケラは強い。やろうと思えば鼻歌を一曲歌い終える間に人類を絶滅させられるだろう。
 だが彼女は俺たちのことを絶対に殺さないと言っている。こちらが折れなければ敗北もないということ。これはチャンスでもある。

 それから、カケラの戦闘力の限界値も分かってきた。
 まず光速にはさすがのカケラでも反応できない。
 それから絶対化した空気や絶対移動の機工巨人の攻撃であれば、当たりさえすれば有効打となりうる。
 そして心を読んだりといった彼女の能力は、使えるのは一人に対してだけだ。時間操作だけは範囲指定という特殊な形になるが、これも指定した範囲を一つと捉えれば例外ではない。

「ここにいるのは世界最強の七人だ。これだけの戦力がそろっていて、おまえ一人に勝てないなんてことあるはずがない」

 皆でカケラの特殊能力を使わせきり、手札が残っていない瞬間を作って有効打を入れる。

「その七人のうち、私にダメージを与えうるのは二人だけ。その二人が真っ先に無力化されたらどうしようもないのよね。本音がダダ漏れよ」

「べつに構わん。その事実には、たとえ俺が気づいていなくてもおまえは気づくだろう。これはおまえに向けた言葉というより、仲間を鼓舞するための言葉だ」

「知ってる」

 知っているとうことは、カケラの狙いは俺が鼓舞した仲間を消沈させるのが目的だろうか。
 俺にはカケラの心は読めないし視えもしない。視えたら視えたでヤバイことになりそうだから、気にするだけ無駄なことだ。

「心が読めるのうらやましい? 教えてあげようか? みんな、内心はエストなんかいなくなってほしいって思っているわよ」

「いま俺の耳に入っているのはおまえの声でしかない。それに感覚共鳴でみんなとはつながっているから、それが嘘だというのはバレバレだ」

「あら、深層心理まで覗けるのは私だけなのに、表面の思考しか共有できないあなたに嘘かどうか分かるはずないじゃない」

「敵であるおまえを信じる道理はない。たとえ俺が嫌われていようが、おまえにさえ勝てればそれでいい」

「ふーん。意外とポジティブなのね」

 どうやらカケラの精神攻撃はアテが外れたらしい。
 しかしそれが幸いかというと、そうでもない。精神攻撃が効かないのなら、次は物理攻撃を仕掛けてくるだろう。

 俺の思考を読み取ったのか、カケラはニヤリと笑った。かと思ったら、すでに俺の正面にまで肉薄していた。
 絶対化された空気魔法で執行モードを展開しているので、いかなる物理攻撃も空気の層が邪魔して俺には届かない。そう思ったが、カケラが手刀を振り上げたのでハッとしてすぐに飛び退いた。

「無に帰す」

 そう、カケラには魔法のリンクを切る力がある。その能力が闇道具と同じ性能ならば、その効果は絶対である。
 俺の空気魔法がいくら絶対化されているといっても、絶対化されているのは空気の操作であり、魔法そのものを消されたらあらがえない。

 危うくカケラの手刀が直撃するところだったが、どうにかそれをかわした。
 手刀というと大したことのない攻撃に思えるが、その主がカケラなのだから、破壊力はすさまじいだろう。
 おまけに、ほかにもどんな恐ろしい効果を秘めているか知れたものじゃない。

「これならどうだ!」

 空気の弾丸を無数に創ってそれを豪雨のようにカケラに浴びせる。もちろん、それらすべてを絶対化している。

 カケラは超高速の二刀流手刀で空気弾をことごとく切り飛ばしていたが、数が数だけに一発だけ腹部に被弾して後方へと押しやられる。
 このまま地面まで押し込めばカケラの体に穴が開けられるだろうか。それとも地面のほうがえぐられていくだろうか。
 そう考えていたら、カケラの姿が消えた。時間を止めたのだろう。
 瞬間移動した先は俺の背後。

「いまだ!」

 カケラの行動は読んでいた。俺の背後をめがけて皆の攻撃がいっせいに放たれる。
 はっきり言って絶対化された空気魔法と機工巨人の攻撃以外は多少怯ませる効果しか期待できないが、その一瞬の怯みは空気魔法や機工巨人の攻撃を当てる隙となるから無駄ではない。

「それも知ってた」

 水と風の刃、それから光のレーザービームがいっせいにカケラに向かうが、またカケラは姿を消して今度はエアの背後に姿を現した。

「それも読んでいた!」

 その場所に機工巨人の二つの拳が迫る。ドクター・シータが動かしてくれていた機工巨人を俺の思念が引き継いで動かす。
 エアがその場から退避すべく闇魔法でワープゲートを作り、そこへと飛び込む。

「ふふふ。それも知ってる」

 ワープゲートへと飛び込むエアの動きが止まった。カケラを挟み打とうとする機工巨人の拳も動きが止まった。
 俺たちは体が動かない。声も出せない。思考だけが許されている。
 どうやら時間を止めたようだ。
 絶望的な状況を理解させるため、俺たちの脳を残して一帯の空間の時間が止められている。そんな中でカケラだけが自由に動くことができるのだ。

