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「奥さま、馬車までお送りさせていただきます」
「ええ、ありがとう。お願いするわね」
焼き菓子を配り終えたソフィアに、兵士の一人が声をかけてきた。
彼は士官の階級章をつけている。イーサン不在の野営地にやってきたソフィアの対応をしてくれた者だ。ソフィアは彼の案内に従って歩き出す。
「…………恐れながら、奥さまにひとつお願いをしてもよろしいでしょうか」
「まあ、歴戦の勇士の方が私にお願いとは驚きましたわ。いったい何事でございましょうか?」
「あまりイーサン様のことを責めないでくださいませ」
兵士からの思いがけない願いごとだったため、ソフィアは驚いて足を止めた。
一拍おいてから、イーサンにはっきりと拒絶されたことで、つい本音が口から出てしまったことを思い出す。みっともないところを見られてしまったと、ソフィアは両手で顔を覆った。
「ああ、先ほどの私の言葉を聞いていらしたのですね。お恥ずかしいですわ」
「皆もあの奥さまのお言葉と同じ思いでおりますから……。そんなに恥ずかしがることではございませんよ」
兵士は困った顔で笑いながらそう言った。その言葉にソフィアは首を傾げる。
「……あら、皆さまも同じ思いなら、どうして誰も旦那さまに苦言を呈してさしあげないのですか?」
「あの方は領主様が亡くなられた事実をまだ受け止めきれていないのです。……ああ失礼いたしました。先代のことですが……」
兵士は昔を懐かしむような顔で話し出した。彼の年齢からして、先代の辺境伯に長く仕えていたのだろうことは想像がつく。
「病気知らずのお元気な方でした。まさか事故であっさり亡くなられるとは思いもしませんでした」
兵士は先代の辺境伯に思い入れがあるのだろう。言葉に親しみが感じられる。
ソフィアは兵士を正面からしっかりと見つめると、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
「先代さまの悲劇の件は承知しているつもりです。それに、先代さまがご立派なお方だったことも……。ですが、旦那さまはこの地の民の命を背負って立つお方です。いつまでも悲しみに暮れておられては困ります」
ソフィアの発言に、兵士は顔をしかめた。
「お噂はかねがね伺っておりましたが、はっきりと物事を仰る方のようですね」
「間違ったことを言っているつもりはございません。旦那さまにはご自分のお立場をしっかりとご理解して頂いて、それらしく振舞っていただきたいだけです」
「あなたのその態度がイーサン様を追い詰めているとは思いませんか?」
兵士のきつい口調に、やり取りを黙って見ていたルイースが割り込んできた。
「無礼だぞ! 物の言い方には気をつけろ」
「いいのよルイース。彼の意見は貴重だわ。……続けてくださる?」
ソフィアがにっこりと笑って話を促すと、兵士はふっと笑みをこぼしてから口を開いた。
「あなたは素晴らしいご令嬢だ。きっとイーサン様を支えるご立派な奥さまになられるのでしょうね」
「私が嫁いできたのはそうするためです。私は全力で旦那さまを支えていくつもりですわ!」
ソフィアがきっぱりと言い切ると、兵士は声を上げて笑った。
「花嫁が入れ替わったと聞いたときは、どうなることかと不安だったのですが……。お会いできてよかった」
兵士が大声で笑っているので、周囲にいる者たちが何事かとこちらの様子をうかがっている。彼は周囲の視線を気にせずに、話を続けた。
「ええ、ありがとう。お願いするわね」
焼き菓子を配り終えたソフィアに、兵士の一人が声をかけてきた。
彼は士官の階級章をつけている。イーサン不在の野営地にやってきたソフィアの対応をしてくれた者だ。ソフィアは彼の案内に従って歩き出す。
「…………恐れながら、奥さまにひとつお願いをしてもよろしいでしょうか」
「まあ、歴戦の勇士の方が私にお願いとは驚きましたわ。いったい何事でございましょうか?」
「あまりイーサン様のことを責めないでくださいませ」
兵士からの思いがけない願いごとだったため、ソフィアは驚いて足を止めた。
一拍おいてから、イーサンにはっきりと拒絶されたことで、つい本音が口から出てしまったことを思い出す。みっともないところを見られてしまったと、ソフィアは両手で顔を覆った。
「ああ、先ほどの私の言葉を聞いていらしたのですね。お恥ずかしいですわ」
「皆もあの奥さまのお言葉と同じ思いでおりますから……。そんなに恥ずかしがることではございませんよ」
兵士は困った顔で笑いながらそう言った。その言葉にソフィアは首を傾げる。
「……あら、皆さまも同じ思いなら、どうして誰も旦那さまに苦言を呈してさしあげないのですか?」
「あの方は領主様が亡くなられた事実をまだ受け止めきれていないのです。……ああ失礼いたしました。先代のことですが……」
兵士は昔を懐かしむような顔で話し出した。彼の年齢からして、先代の辺境伯に長く仕えていたのだろうことは想像がつく。
「病気知らずのお元気な方でした。まさか事故であっさり亡くなられるとは思いもしませんでした」
兵士は先代の辺境伯に思い入れがあるのだろう。言葉に親しみが感じられる。
ソフィアは兵士を正面からしっかりと見つめると、背筋を真っ直ぐに伸ばした。
「先代さまの悲劇の件は承知しているつもりです。それに、先代さまがご立派なお方だったことも……。ですが、旦那さまはこの地の民の命を背負って立つお方です。いつまでも悲しみに暮れておられては困ります」
ソフィアの発言に、兵士は顔をしかめた。
「お噂はかねがね伺っておりましたが、はっきりと物事を仰る方のようですね」
「間違ったことを言っているつもりはございません。旦那さまにはご自分のお立場をしっかりとご理解して頂いて、それらしく振舞っていただきたいだけです」
「あなたのその態度がイーサン様を追い詰めているとは思いませんか?」
兵士のきつい口調に、やり取りを黙って見ていたルイースが割り込んできた。
「無礼だぞ! 物の言い方には気をつけろ」
「いいのよルイース。彼の意見は貴重だわ。……続けてくださる?」
ソフィアがにっこりと笑って話を促すと、兵士はふっと笑みをこぼしてから口を開いた。
「あなたは素晴らしいご令嬢だ。きっとイーサン様を支えるご立派な奥さまになられるのでしょうね」
「私が嫁いできたのはそうするためです。私は全力で旦那さまを支えていくつもりですわ!」
ソフィアがきっぱりと言い切ると、兵士は声を上げて笑った。
「花嫁が入れ替わったと聞いたときは、どうなることかと不安だったのですが……。お会いできてよかった」
兵士が大声で笑っているので、周囲にいる者たちが何事かとこちらの様子をうかがっている。彼は周囲の視線を気にせずに、話を続けた。
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