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鍛冶屋
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ライラの回答を聞いて、マディスの表情が驚愕に染まる。
マディスはしばらくの間、腕を組んで黙って考え込んでしまった。
ライラはそんなマディスを置いて、投げたナイフを的まで歩いて取りに行く。元の場所までライラが戻ってくると、マディスは額に皺を寄せながら口を開いた。
「……お前さ、元ミスリルランクの冒険者なら再試験くらい免除されるんじゃねえのか?」
マディスの言葉を聞いて、ファルは口を大きく開けてぽかんとしてしまった。イルシアは顔を引き締めてライラをじっと見つめてくる。
「実のところ私もそう思っていたの。だからね、受付でプレートを見せたのよ?」
ライラはそう言ってから、両手を広げて肩をすくめると首を横に振った。
「まあ、ズルはいけないことだからね。大人しく試験を受けるわ」
ライラのあっさりとした返事に、マディスは納得がいかないらしく顔をしかめている。
しかし、彼は急にはっと大きく目を見開くと声をあげた。
「――っまさか、あの短剣はランクアップの?」
「ええ、そうよ。ミスリルにランクが上がった時にね……。知り合いから祝いの品として貰ったの」
ライラが以前に冒険者をしていた頃、ある風習があった。ランクアップした者に、上がったランクの鉱石と同じ素材で作った何かを、祝いの品として贈るというものだ。
「だったらわざわざ手放さなくてもいいじゃねえか。ミスリルなんておいそれと人様に贈れる物じゃねえ。それをわざわざ贈るってことは、相手はそれなりに親しい関係のやつだろう?」
マディスが真剣な顔をして言った。
たしかに、財力もあれば当時は愛もあったのだろうと思う。しかし、やっと手放せたというのに今さらあの短剣を返されても困る。
ライラはルーディに言われた言葉を思い出し、真似をさせてもらった。
「物に罪がないのはわかるけど、思い出があるものだからこそ手放したいの」
ライラは力なく笑いながら答えた。
良い素材で作られた上に、性能も文句なしの品だが、手元に残しておくには抵抗がある。
「ああそうかい。……ここは好きなだけ使っていいから、気が済むまでいろよ」
「それは助かるわ。本当にありがとう」
マディスはライラの礼を聞くと、こちらに背を向けて工房の方へ歩き出してしまった。この場から立ち去って行く彼の背中から、機嫌の悪そうな雰囲気を感じとったライラは首をかしげる。
「……何かしてしまったかしら?」
ライラは不安になってイルシアとファルに問いかけた。
「知らねえ。別にいいんじゃね」
「ご、ごめんなさい! お父さんてば本当に愛想が悪くて。いつものことなので気にしないでください!」
イルシアには面倒くさそうに答えられ、ファルには頭を下げられてしまった。
「そう? ならいいのだけれど……」
それから、その日は遠慮なく中庭で弓の使用感を確かめた。
イルシアとファルに試験のことを相談することもできて、ライラは充実した時間を過ごすことができた。
マディスはしばらくの間、腕を組んで黙って考え込んでしまった。
ライラはそんなマディスを置いて、投げたナイフを的まで歩いて取りに行く。元の場所までライラが戻ってくると、マディスは額に皺を寄せながら口を開いた。
「……お前さ、元ミスリルランクの冒険者なら再試験くらい免除されるんじゃねえのか?」
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「実のところ私もそう思っていたの。だからね、受付でプレートを見せたのよ?」
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「まあ、ズルはいけないことだからね。大人しく試験を受けるわ」
ライラのあっさりとした返事に、マディスは納得がいかないらしく顔をしかめている。
しかし、彼は急にはっと大きく目を見開くと声をあげた。
「――っまさか、あの短剣はランクアップの?」
「ええ、そうよ。ミスリルにランクが上がった時にね……。知り合いから祝いの品として貰ったの」
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「だったらわざわざ手放さなくてもいいじゃねえか。ミスリルなんておいそれと人様に贈れる物じゃねえ。それをわざわざ贈るってことは、相手はそれなりに親しい関係のやつだろう?」
マディスが真剣な顔をして言った。
たしかに、財力もあれば当時は愛もあったのだろうと思う。しかし、やっと手放せたというのに今さらあの短剣を返されても困る。
ライラはルーディに言われた言葉を思い出し、真似をさせてもらった。
「物に罪がないのはわかるけど、思い出があるものだからこそ手放したいの」
ライラは力なく笑いながら答えた。
良い素材で作られた上に、性能も文句なしの品だが、手元に残しておくには抵抗がある。
「ああそうかい。……ここは好きなだけ使っていいから、気が済むまでいろよ」
「それは助かるわ。本当にありがとう」
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「……何かしてしまったかしら?」
ライラは不安になってイルシアとファルに問いかけた。
「知らねえ。別にいいんじゃね」
「ご、ごめんなさい! お父さんてば本当に愛想が悪くて。いつものことなので気にしないでください!」
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「そう? ならいいのだけれど……」
それから、その日は遠慮なく中庭で弓の使用感を確かめた。
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