「未知って恐ろしいわよね。既知から未知への変化は恐怖を産む。それが本来の在り方だとしても」

 感覚共鳴が切れた。仲間の思考が入ってこない。
 停止した時間からは解放された。
 キューカの能力が止められたのかと思って彼女の方を見ると、彼女はヨダレを垂らして呆けた顔で突っ立っていた。
 いつの間にか時間停止が終わっていて、機工巨人の拳同士がかち合い轟音ごうおんき散らす。
 その場所にカケラはいない。エアもいない。

「エア!」

 エアは俺たちの後方、校舎屋上にてカケラと並んで立っていた。隣人を攻撃するわけでもなく、ただ棒立ちしている。
 その表情には困惑が満ちていて、不安げな視線を俺に向けてくる。
 俺は自らの危機を直感した。

「エスト、避けて!」

 エアの人差し指が俺に向けられる。カケラがエアの体を操っているのだ。
 その指先に光が収束し、極太のレーザー光線が俺へと向かってくる。即座に密度を調整した空気の壁を造りだし、光線を屈折させた。
 光線は俺の頭上方向へと向きを変えたが、鍋に入れたときのパスタ束のように無数の細い光線へと分裂して再び俺へと襲いかかった。

「くそっ!」

 光というものは空気で壁を作ろうが貫通してくる。そして光速なのだ。普通は速すぎて反応できない。
 さっきは予期したから対応できたが、これは予期していなかったため回避することはできなかった。
 俺は肩やら腕やら脚やらを何箇所も貫かれ、激痛に耐えきれず学院の屋上に這いつくばってのた打ちまわった。

「ふふふ。出し惜しみしている場合じゃないんじゃない?」

 まったくそのとおりだ。
 こんなに早い段階で使うはずではなかったが、俺は神器・天使のミトンを手にはめて自分の体を五回さすった。

「いまのは途中からエアの魔術ではなかっただろ」

 レイジーの魔法は光の発生型だ。光の操作型の魔導師なんて見たことも聞いたこともない。いたとしても光の速さのものを操作なんてできないだろう。
 だから極太レーザーを上空へと逸らせた後の光の動きはエアの記憶再現魔術ではない。つまり、カケラが時間操作を利用して光を操作したということになる。
 改めて明言するのもいまさらだが、カケラは本物のバケモノだ。

 エアが再び俺に人差し指を向けてくる。
 俺は神器・ムニキスを構えた。しかし操作される光の攻撃へ対処するのは不可能だ。

「あらら。ゲス・エストともあろうものが、破れかぶれじゃないの。ミトンを五さすり分使いきっているから、もう傷は治せないわよ」

 そのとおり。絶体絶命。万事休すか。
 焦りが強くて冷静な思考が生み出せない。

 しかし、そこへ救いがやってくる。
 ロケットが接近してくるような轟音が大気を震わせ、白い何かが魔導学院へ接近してきて校舎屋上へ降り立った。

「シャイル!」

 彼女は炎のように燃え上がる白いオーラをまとっていた。
 炎がだいだい色をしていたら焼身自殺をしている女子高生に見えただろう。しかし、いまの彼女の姿はどこぞの戦闘民族が覚醒したような姿になっている。

 シャイルの体から発せられる白い炎がエアに向かって飛んでいき、エアをカケラの支配から解放する。
 そして、彼女が次の行動として選んだのは、情報を共有することだった。

「みんな聞いて! こいつの弱点は……」

 しかし、シャイルがビクッとして声が止まる。
 まばたきをする間もない刹那の間に、彼女の真正面にカケラが移動していた。

「おかえりなさい」

 カケラが笑顔ですごむと、シャイルは再びビクッとして震えが止まらなくなった。
 そのひと言は、シャイルにとっては何よりも恐ろしい呪言であった。
 たったひと言で彼女がカケラと肉体を共有していたころに味わった狂気を鮮烈に想起させられた。

 それでもシャイルがカケラへの恐怖を乗り越えようと必死にもがいているのは、白い炎の揺らめきを見れば誰の目にも分かる。
 だが、カケラが全身から紅いオーラを噴出すると、シャイルのオーラは飲み込まれるように消えていった。

「じゃく……て……ん……」

 シャイルは白いオーラを上塗りされても抗いつづけた。
 シャイルの邪魔をさせまいと俺がカケラを攻撃しようとするも、視界が真っ暗になり阻まれる。
 今度はダースを操って全員を闇の膜で覆ったのだろう。しかも「無に帰す」で空間把握のための空気操作リンクが切断され、外の状況が完全に見えなくなってしまった。
 理不尽なことにカケラからは俺が見えるようだ。

「ふふふ。強くなったじゃない。私の能力を一つ独占するなんて」

 黒い膜が消失したとき、シャイルはいっさい動かなくなっていた。
 彼女の時間が止められたのだ。

 カケラが敵を無力化したまま手放しにできるであろう能力には、俺が知るところでは記憶の扉と時間停止がある。
 カケラはキューカに記憶の扉を使い、キューカの精神を記憶の世界に閉じ込めている。
 そして時間停止をシャイルの口を封じるために使った。

「弱点は聞けなかったが、これで少しはまともに戦えるようになったんじゃないか?」

「ふふふ。ゲス・エスト、あなたは二つ勘違いをしているから正してあげるわ。一つ。たとえあなたたちが私の弱点を知ったところで、それが自由に狙えるものではないから結果は変わらないということ。そしてもう一つ。私とあなたたちが戦っていると認識しているのは、あなたたちだけだということよ」
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