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最終章 狂酔編
第265話 カケララ戦‐リオン帝国②
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キーラは空を飛んでいた。
厳密には、飛んでいるのではなく跳んでいた。
滞空時間が非常に長い跳躍は、一度のジャンプで数百メートルの距離を稼ぐ。速さも時速にして百キロを超えていた。
キーラは体内の電気信号を操作し、身体能力を飛躍的に向上させることができる。しかしそれは体への負担が大きいため、いま使っているのは別の手法だ。
コイル状に流れる電流には磁場が発生する。キーラは自分の靴底に仕込んだ鉄板と、地面とで電流を無理矢理コイル軌道となるよう動かし、発生した磁場で引力や斥力を発生させて移動の手段にしていた。
この魔法の使い方はエアに習ったものだ。
なぜかゲス・エストもエアも普通の人は知らないような専門的科学知識を持っている。特にエアはエスト以上の知識を持ち、まるで脳の中に神の書庫が存在するかのようだった。
キーラはそのエアに付き合ってもらって鍛錬した。
それはもちろん、来たるべき紅い狂気との決戦に備えるためだが、もう一つ、キーラには大きな意味があった。
それはエアを超えること。
エアよりも強くなれば、ゲス・エストが自分を認めてくれる。エアから自分に乗り換えてくれる。そう信じているからこそ、ここまで電気の操作型魔法を磨き上げられたのだ。
キーラは軍事区域に入り、広大な演習場をつっきって本部を目指した。ロイン大将からのメッセージを受け取って、標的がそこにいると知ったのだ。
それまではアテもなくカケララを探して帝国中を飛びまわっていた。
ダースが言うには、カケララに見つからず、こちらが先に見つけやすい位置に送りたいが、帝国のカケララだけは見つからなかったから自分で探してほしい、ということだった。
なぜ自分だけ苦労してカケララを捜しまわらなければならないのか。心中で愚痴をこぼすキーラが大跳躍で空を飛んでいると、何かを視界に捉えた。
最初は黒い点だったが、距離が近づくにつれてキーラと同じように大ジャンプで向かってくる人影だと分かった。
そして、その二人は邂逅した。
キーラが着地点から数歩あるくと相手も着地して数歩前へ出て、互いに立ち止まった。
「あんたがカケララ? 学院にいたときと姿も格好も違うから、帝国じゅうを捜す羽目になったじゃない」
軍事区域の本部に軍服で潜んでいて、しかもカケラよりも高身長になっていたら、世界で五箇所を同時に探っていたダースが見つけられるはずがない。
もしカケララがひと目でそれと分かる格好をしていたら、いまごろはロイン大将やモック工場長と力を合わせて三人で戦っていたはずだ。
しかし、こうして面と向かえば一瞬でそれがカケララと分かる。
紅い眼、紅い唇、紅い爪、異様なまでに禍々しい気配。近くにいるだけで気分が悪くなる威圧的な存在感。
訊くまでもなく、彼女はカケララだった。
「そうよ。訊かなくても教えてあげる。私には変身能力があるのよ。物質の変形や変質もできる。ああ、違う違う。私は特殊能力が三つあるわけじゃないの。これらの力は特殊能力ではなく、私の基本能力よ」
キーラがカケララになぜ姿が変わっているのかを訊こうとしたら、カケララは先回りして答えた。
ロイン大将の前情報どおり、このカケララの特殊能力は人の心を読むことのようだ。
カケララは基本能力を見せびらかすように、変身する様を見せつけた。
変化の仕方はモーフィングの様相で、身長が少し伸び、ショートヘアの赤髪が腰に差しかかるほどの長さまで伸び、軍服は真っ赤なタイトドレスへと変貌した。気づけば靴も真っ赤なハイヒールになっている。
