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「奥さま。お菓子を作ってきたのでどうぞ」
辺境伯家の歴史について書かれた本を自室で読んでいたソフィアに、使用人が焼き菓子を差し入れてくれた。
「わあ、ありがとう! 頭を使っていたから甘い物が欲しかったのよねえ」
「私にできるのはこれくらいですから。そろそろご休憩なさってくださいませ」
焼き菓子の乗った皿を机の上に置きながら、使用人が本を覗き込んできた。
「奥さまは努力家ですねえ。ここ最近はずっと何かしらのお勉強やレッスンをなさっていますね」
「そうなのよね。旦那さまに好かれるためにはとにかく何かやらなきゃいけないって思っていたのだけど……。本当にこれで淑女になれると思う?」
ソフィアの問いかけに、使用人が口ごもった。彼女は気まずそうに本から視線をそらしてしまう。
「ああ、やっぱりそうなのね! そんな気がしていたのよ。私のやっていることじゃ駄目なのねえ」
ソフィアは本を投げ出して机の上に突っ伏した。
「おかしいと思ったのよ。どれだけ頑張ったって旦那さまは見向きもしてくださらないもの」
「……まあ、もともとソフィア様は基本的なマナーは身についておりますし、お勉強もわりとできる方ですからね。今さら学び直したところで、あまりおかわりないですよ」
ルイースがそう言いながら焼き菓子に合わせた紅茶を用意してくれる。ルイースの言葉を聞いて、ショックを受けたソフィアは菓子にも紅茶にも手をつけず、机に突っ伏したままため息をつく。
「うう、どうしたら旦那さまが興味を持ってくれる素敵な女性になれるのかしら……」
「奥さまはそのままで十分に魅力的な女性だと思うのですが……」
「みんなはそう言ってくれるけど、そうじゃないから旦那さまは私に触れてくださらないのよ。絶対にそうよ」
使用人が慰めの言葉をかけてくれるが、ソフィアの心には全く響かなかった。
「……あ、あの。それじゃあ旦那さまの元へ差し入れに行かれてみるのはいかがですか?」
いつもならば菓子にすぐ手をつけるソフィアがそうしないので、気の毒に思ったらしい使用人が遠慮がちに提案をしてきた。
「それってどういうこと?」
おもいがけない使用人からの提案に、ソフィアは机から顔を上げた。
ソフィアと視線の合った使用人は、テーブルの上に置かれた焼き菓子を指差している。
「私が奥さまにしているように、奥さまも旦那さまにお菓子を差し入れてみるのですよ」
「…………私が旦那さまに、お菓子を?」
イーサンには避けられているので、ソフィアから必要以上に近付いては迷惑だろうと思っていた。だからこそ、何とか振り向いてもらえるように試行錯誤していたのだ。
「はい。疲れているときに何かを差し入れて貰えるのって嬉しいですよね。旦那さまはお忙しい方ですし、とてもお疲れだと思うのです」
使用人の話を聞きながら、ソフィアは腕を組んで考え込む。
避けられている相手の元へ行って、余計に嫌われたりはしないだろうか。きっとこれ以上拒否をされたら、さすがのソフィアでも立ち直れるかわからない。
悩んでいたソフィアだったが、次の使用人の言葉で心は決まった。
「きっと淑女の方ならそういう気の利いたことをなさるのかなって思って……」
ソフィアは目を輝かせた。
自分からイーサンの元へ行ってもいいのだと考えると、気持ちが高ぶってくる。
いつもは屋敷の中でちらりと姿を見かけるだけだ。そんな彼が外ではどんな風に過ごしているのか、以前から気になっていた。
「いま旦那さまは領地境の野営地へ視察に行かれていると聞いております。野営地では食事も限られますから、きっと焼き菓子を持って行ったら喜ばれますよ」
「うん、そうね! 私もあなたにお菓子を差し入れてもらうのはとても嬉しいもの。旦那さまだって嬉しいわよね!」
ソフィアは机に手をついて立ち上がった。次の目標が決まったソフィアは張り切ってイーサンの元へ向かおうとする。しかし、ひとつだけ問題があった。
「……………………ところで、焼き菓子ってどうやって作るの?」
