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けじめ
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ライラはイルシアとファルの二人と合流すると、そのまま病院内の別の病室に足を運んだ。
「おはようアヤちゃん。良かった、元気そうね」
ライラは病室の中に入ると、ベッドの上で身体を起こして絵を描いていたアヤに声をかけた。
誘拐事件のあと、ライラは自身の入院や事後処理に追われていて、アヤに会えていなかった。
アヤは幸いにも、誘拐されてから目覚めるまでずっと眠っていたため、何も覚えてはいなかったそうだ。
瘴気による後遺症もいまのところ何もなく、食事もしっかり摂れているらしい。
「おかげさまで元気だぞ。今日の検査で何もなかったら退院していいって医者にも言われてる」
自宅からの病院通いはしばらく続くけどな、と言いながらトゥールが歯を見せて笑う。
「……本当によかったわ。トゥールさんも、少し見ない間にすっかり元気になっているようでびっくりしちゃった」
「ああ、うちの女房も無事に見つかってさ。ちゃんと落ち着いて話し合いもできたし、別れることになったんだ。気持ちのけじめがついたというか……」
トゥールはそこまで話をしてから大きく深呼吸した。
「――アヤと2人で生活をしていこうって、決心がついた」
ライラはトゥールの決意に満ちた表情に衝撃を受けた。
一週間ほど前に見たトゥールの姿からは想像もつかない。彼はもう心を決めたのだ。
「それはとても良いことね、と言ってもいいのかしら。とにかく、けじめをつけられたようで安心したわ。……でも、お仕事の方は大丈夫なの?」
「ああ、幸いというか、雇い主が良い人でな。俺の事情を考慮してくれて、これからは内勤にまわしてもらえることになった。給料は少なくなるが、俺とアヤの二人だしな」
なんとかなるさ、とトゥールはすっきりとした顔で言った。
ライラがトゥールの顔を見ながら安堵していると、彼は看護師に呼ばれたアヤと共に病室を出て行ってしまった。
「あら、何かしらこれ」
ライラはアヤとトゥールの出て行った病室の壁に、何か貼られていることに気が付いた。
「……お見舞い当番表……?」
大きな文字でそう書かれたカレンダーが貼り付けられている。
天井や壁など、何もかもが真っ白でベッド以外には特に何も置かれていない病室の中で、それだけは妙に目立っていた。
ライラがカレンダーを見ながら首を傾げてつぶやくと、イルシアが壁に視線を移してから小さく笑った。
「……ああ、それか? ファルが作ったんだよ」
「これをファルちゃんが作ったの? どうしてまたこんなものを……」
ライラがファルを見つめて尋ねると、彼女は頬を膨らませてこちらを指差してきた。
「ライラさんってば、アヤちゃんと約束したらしいじゃないですか。アヤちゃんが寝るときはそばにいてあげるって!」
「……ああ、たしかアヤちゃんが泣いていてどうしようもなかったときに、そういう会話をした記憶があるけれど……」
それがどうしたのかしら、と言うと、ファルは憤慨しながらライラの額を指でつついた。
「ライラさんが入院中で検査やらなんやらでこの病室にはこられなかったので、別の人にその役目を頼んだんです。誰かが必ずこの病室にいるように、当番表を作ったんですー!」
アヤちゃんのお父さんだってお仕事があるから常に病室にいるのは大変ですしね、と言ってファルは腕を組むと、じとっとした目でライラを睨んでくる。
カレンダーをよく見ると、日付の横にファルが書いたらしいその日の病室にいる担当者の名前が書かれている。
そして、きちんと見舞いにやってきたという証のつもりなのか、名前が書かれている本人のものらしきサインが日付の下にある。
知り合いの名前がずらりと並んでいるカレンダーを見て、ライラは微笑んだ。
