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「――っこんなところまで何をしに来た!」
顔を合わせた途端、イーサンが怒鳴りつけてきた。
「あの……えっと……」
「ここは君のような人がくる場所ではない。どうして来たんだ⁉︎」
さすがのソフィアも、イーサンが怒っているということはすぐにわかった。
慌てて焼き菓子の入ったバスケットを背中に隠す。とても差し入れを持ってきたと言える雰囲気ではない。
――どうしましょう。こんな顔は見たことがないわ。やっぱり会いにくるのは行けなかったんだわ。
ソフィアはイーサンの迫力に圧倒されて縮こまってしまう。
イーサンは、野営地近くの森の中で大型モンスターの目撃情報が入ったため、その討伐に出かけていた。しかし、ソフィアが野営地にやって来たと知ると、討伐を切り上げて戻ってきたのだ。
この地域は隣国との小競り合いも多いが、領地境の森の中は狂暴なモンスターの生息地域であり、非常に危険なのだと本で読んだ。
ときおりモンスターが人を襲う被害も出ていると聞く。月に数回ほど目撃情報があり、そのたびに軍が出動して討伐しているらしい。
「ここは危険だ。さっさと帰れ!」
イーサンは吐き捨てるように言うと、ソフィアに背を向けた。
そのまま立ち去ろうとするイーサンの背中に向かって、ソフィアは慌てて声をかけた。
「お待ちくださいませ! 討伐へは旦那さまが行かれなくてはならないのですか?」
ソフィアの問いかけに、イーサンの歩みが止まった。彼は勢いよく振り返ると、ソフィアを睨みつけてくる。
ソフィアは一瞬だけ怯んだが、負けずにぎっと睨み返した。
「…………この森に住むモンスターは危険な種が多いのだと聞き及んでおります。兵士の方にお任せするわけにはいかないのですか?」
イーサンが睨みつけたまま何も言わないので、ソフィアはさらに彼へ問いかけた。すると、彼は深く溜め息をついた。それからすぐに、畳みかけるように話し出した。
「危険とわかっていながらわざわざこんなところまで来たのか? ならば、君がここへ来ることでどれだけの人間に迷惑をかけることになるのかまでは想像できなかったのか?」
「わ、私はただ旦那さまの身を案じて……」
「必要ない。これ以上邪魔をするな!」
それだけ言い残してイーサンは森の中へ戻って行った。
残されたソフィアは茫然と立ち尽くしていた。彼の姿がまったく見えなくなっても動くことができなかった。
「ソ、ソフィア様? あのう、大丈夫ですか……?」
共に野営地までやってきていたルイースが声をかけてくる。
ソフィアは我慢ならなくなってつい大声で叫んでしまった。
「これって野営地の視察なのよね? だったら領主が自ら森の中に入ってモンスター討伐する必要なんてないじゃない! あの人って領主の自覚ある? 自分が死んだらどれだけの影響がでるのかわかっているの⁉ まだ先代の喪が明けたばかりで後継ぎだっていないのよ! 領民がどれだけ不安に思っていることか……。そりゃ身を案じるのは当たり前よねえ⁉」
ソフィアの叫びに、野営地に残っている兵士たちがぎょっとした顔をしている。ルイースはあわあわしながらソフィアを宥めてくる。
「お、お気持ちは十分に理解できますから。どうかお気を静めてくださいませ。皆が聞いていますからあ」
「もういい、もうたくさんよ! こんなことは無駄、全部無駄よ‼」
ソフィアは手にしていたバスケットを地面に叩きつけようとして大きく振りかぶった。
「…………………うう、食べ物を粗末にするなんてできないわ。せっかく頑張って作ったのだし」
振りかぶったバスケットをゆっくりとおろして、ソフィアは大きく息を吐いた。
「駄目、駄目よソフィア。旦那さまのことを悪く言うなんていけないわ。旦那さまには旦那さまなりのお考えがあるのよ。いいわね。次に会った時にはきちんと謝るの」
ソフィアは自分に言い聞かせるために独り言をつぶやく。
「うん。ちゃんとお話をしましょう。今後のこと、きちんと話さなくてはいけないわ」
――それでもし離縁すると言われてしまったら?