カケララの元であるカケラは幼女の姿をしていたくせに、母親を追い抜いた娘のように、いまでは豊艶で妖艶な魅惑的女性に様変わりしている。
豊満な胸を持ち、露出度も高い。完全に大人の女性だった。
「ふふふ。自分のほうがかわいいと思っているわね。自信に満ちた餓鬼は嫌いじゃないわ。いじめ甲斐があって」
「あなたこそ、欠片の欠片、切れっぱしの分際で自信満々じゃないの」
「ぷぷぷ。私のことを滅茶苦茶警戒しているの、丸分かりなんだけど。しかも見透かされていることを分かっていて言っているのだから、なおさら滑稽だわ。あなたの口には横柄になるフィルターでも付いているのかしら」
キーラはカケララの能力をロイン大将に知らされたときから、その対処法について考えていた。心を読まれる相手との戦い方を。
一つ目。心を無にして読心能力を無意味にする。つまり本能で戦う。
二つ目。嘘の思考をして欺く。そんな器用な真似はキーラには無理だろう。
三つ目。心を読まれたとしても相手が反応できないスピードで攻撃する。
四つ目。心を読んだとしても打つ手がないような状況に追い込む。エストが得意そう。
五つ目。心を読みたくなくなるような不快な思考をする。狂気相手だと難題すぎる。
キーラが思いついたのはこの五つで、キーラができそうなのは三つ目のやり方だ。次点で一つ目。できれば両方を駆使する。
つまり、本能的、反射的に動き、超スピードで攻める。
「あら、血気盛んなのね。もう始めちゃうの? 私は女子トークを楽しみたいのだけれど」
「心を読める相手とトークなんて楽しめるわけないでしょうが!」
「圧倒的強者に戦いを挑むほうが無謀だと思うけれど」
「いいえ! あたしの自信を自惚れだと思い込んでいるようだから、事実だと思い知らせてあげる。いくよ、スターレ!」
キーラは電気を体表にまとっているが、それがスターレだった。体内に流れることなく、キーラの動きに追随して動く。必要に応じて少しだけキーラの体内に流れ込み、運動能力を向上させる。
それから、キーラは拳を握り、拳にまとわせた電気の密度を上げた。
厳密には、飛んでいるのではなく跳んでいた。
滞空時間が非常に長い跳躍は、一度のジャンプで数百メートルの距離を稼ぐ。速さも時速にして百キロを超えていた。
キーラは体内の電気信号を操作し、身体能力を飛躍的に向上させることができる。しかしそれは体への負担が大きいため、いま使っているのは別の手法だ。
コイル状に流れる電流には磁場が発生する。キーラは自分の靴底に仕込んだ鉄板と、地面とで電流を無理矢理コイル軌道となるよう動かし、発生した磁場で引力や斥力を発生させて移動の手段にしていた。
この魔法の使い方はエアに習ったものだ。
なぜかゲス・エストもエアも普通の人は知らないような専門的科学知識を持っている。特にエアはエスト以上の知識を持ち、まるで脳の中に神の書庫が存在するかのようだった。
キーラはそのエアに付き合ってもらって鍛錬した。
それはもちろん、来たるべき紅い狂気との決戦に備えるためだが、もう一つ、キーラには大きな意味があった。
それはエアを超えること。
エアよりも強くなれば、ゲス・エストが自分を認めてくれる。エアから自分に乗り換えてくれる。そう信じているからこそ、ここまで電気の操作型魔法を磨き上げられたのだ。
キーラは軍事区域に入り、広大な演習場をつっきって本部を目指した。ロイン大将からのメッセージを受け取って、標的がそこにいると知ったのだ。
それまではアテもなくカケララを探して帝国中を飛びまわっていた。
ダースが言うには、カケララに見つからず、こちらが先に見つけやすい位置に送りたいが、帝国のカケララだけは見つからなかったから自分で探してほしい、ということだった。
なぜ自分だけ苦労してカケララを捜しまわらなければならないのか。心中で愚痴をこぼすキーラが大跳躍で空を飛んでいると、何かを視界に捉えた。
