離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

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冒険者登録試験

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「まずは、こちらの演習場で基本的な戦闘技術の確認をさせていただきます」

 あちらをご覧ください、と受付嬢が演習場の奥を見るようにうながした。
 そこには、それぞれ大きさの違う五つのまとが用意されている。

「どのような攻撃手段を使っても構いません。全ての的に攻撃を当ててください」

 受付嬢の説明を聞いたライラは、イルシアとファルから事前に教えてもらった通りだと思いながら的を眺める。
 一次試験は毎回この内容なのだそうだ。用意された大小の的に攻撃を当てるだけ、難しいことは何もない。

「とくにご質問はないと思いますので、さくっと始めますね。それでは、受験番号一番の方からこちらにどうぞ」

 受付嬢が明るく声をかけると、緊張した面持ちの青年が前に出た。どうやら彼が受験番号一番らしい。

 ライラはその青年の様子をじっと観察する。
 青年は的の前に立つと、腰にさしていた剣を鞘から抜いた。彼は的に向かって剣を構えると、一つ目の的を力強く切り裂いた。 
 それから青年は一度も動きを止めることなく、流れるように全ての的を真っ二つにしていく。

「――はは、何の芸もなくただ切っただけかよ」
「つまらねえ奴だな。もっと派手にやれってんだよ」

 一番の青年が全ての的を真っ二つにして剣を鞘にしまったとき、どこからか野次が飛んできた。
 組合の演習場には受験者や試験の関係者以外に、複数の冒険者の姿がある。
 大人しく見学をしてくれていればよいが、どうやらそうはいかないらしい。下品な笑みを浮かべながら、受験者を見て悪態をついてくる。

 先日、ライラが組合にやってきたときにもいた連中だ。
 こんなところでたむろしている暇があるなら依頼を受ければよいのにと、ライラは呆れかえってしまう。

 ライラが空気を乱す嫌な連中だなと思っていると、一番の青年が受験者たちのところへ戻ってきた。彼は野次を飛ばしてくる連中を、不安そうにチラチラと横目で見ている。あれだけの大声で喚かれれば、彼にも悪態が聞こえていたはずだ。

「では、受験番号二番の方こちらへ」

 受付嬢に呼ばれて、受験番号二番の若者が的の前に立った。
 二番の受験者は槍を構えると、必要以上に大きく声を張り上げて的に向かって突進していく。

「――ふん。勢いはいいが、それだけだな」
「ああ、ただ的に攻撃を当てるだけなら誰でもできる」
「もっと工夫しろってんだよ」

 げらげら笑いながら野次を飛ばす連中を、試験の監督役が静かにしているように注意した。しかし、奴らは黙らなかった。
 ライラはいちいち不満を口にする連中を不快に思っていたが、態度には出さず演習場全体を眺めていた。


「……あの手の奴らは何をしたって文句を言うの」

 ライラはそばにいる受験者だけに聞こえるように言った。
 連中の思い通りにさせてしまうのは気に入らない。奴らが黙らないなら、受験者の方を落ちつかせてしまえばいい。そう思ったライラは言葉を続けた。

「あんな奴らの言うことを気にするなんて馬鹿らしいわ。こんなところでいきがっているだけの連中よ?」

 二番の受験者があれだけ声を張ったのは、連中の小言を意識してしまったからだ。今も的に向かって攻撃をするときに、身体に余計な力が入ってしまっている。
 この程度のことで心を乱すのは未熟だと言ってしまえばそれまでだが、試験の担当ではない者が受験者に精神的な負荷をかけるのは違うだろうと思う。

「指示されたことをすれば問題ないわ。この程度の試験で落ちると思うのかしら?」

 受付嬢は試験開始前に、基本的な戦闘技術の確認をする、全ての的に攻撃を当てろ、としか言っていないのだからその通りにすればいい。派手にしろとも、工夫をしろとも言ってはいない。

 ライラの言葉を聞いた周囲の受験者がはっとした顔をする。
 声かけは功を奏した。三人目以降のどの受験者も、野次などまったく気にすることなく落ち着いて攻撃を的に当てていく。
 中には、ライラに対して不満げな態度をみせた受験者もいたが、真面目な顔で真っすぐ前を向いたまま無視を決め込んだ。
  
「……めぼしい新人がいたら自分たちの仲間に勧誘しようって魂胆かしら。それとも、出る杭は早めにってほうなのかしらね」

 あまりに模範的な受験者の態度に、悪態をついている連中はどうにも面白くなさそうだ。相変わらず飛んでくる野次に、ライラは呆れながら誰にも聞こえない小さな声でぼやいた。
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