「……ううん。それはきちんと受け入れましょう。私が一番に考えるべきなのは、辺境伯家の繁栄とこの地に住む民の幸せなのだから……」
ソフィアは気持ちを落ち着けると、取り乱してしまったことを詫びながら野営地にいる兵士たちに焼き菓子を配ってまわった。
顔を合わせた途端、イーサンが怒鳴りつけてきた。
「あの……えっと……」
「ここは君のような人がくる場所ではない。どうして来たんだ⁉︎」
さすがのソフィアも、イーサンが怒っているということはすぐにわかった。
慌てて焼き菓子の入ったバスケットを背中に隠す。とても差し入れを持ってきたと言える雰囲気ではない。
――どうしましょう。こんな顔は見たことがないわ。やっぱり会いにくるのは行けなかったんだわ。
ソフィアはイーサンの迫力に圧倒されて縮こまってしまう。
イーサンは、野営地近くの森の中で大型モンスターの目撃情報が入ったため、その討伐に出かけていた。しかし、ソフィアが野営地にやって来たと知ると、討伐を切り上げて戻ってきたのだ。
この地域は隣国との小競り合いも多いが、領地境の森の中は狂暴なモンスターの生息地域であり、非常に危険なのだと本で読んだ。
ときおりモンスターが人を襲う被害も出ていると聞く。月に数回ほど目撃情報があり、そのたびに軍が出動して討伐しているらしい。
「ここは危険だ。さっさと帰れ!」
イーサンは吐き捨てるように言うと、ソフィアに背を向けた。
そのまま立ち去ろうとするイーサンの背中に向かって、ソフィアは慌てて声をかけた。
「お待ちくださいませ! 討伐へは旦那さまが行かれなくてはならないのですか?」
ソフィアの問いかけに、イーサンの歩みが止まった。彼は勢いよく振り返ると、ソフィアを睨みつけてくる。
ソフィアは一瞬だけ怯んだが、負けずにぎっと睨み返した。
「…………この森に住むモンスターは危険な種が多いのだと聞き及んでおります。兵士の方にお任せするわけにはいかないのですか?」
イーサンが睨みつけたまま何も言わないので、ソフィアはさらに彼へ問いかけた。すると、彼は深く溜め息をついた。それからすぐに、畳みかけるように話し出した。
「危険とわかっていながらわざわざこんなところまで来たのか? ならば、君がここへ来ることでどれだけの人間に迷惑をかけることになるのかまでは想像できなかったのか?」
「わ、私はただ旦那さまの身を案じて……」
「必要ない。これ以上邪魔をするな!」
それだけ言い残してイーサンは森の中へ戻って行った。
残されたソフィアは茫然と立ち尽くしていた。彼の姿がまったく見えなくなっても動くことができなかった。
「ソ、ソフィア様? あのう、大丈夫ですか……?」
共に野営地までやってきていたルイースが声をかけてくる。
ソフィアは我慢ならなくなってつい大声で叫んでしまった。
「これって野営地の視察なのよね? だったら領主が自ら森の中に入ってモンスター討伐する必要なんてないじゃない! あの人って領主の自覚ある? 自分が死んだらどれだけの影響がでるのかわかっているの⁉ まだ先代の喪が明けたばかりで後継ぎだっていないのよ! 領民がどれだけ不安に思っていることか……。そりゃ身を案じるのは当たり前よねえ⁉」
ソフィアの叫びに、野営地に残っている兵士たちがぎょっとした顔をしている。ルイースはあわあわしながらソフィアを宥めてくる。
「お、お気持ちは十分に理解できますから。どうかお気を静めてくださいませ。皆が聞いていますからあ」
「もういい、もうたくさんよ! こんなことは無駄、全部無駄よ‼」
ソフィアは手にしていたバスケットを地面に叩きつけようとして大きく振りかぶった。
「…………………うう、食べ物を粗末にするなんてできないわ。せっかく頑張って作ったのだし」
振りかぶったバスケットをゆっくりとおろして、ソフィアは大きく息を吐いた。
「駄目、駄目よソフィア。旦那さまのことを悪く言うなんていけないわ。旦那さまには旦那さまなりのお考えがあるのよ。いいわね。次に会った時にはきちんと謝るの」
ソフィアは自分に言い聞かせるために独り言をつぶやく。
「うん。ちゃんとお話をしましょう。今後のこと、きちんと話さなくてはいけないわ」
――それでもし離縁すると言われてしまったら?
「……ううん。それはきちんと受け入れましょう。私が一番に考えるべきなのは、辺境伯家の繁栄とこの地に住む民の幸せなのだから……」
ソフィアは気持ちを落ち着けると、取り乱してしまったことを詫びながら野営地にいる兵士たちに焼き菓子を配ってまわった。
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