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けじめ
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辺りがしんと静まり返っている。
クロードがまったく動かなくなってしまったので、ライラはどうするべきかと困惑していた。
すると、ファルが気まずい空気を打ち破るように、あっけらかんとした声を上げる。
「……あららー。これじゃあもうクロードさんは戦う気力がなさそうですねえ」
ファルは何故だか拗ねたように頬を膨らませる。
「せっかくあれがもういちど見られると思っていたのになー。なんだか残念だなー」
ライラはクロードの相手をすることが嫌になっていたので、視線をファルに移して彼女の様子について尋ねた。
「急にそんな顔をしてどうしたの? あれって何かしら」
ライラが質問を口にすると、ファルは待ってましたと言わんばかりの明るい表情をつくった。
「あれはですね。ほら、ライラさんが冒険者登録試験のときにやったあれですよ。的をドカーンて叩き割るやつです!」
ファルが拳を構えて目の前に突き出した。ライラが以前に冒険者登録試験の一次試験で見せた的割りを再現しているつもりらしい。
「あれ、すっごくカッコよかったです! 今でもあのときの光景がはっきりと思い出せるくらい、大好きなんですよねえ」
「……あら、そうだったの? そんなに見たかったのならやってみせましょうか。ちょうどあの時みたいに動かない的があるしね」
ライラがクロードを冷たく見下ろしながら言うと、ファルが声を上げて喜んだ。そこへイルシアが慌てて駆け付けてきて、ライラとファルの間に割って入る。
「――馬鹿か! んなことやったらさすがに死ぬだろ」
「大丈夫よ。この人は図太いから簡単に死にはしないわ」
「そうだよイル。こういう人に限って長生きなんだよー?」
「さっきからみんなどうしたんだよ! 俺がおかしいのか? 違うよな⁉」
イルシアが頭を掻きむしって叫ぶ。そんなイルシアの元にマスターがやってきて、穏やかに声をかけた。
「いずれイルシア君も、この人となら生涯を共にしたい、そういうことを真剣に考えるときがくるでしょう」
マスターはイルシアの肩にそっと手を置いた。
「そうしたら理解できますよ。心から愛する人に裏切られたら、悲しいとか悔しいとか、そんな風に簡単に言い表せないくらい、感情がめちゃくちゃになってしまうのです」
「いやいや、だからって一発ぶん殴るかってならないっすよ。そんなのはおかしいですって」
優しく言い聞かせるように語るマスターに、イルシアが苦い顔をして答えた。
「……そうですか。イルシア君はそんなことにならないように、周りの人をよく見ていてくださいね」
マスターはポンとイルシアの背中を叩くと、その場を離れた。
マスターはそのまま微動だにしないクロードの元へ行って声をかける。しかし、クロードは声かけに応じない。
マスターはまったく動こうとしないクロードにすぐに嫌気が差したのか、無理やり首根っこを掴んで引きずりながらヴィリの元へ向かっていった。
クロードがまったく動かなくなってしまったので、ライラはどうするべきかと困惑していた。
すると、ファルが気まずい空気を打ち破るように、あっけらかんとした声を上げる。
「……あららー。これじゃあもうクロードさんは戦う気力がなさそうですねえ」
ファルは何故だか拗ねたように頬を膨らませる。
「せっかくあれがもういちど見られると思っていたのになー。なんだか残念だなー」
ライラはクロードの相手をすることが嫌になっていたので、視線をファルに移して彼女の様子について尋ねた。
「急にそんな顔をしてどうしたの? あれって何かしら」
ライラが質問を口にすると、ファルは待ってましたと言わんばかりの明るい表情をつくった。
「あれはですね。ほら、ライラさんが冒険者登録試験のときにやったあれですよ。的をドカーンて叩き割るやつです!」
ファルが拳を構えて目の前に突き出した。ライラが以前に冒険者登録試験の一次試験で見せた的割りを再現しているつもりらしい。
「あれ、すっごくカッコよかったです! 今でもあのときの光景がはっきりと思い出せるくらい、大好きなんですよねえ」
「……あら、そうだったの? そんなに見たかったのならやってみせましょうか。ちょうどあの時みたいに動かない的があるしね」
ライラがクロードを冷たく見下ろしながら言うと、ファルが声を上げて喜んだ。そこへイルシアが慌てて駆け付けてきて、ライラとファルの間に割って入る。
「――馬鹿か! んなことやったらさすがに死ぬだろ」
「大丈夫よ。この人は図太いから簡単に死にはしないわ」
「そうだよイル。こういう人に限って長生きなんだよー?」
「さっきからみんなどうしたんだよ! 俺がおかしいのか? 違うよな⁉」
イルシアが頭を掻きむしって叫ぶ。そんなイルシアの元にマスターがやってきて、穏やかに声をかけた。
「いずれイルシア君も、この人となら生涯を共にしたい、そういうことを真剣に考えるときがくるでしょう」
マスターはイルシアの肩にそっと手を置いた。
「そうしたら理解できますよ。心から愛する人に裏切られたら、悲しいとか悔しいとか、そんな風に簡単に言い表せないくらい、感情がめちゃくちゃになってしまうのです」
「いやいや、だからって一発ぶん殴るかってならないっすよ。そんなのはおかしいですって」
優しく言い聞かせるように語るマスターに、イルシアが苦い顔をして答えた。
「……そうですか。イルシア君はそんなことにならないように、周りの人をよく見ていてくださいね」
マスターはポンとイルシアの背中を叩くと、その場を離れた。
マスターはそのまま微動だにしないクロードの元へ行って声をかける。しかし、クロードは声かけに応じない。
マスターはまったく動こうとしないクロードにすぐに嫌気が差したのか、無理やり首根っこを掴んで引きずりながらヴィリの元へ向かっていった。
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