最初は黒い点だったが、距離が近づくにつれてキーラと同じように大ジャンプで向かってくる人影だと分かった。
そして、その二人は邂逅した。
キーラが着地点から数歩あるくと相手も着地して数歩前へ出て、互いに立ち止まった。
「あんたがカケララ? 学院にいたときと姿も格好も違うから、帝国じゅうを捜す羽目になったじゃない」
軍事区域の本部に軍服で潜んでいて、しかもカケラよりも高身長になっていたら、世界で五箇所を同時に探っていたダースが見つけられるはずがない。
もしカケララがひと目でそれと分かる格好をしていたら、いまごろはロイン大将やモック工場長と力を合わせて三人で戦っていたはずだ。
しかし、こうして面と向かえば一瞬でそれがカケララと分かる。
紅い眼、紅い唇、紅い爪、異様なまでに禍々しい気配。近くにいるだけで気分が悪くなる威圧的な存在感。
訊くまでもなく、彼女はカケララだった。
「そうよ。訊かなくても教えてあげる。私には変身能力があるのよ。物質の変形や変質もできる。ああ、違う違う。私は特殊能力が三つあるわけじゃないの。これらの力は特殊能力ではなく、私の基本能力よ」
キーラがカケララになぜ姿が変わっているのかを訊こうとしたら、カケララは先回りして答えた。
ロイン大将の前情報どおり、このカケララの特殊能力は人の心を読むことのようだ。
カケララは基本能力を見せびらかすように、変身する様を見せつけた。
変化の仕方はモーフィングの様相で、身長が少し伸び、ショートヘアの赤髪が腰に差しかかるほどの長さまで伸び、軍服は真っ赤なタイトドレスへと変貌した。気づけば靴も真っ赤なハイヒールになっている。
カケララの元であるカケラは幼女の姿をしていたくせに、母親を追い抜いた娘のように、いまでは豊艶で妖艶な魅惑的女性に様変わりしている。
豊満な胸を持ち、露出度も高い。完全に大人の女性だった。
「ふふふ。自分のほうがかわいいと思っているわね。自信に満ちた餓鬼は嫌いじゃないわ。いじめ甲斐があって」
「あなたこそ、欠片の欠片、切れっぱしの分際で自信満々じゃないの」
「ぷぷぷ。私のことを滅茶苦茶警戒しているの、丸分かりなんだけど。しかも見透かされていることを分かっていて言っているのだから、なおさら滑稽だわ。あなたの口には横柄になるフィルターでも付いているのかしら」
キーラはカケララの能力をロイン大将に知らされたときから、その対処法について考えていた。心を読まれる相手との戦い方を。
一つ目。心を無にして読心能力を無意味にする。つまり本能で戦う。
二つ目。嘘の思考をして欺く。そんな器用な真似はキーラには無理だろう。
三つ目。心を読まれたとしても相手が反応できないスピードで攻撃する。
四つ目。心を読んだとしても打つ手がないような状況に追い込む。エストが得意そう。
五つ目。心を読みたくなくなるような不快な思考をする。狂気相手だと難題すぎる。
キーラが思いついたのはこの五つで、キーラができそうなのは三つ目のやり方だ。次点で一つ目。できれば両方を駆使する。
つまり、本能的、反射的に動き、超スピードで攻める。
「あら、血気盛んなのね。もう始めちゃうの? 私は女子トークを楽しみたいのだけれど」
「心を読める相手とトークなんて楽しめるわけないでしょうが!」
「圧倒的強者に戦いを挑むほうが無謀だと思うけれど」
「いいえ! あたしの自信を自惚れだと思い込んでいるようだから、事実だと思い知らせてあげる。いくよ、スターレ!」
キーラは電気を体表にまとっているが、それがスターレだった。体内に流れることなく、キーラの動きに追随して動く。必要に応じて少しだけキーラの体内に流れ込み、運動能力を向上させる。
それから、キーラは拳を握り、拳にまとわせた電気の密度を上げた。
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