34 / 151
鍛冶屋
13
しおりを挟む
ライラの回答を聞いて、マディスの表情が驚愕に染まる。
マディスはしばらくの間、腕を組んで黙って考え込んでしまった。
ライラはそんなマディスを置いて、投げたナイフを的まで歩いて取りに行く。元の場所までライラが戻ってくると、マディスは額に皺を寄せながら口を開いた。
「……お前さ、元ミスリルランクの冒険者なら再試験くらい免除されるんじゃねえのか?」
マディスの言葉を聞いて、ファルは口を大きく開けてぽかんとしてしまった。イルシアは顔を引き締めてライラをじっと見つめてくる。
「実のところ私もそう思っていたの。だからね、受付でプレートを見せたのよ?」
ライラはそう言ってから、両手を広げて肩をすくめると首を横に振った。
「まあ、ズルはいけないことだからね。大人しく試験を受けるわ」
ライラのあっさりとした返事に、マディスは納得がいかないらしく顔をしかめている。
しかし、彼は急にはっと大きく目を見開くと声をあげた。
「――っまさか、あの短剣はランクアップの?」
「ええ、そうよ。ミスリルにランクが上がった時にね……。知り合いから祝いの品として貰ったの」
ライラが以前に冒険者をしていた頃、ある風習があった。ランクアップした者に、上がったランクの鉱石と同じ素材で作った何かを、祝いの品として贈るというものだ。
「だったらわざわざ手放さなくてもいいじゃねえか。ミスリルなんておいそれと人様に贈れる物じゃねえ。それをわざわざ贈るってことは、相手はそれなりに親しい関係のやつだろう?」
マディスが真剣な顔をして言った。
たしかに、財力もあれば当時は愛もあったのだろうと思う。しかし、やっと手放せたというのに今さらあの短剣を返されても困る。
ライラはルーディに言われた言葉を思い出し、真似をさせてもらった。
「物に罪がないのはわかるけど、思い出があるものだからこそ手放したいの」
ライラは力なく笑いながら答えた。
良い素材で作られた上に、性能も文句なしの品だが、手元に残しておくには抵抗がある。
「ああそうかい。……ここは好きなだけ使っていいから、気が済むまでいろよ」
「それは助かるわ。本当にありがとう」
マディスはライラの礼を聞くと、こちらに背を向けて工房の方へ歩き出してしまった。この場から立ち去って行く彼の背中から、機嫌の悪そうな雰囲気を感じとったライラは首をかしげる。
「……何かしてしまったかしら?」
ライラは不安になってイルシアとファルに問いかけた。
「知らねえ。別にいいんじゃね」
「ご、ごめんなさい! お父さんてば本当に愛想が悪くて。いつものことなので気にしないでください!」
イルシアには面倒くさそうに答えられ、ファルには頭を下げられてしまった。
「そう? ならいいのだけれど……」
それから、その日は遠慮なく中庭で弓の使用感を確かめた。
イルシアとファルに試験のことを相談することもできて、ライラは充実した時間を過ごすことができた。
マディスはしばらくの間、腕を組んで黙って考え込んでしまった。
ライラはそんなマディスを置いて、投げたナイフを的まで歩いて取りに行く。元の場所までライラが戻ってくると、マディスは額に皺を寄せながら口を開いた。
「……お前さ、元ミスリルランクの冒険者なら再試験くらい免除されるんじゃねえのか?」
マディスの言葉を聞いて、ファルは口を大きく開けてぽかんとしてしまった。イルシアは顔を引き締めてライラをじっと見つめてくる。
「実のところ私もそう思っていたの。だからね、受付でプレートを見せたのよ?」
ライラはそう言ってから、両手を広げて肩をすくめると首を横に振った。
「まあ、ズルはいけないことだからね。大人しく試験を受けるわ」
ライラのあっさりとした返事に、マディスは納得がいかないらしく顔をしかめている。
しかし、彼は急にはっと大きく目を見開くと声をあげた。
「――っまさか、あの短剣はランクアップの?」
「ええ、そうよ。ミスリルにランクが上がった時にね……。知り合いから祝いの品として貰ったの」
ライラが以前に冒険者をしていた頃、ある風習があった。ランクアップした者に、上がったランクの鉱石と同じ素材で作った何かを、祝いの品として贈るというものだ。
「だったらわざわざ手放さなくてもいいじゃねえか。ミスリルなんておいそれと人様に贈れる物じゃねえ。それをわざわざ贈るってことは、相手はそれなりに親しい関係のやつだろう?」
マディスが真剣な顔をして言った。
たしかに、財力もあれば当時は愛もあったのだろうと思う。しかし、やっと手放せたというのに今さらあの短剣を返されても困る。
ライラはルーディに言われた言葉を思い出し、真似をさせてもらった。
「物に罪がないのはわかるけど、思い出があるものだからこそ手放したいの」
ライラは力なく笑いながら答えた。
良い素材で作られた上に、性能も文句なしの品だが、手元に残しておくには抵抗がある。
「ああそうかい。……ここは好きなだけ使っていいから、気が済むまでいろよ」
「それは助かるわ。本当にありがとう」
マディスはライラの礼を聞くと、こちらに背を向けて工房の方へ歩き出してしまった。この場から立ち去って行く彼の背中から、機嫌の悪そうな雰囲気を感じとったライラは首をかしげる。
「……何かしてしまったかしら?」
ライラは不安になってイルシアとファルに問いかけた。
「知らねえ。別にいいんじゃね」
「ご、ごめんなさい! お父さんてば本当に愛想が悪くて。いつものことなので気にしないでください!」
イルシアには面倒くさそうに答えられ、ファルには頭を下げられてしまった。
「そう? ならいいのだけれど……」
それから、その日は遠慮なく中庭で弓の使用感を確かめた。
イルシアとファルに試験のことを相談することもできて、ライラは充実した時間を過ごすことができた。
63
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ
水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。
それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。
黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。
叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。
ですが、私は知らなかった。
黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。
残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる