ウインタータイム ~恋い焦がれて、その後~

さとう涼

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6.彼女の隠しごと

008

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(side 冬馬)


 輝がサイジに名刺を渡しているのを見て、嫉妬で狂いそうになった。輝を誘うサイジの態度に特別な意味が含まれているように見えたから。これは俺の直感。
 輝はおそらく気づいていない。なにも知らずにあいつに会いにいこうとしている。
 俺が輝の彼氏だったら……。「行くな」と止めることができるのに。

「びっくりさせてごめんね」
「謝ることじゃないよ。それよりすごい知り合いだよな。芸能人かあ。別世界だな」
「そうだね。いまだに信じられないよ」
「でもどういうつながり?」
「学生の頃にファミレスでバイトをしていたんだけど、そこの常連さんだったの」

 ファミレスの常連? あの感じだと単なる知り合いには到底思えない。
 ふたりは過去になにかあったのか? 元彼……ではなさそうだけど。

「それにしてはやけに親密そうだったな」
「そうかな。そんなに親しいわけじゃないよ」
「そのわりに馴れ馴れしく誘ってきたじゃん」
「久しぶりだし、こんな偶然めったにないもん。そりゃあテンションあがるよ」
「ふーん、そういうもんかね」

 これでは嫉妬心丸出しだ。格好悪い。告白もできない俺がなに言ってんだ。

「冬馬くん、あの車じゃない?」

 俺が真剣に悩んでいるのを知らずに、輝は仕事モードになる。ちょうどホテルの玄関に黒い高級車が止まった。

「柳沢会長の車っぽいな」
「行こう、冬馬くん」

 それから俺たちは無事に柳沢会長を会場まで案内し、自分たちもテーブルについた。
 式典がはじまり、社長あいさつ、乾杯などを経て、やがて歓談の時間となる。
 輝は招待客にお酌をしたり、料理を取りわけたり。常に忙しそうにしていた。俺も各テーブルにビールをつぎにまわっていたから、式典の間は輝と話す暇はなかった。

「冬馬、式典が終わったら同期で二次会に行くぞ」

 瓶ビールが空になったところで、よその部署の同期のやつに誘われた。

「おお、いいな。みんなも行くって?」
「ああ。あとは小松崎さんだけなんだけど」
「輝には俺が声をかけとくよ」
「頼むよ。久しぶりだから、全員とはいかないまでも、なるべくたくさんで集まりたいよな」

 入社当時こそみんなでよく集まったけれど、最近はそれぞれ仕事が忙しくなってきて、そんな機会もぐっと減っていた。だけど俺と輝だけは違っていた。ほかの同期よりも長い時間を一緒に過ごしている。
 俺は輝が会場を出ていくタイミングを見計らっていた。
 すると、しばらくして輝が会場を出ていこうとしているのが見えた。
 トイレか? 俺はチャンスだと思ってあとを追う。だけど声をかけそびれてしまった。トイレの手前でスマホを耳にあて、誰かと電話をしていたからだ。
 誰と話してんだ? そう思った瞬間、ある人物が浮かんだ。
 まさかサイジ?
 数分後、こちらに戻ってくる輝をつかまえた。

「あれ? 冬馬くん、どうしたの? トイレ?」
「輝のことを追っかけてきた」
「なにかあった?」
「今日さ、同期の連中で二次会に行こうってなったんだけど、輝は大丈夫だよな?」

 俺は祈るような気持ちで返事を待つ。さっきの電話が気になって嫌な予感がして仕方がない。
 でも俺の予感は的中したようだ。

「ごめん。今日は無理なんだ」
「なんで?」
「用事があるの」
「用事って?」
「うん、ちょっとね……。でもたいしたことじゃないよ」

 輝はそう言うけれど、俺の不安は拭いきれない。「ちょっと」ってなんだよ? たいしたことないんなら言えるだろう。いつもは俺に隠しごとなんてしないくせに、いったいあいつとなにをする気なんだよ!
 だけど俺には止める権利はない。それに今日引きとめたって、別の日にサイジに会いにいく可能性だってあるから、あまり意味がないような気がした。
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