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鍛冶屋
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しおりを挟むライラは日が暮れてしまう前に、宿にしている定食屋に戻ってきた。
店内に足を踏み入れたライラは、カウンターに座るトゥールの姿に気がついた。
「おお、なんだその格好は! 見違えたなあ」
トゥールもライラがやってきたことに気がつくと、こちらの姿を見て豪快に笑い出した。
そんなトゥールの横には小さな女の子がいる。どことなくトゥールに似ている女の子を見て、ライラはすぐに彼の娘だと気がついた。
「あら、今日は素敵なレディーをお連れなのね」
ライラは女の子に近付くと、目の前で跪いてそっと手を差し出した。
「お初にお目にかかりますお姫さま。私はライラと申します」
女の子は目の前に差し出されたライラの手に戸惑っている。彼女は助けを求めるように隣にいるトゥールを見上げた。ライラはそれをあえて無視して女の子の手を取る。
「可愛らしいお嬢さん。あなたのお名前を知る栄誉をこの私にお与えくださいませんか?」
ライラが女の子の顔を覗き込むようにして微笑むと、彼女は頬を赤く染めて手を引っ込めた。女の子はトゥールの身体にしがみつくと、恥ずかしそうにしながら彼の背に隠れてしまう。
「おいこら。うちの娘をたぶらかすんじゃねえよ」
「まあ、こんな素敵なレディーを連れているあなたがいけないのよ」
ライラは立ち上がると、トゥールの隣の椅子に座った。カウンターに肘をついて身体を前に乗り出すと、トゥールにしがみつく女の子を見つめる。
女の子はトゥールの身体に顔を埋めてしまっているので、こちらを見てくれない。しかし、トゥールに肩を揺すられておずおずと口を開いた。
「あ、あの……。わ、私はアヤ、です」
「まあ、素敵なお名前ね。アヤちゃんって呼んでもいいかしら?」
ライラの問いかけに、アヤは耳まで赤く染めて無言で頷く。
「おいこらライラ! うちの姪っ子をたぶらかすんじゃないよ」
「まあルーディってば。それはたった今あなたのお兄さまにも言われたわ。さすが兄妹ね」
ライラがうんざりした顔でぼやくと、トゥールとルーディが同時に口を開いた。
「一緒にするな」
「一緒にしないで」
二人の声がきれいに重なった。すると、アヤがトゥールの身体から離れてきゃっきゃと子供らしく笑い出す。
やっと顔を見せてくれたアヤの無邪気な姿を眺めながら、ライラはトゥールに話しかけた。
「無事にお仕事が片付いたようで安心したわ。こうして娘さんとも仲良く過ごせているようで何よりね」
「それはこっちの台詞だ。昨日の今日で顔つきがまったく違う。無事に過ごせているようで何よりだ」
「そうよ。命を絶つつもりなんてこれっぽっちもないから、変なことを言いふらさないでね」
「そうらしいな。今のお前を見たらわかる。安心したぜ!」
そう言って歯を見せて笑うトゥールに、ライラは肩をすくめた。
「それなら良かったわ」
「おう良かったぜ! じゃあな、俺は帰るぜ」
そう言うが否や、トゥールは立ちあがる。
相変わらず慌ただしい人だなとライラが呆気に取られていると、トゥールはアヤの腕を引いてとっとと歩き出した。アヤはいきなり父親に腕を引かれてフラフラしながら歩いていく。
ライラがはらはらしながら親子の姿を見ていると、店の扉が閉まる直前にアヤがこちらを振り返って声をかけてきた。
「またね、お姉ちゃん!」
「ええ、またね」
恥じらいつつも笑顔で手を振るアヤの表情はトゥールにとてもよく似ている。
ライラはそれを微笑ましく思いながら手を振った。
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