FLORAL-敏腕社長が可愛がるのは路地裏の花屋の店主-

さとう涼

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3.ふたりで過ごす日曜日

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 冴島社長がキッチンの戸棚から取り皿とカトラリーを出してくれた。わたしは言われた通り、ダイニングテーブルに料理を並べる。
 かなりの量だ。とてもふたりでは食べきれそうにない。

「自分で頼んでおいてなんだけど、この量はやばいな」

 ペリエを二本とグラスを手に冴島社長が苦笑する。

「でもどれもおいしそうですね」
「全部うまいよ。味は保証する」

 向かい合わせにテーブルにつく。「遠慮しないで好きなだけどうぞ」と言われ、お言葉通りめいいっぱい取り皿に盛りつけさせてもらった。
 まずはデミグラスソースのハンバーグを口に入れた。

「うーん、おいしいです!」

 ほっぺたを押さえ、思わずうっとりしてしまう。

「だろう? 昔から変わらない味で、店でも一位二位を争う人気らしいよ」

 冴島社長がおすすめするだけあって、味はすべて格別だった。デミグラスソースのハンバーグはふんわりとやわらかく、モッツアレラチーズとトマトのパスタはシンプルな味つけでさっぱりと頂ける。エビフライのエビは実がぷりぷりしていて、カニクリームコロッケは濃厚なクリームが口のなかでとろけていった。

「もしかすると全部いけちゃうかもしれません」
「この間の定食屋でも思ったけど、食べっぷりいいよね」
「えっ!? そうですか!?」

 うわぁ、わたしったらいつものようにがつがつしてしまった。
 でもおいしいから仕方がない。本当に箸が止まらないんだもん。

「別にからかっているんじゃないよ。そういうの好きだし、むしろどんどん食べてほしい」
「ありがとうございます。花屋になって、やたら食欲がわくようになってしまって。やっぱり肉体労働だからですかね」

 冴島社長は笑って聞いてくれるけれど、やっぱり恥ずかしい。うまく笑えなくて顔が引きつってきた。
 グラスにペリエをそそぎ、急いで口に含む。ゴクリと飲み込み、顔の筋肉を和らげた。

「春名さん?」
「だい、大丈夫です。なんでもありません」

 よく考えたら、この状況はかなりすごいことだ。ふたりきりで、しかもプライベート空間で一緒に食事をしているんだ。
 もっと上品に振る舞わないと。これでは庶民感丸出しだ。

 さすが冴島社長は異性と食事をするのは慣れているんだろうな。いつもと同じ落ち着いたテンションで、緊張感もまったく感じられない。
 もっともわたしのことなんて眼中になくて、単なる花屋の店主にすぎないんだろうけれど。

「ごめん、やっぱり失礼なこと言っちゃったよな」
「いいえ、そんなこと……」
「昔からデリカシーがないってよく言われるんだけど、さっきのは悪い意味じゃなくて、本当にいいなって思ったんだ。だから今日誘ったわけだし」

 思いのほか真摯な態度に驚かされ、わたしの心が柔軟になっていく。彼の言葉を素直に受け入れられた。
 思ったより普通の人なのかもしれない。自分の思うがままに行動し、我が道を行く人だけれど、やさしいところもあって、そんなときほっとする。

「誘っていただいてうれしいです」

 それだけ言ってまた箸を動かす。冴島社長もそれ以上はその話題に触れることなく、機嫌よく笑って食事を再開した。

「親の後を継ぐってさ……」

 冴島社長がふいになにかを言いかけた。言葉をさがしているのか、伏し目がちに取り皿のパスタを見つめている。

「かなり覚悟がいるよな」

 わたしに問うわけでなく、ひとりごとのように言う。
 もしかして自分のことを言っているのだろうか。

「やっぱり、冴島物産を継がれるんですか?」
「いや、冴島物産の社長には、ゆくゆくは弟が就任する予定だよ。反対がなければの話だけど」
「弟さんが?」
「僕が冴島家から逃げ出して勝手に起業したもんだから、弟が犠牲になったんだ」
「社長になることが犠牲……」

 どういうことなのだろう。
 冴島社長の深刻そうな口ぶりから、なにか深い事情があるように思えた。
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