「……素敵ね。周りにこうして助けてくれる人がいるってわかると、すごく励みになるもの」
ライラがそうつぶやくと、ファルは胸を張って笑った。
「おはようアヤちゃん。良かった、元気そうね」
ライラは病室の中に入ると、ベッドの上で身体を起こして絵を描いていたアヤに声をかけた。
誘拐事件のあと、ライラは自身の入院や事後処理に追われていて、アヤに会えていなかった。
アヤは幸いにも、誘拐されてから目覚めるまでずっと眠っていたため、何も覚えてはいなかったそうだ。
瘴気による後遺症もいまのところ何もなく、食事もしっかり摂れているらしい。
「おかげさまで元気だぞ。今日の検査で何もなかったら退院していいって医者にも言われてる」
自宅からの病院通いはしばらく続くけどな、と言いながらトゥールが歯を見せて笑う。
「……本当によかったわ。トゥールさんも、少し見ない間にすっかり元気になっているようでびっくりしちゃった」
「ああ、うちの女房も無事に見つかってさ。ちゃんと落ち着いて話し合いもできたし、別れることになったんだ。気持ちのけじめがついたというか……」
トゥールはそこまで話をしてから大きく深呼吸した。
「――アヤと2人で生活をしていこうって、決心がついた」
ライラはトゥールの決意に満ちた表情に衝撃を受けた。
一週間ほど前に見たトゥールの姿からは想像もつかない。彼はもう心を決めたのだ。
「それはとても良いことね、と言ってもいいのかしら。とにかく、けじめをつけられたようで安心したわ。……でも、お仕事の方は大丈夫なの?」
「ああ、幸いというか、雇い主が良い人でな。俺の事情を考慮してくれて、これからは内勤にまわしてもらえることになった。給料は少なくなるが、俺とアヤの二人だしな」
なんとかなるさ、とトゥールはすっきりとした顔で言った。
ライラがトゥールの顔を見ながら安堵していると、彼は看護師に呼ばれたアヤと共に病室を出て行ってしまった。
「あら、何かしらこれ」
ライラはアヤとトゥールの出て行った病室の壁に、何か貼られていることに気が付いた。
「……お見舞い当番表……?」
大きな文字でそう書かれたカレンダーが貼り付けられている。
天井や壁など、何もかもが真っ白でベッド以外には特に何も置かれていない病室の中で、それだけは妙に目立っていた。
ライラがカレンダーを見ながら首を傾げてつぶやくと、イルシアが壁に視線を移してから小さく笑った。
「……ああ、それか? ファルが作ったんだよ」
「これをファルちゃんが作ったの? どうしてまたこんなものを……」
ライラがファルを見つめて尋ねると、彼女は頬を膨らませてこちらを指差してきた。
「ライラさんってば、アヤちゃんと約束したらしいじゃないですか。アヤちゃんが寝るときはそばにいてあげるって!」
「……ああ、たしかアヤちゃんが泣いていてどうしようもなかったときに、そういう会話をした記憶があるけれど……」
それがどうしたのかしら、と言うと、ファルは憤慨しながらライラの額を指でつついた。
「ライラさんが入院中で検査やらなんやらでこの病室にはこられなかったので、別の人にその役目を頼んだんです。誰かが必ずこの病室にいるように、当番表を作ったんですー!」
アヤちゃんのお父さんだってお仕事があるから常に病室にいるのは大変ですしね、と言ってファルは腕を組むと、じとっとした目でライラを睨んでくる。
カレンダーをよく見ると、日付の横にファルが書いたらしいその日の病室にいる担当者の名前が書かれている。
そして、きちんと見舞いにやってきたという証のつもりなのか、名前が書かれている本人のものらしきサインが日付の下にある。
知り合いの名前がずらりと並んでいるカレンダーを見て、ライラは微笑んだ。
「……素敵ね。周りにこうして助けてくれる人がいるってわかると、すごく励みになるもの」
ライラがそうつぶやくと、ファルは胸を張って笑った。
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