辺境伯家の歴史について書かれた本を自室で読んでいたソフィアに、使用人が焼き菓子を差し入れてくれた。
「わあ、ありがとう! 頭を使っていたから甘い物が欲しかったのよねえ」
「私にできるのはこれくらいですから。そろそろご休憩なさってくださいませ」
焼き菓子の乗った皿を机の上に置きながら、使用人が本を覗き込んできた。
「奥さまは努力家ですねえ。ここ最近はずっと何かしらのお勉強やレッスンをなさっていますね」
「そうなのよね。旦那さまに好かれるためにはとにかく何かやらなきゃいけないって思っていたのだけど……。本当にこれで淑女になれると思う?」
ソフィアの問いかけに、使用人が口ごもった。彼女は気まずそうに本から視線をそらしてしまう。
「ああ、やっぱりそうなのね! そんな気がしていたのよ。私のやっていることじゃ駄目なのねえ」
ソフィアは本を投げ出して机の上に突っ伏した。
「おかしいと思ったのよ。どれだけ頑張ったって旦那さまは見向きもしてくださらないもの」
「……まあ、もともとソフィア様は基本的なマナーは身についておりますし、お勉強もわりとできる方ですからね。今さら学び直したところで、あまりおかわりないですよ」
ルイースがそう言いながら焼き菓子に合わせた紅茶を用意してくれる。ルイースの言葉を聞いて、ショックを受けたソフィアは菓子にも紅茶にも手をつけず、机に突っ伏したままため息をつく。
「うう、どうしたら旦那さまが興味を持ってくれる素敵な女性になれるのかしら……」
「奥さまはそのままで十分に魅力的な女性だと思うのですが……」
「みんなはそう言ってくれるけど、そうじゃないから旦那さまは私に触れてくださらないのよ。絶対にそうよ」
使用人が慰めの言葉をかけてくれるが、ソフィアの心には全く響かなかった。
「……あ、あの。それじゃあ旦那さまの元へ差し入れに行かれてみるのはいかがですか?」
いつもならば菓子にすぐ手をつけるソフィアがそうしないので、気の毒に思ったらしい使用人が遠慮がちに提案をしてきた。
「それってどういうこと?」
おもいがけない使用人からの提案に、ソフィアは机から顔を上げた。
ソフィアと視線の合った使用人は、テーブルの上に置かれた焼き菓子を指差している。
「私が奥さまにしているように、奥さまも旦那さまにお菓子を差し入れてみるのですよ」
「…………私が旦那さまに、お菓子を?」
イーサンには避けられているので、ソフィアから必要以上に近付いては迷惑だろうと思っていた。だからこそ、何とか振り向いてもらえるように試行錯誤していたのだ。
「はい。疲れているときに何かを差し入れて貰えるのって嬉しいですよね。旦那さまはお忙しい方ですし、とてもお疲れだと思うのです」
使用人の話を聞きながら、ソフィアは腕を組んで考え込む。
避けられている相手の元へ行って、余計に嫌われたりはしないだろうか。きっとこれ以上拒否をされたら、さすがのソフィアでも立ち直れるかわからない。
悩んでいたソフィアだったが、次の使用人の言葉で心は決まった。
「きっと淑女の方ならそういう気の利いたことをなさるのかなって思って……」
ソフィアは目を輝かせた。
自分からイーサンの元へ行ってもいいのだと考えると、気持ちが高ぶってくる。
いつもは屋敷の中でちらりと姿を見かけるだけだ。そんな彼が外ではどんな風に過ごしているのか、以前から気になっていた。
「いま旦那さまは領地境の野営地へ視察に行かれていると聞いております。野営地では食事も限られますから、きっと焼き菓子を持って行ったら喜ばれますよ」
「うん、そうね! 私もあなたにお菓子を差し入れてもらうのはとても嬉しいもの。旦那さまだって嬉しいわよね!」
ソフィアは机に手をついて立ち上がった。次の目標が決まったソフィアは張り切ってイーサンの元へ向かおうとする。しかし、ひとつだけ問題があった。
「……………………ところで、焼き菓子ってどうやって作るの?」
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