1,429 / 1,519
フェザータッチ
しおりを挟む外に出て、空気が冷たくて美味い。山の法面に半ば埋まって造られてるのは集合住宅か。崖崩れの防護の意味合いもありそうだ。見学しながら街を歩き、右大外回りでぐるっと大体半周した。法面を過ぎた左手側には外と街とを隔てる外壁の代わりに密着した家が建っていて、民家に混じって店舗が増えて来る。隙間であった場所は詰め物がされて、意図的に壁にしているのが分かる。建物の高さも揃えてあって、住民が雪下ろしか何かの作業してた。襲撃の応戦に使われるのだろうな。
店舗の業種は様々ではあるものの、雪の季節は木戸を閉め切り、欲しい者が来るのを待つスタンスとなっているのが《感知》によって分かる。一見さんには分からないシステムだな。木戸前が雪掻きされてるかで見抜けば良いのだろうか。
木戸で隔てられた店舗の合間に、時折開いてる店がある。気の無い振りして《感知》で凝視すると、皮製品の防寒着や角スコ等が置かれている。季節雑貨の店らしい。他にも魚や肉を扱う食料品店も開いていた。冷蔵庫の中で商売してるようなモンだなこりゃ。
人通りはそこそこ多く、買い物する男女、一部毛が多過ぎて不明な者が見受けられ、その合間を縫う様に子供達が走り回ってはキャッキャしておる。
だがスリだ。
可愛らしい犯罪者達は無邪気に走り回りながら獲物を探し、不用心な獲物から巾着を掠め取ろうと目を凝らしていた。あ、こっち来た。
「え?」「あれ?」
滑りを纏った俺にフェザータッチした子等が不思議そうな声で呟いた。が、その前に、俺は見える範囲には何も持って無いのだ。来る前に気付いて欲しい。
「あきゃっ」
可愛らしい声が目の前で五体投地する。獣民にもドジな子がいるものだ。
「立てるかな?」
「う、立てるもんっ」
膝を折って話し掛ける。外野からの視線を感じるし、俺がやらかしたと思われても困る。
「強い子だな」
立ち上がった正面は泥に塗れ、帰ったら大目玉を食らうに違いない。それを察しているのか、目の前の犯罪者予備軍の顔も体毛に隠れて暗く見える。
「うう…」
「強い子にはご褒美だ」
「うっ」
ちょっと集中して、表面だけ《洗浄》する。肌の露出する鼻は流石に冷たかったのか、小さな声を漏らした。
「ぅあ、すげ」
「走る時は、周りを良く見てな。特に足元」
「うん」
「う…」
可愛い毛むくじゃらを残し、俺は退散する。遠くで兄貴分達が覗いているし、関わっても碌な事無いだろう。
開けっ放しの門から更に半周、こっち側は海に面しているので崖沿いには土塁が敷かれ、その先へ行くのを躊躇わせる坂になっていた。反対の建屋は店舗に宿屋が並び、外から来る客の目に留まる様、寒い中開店して客の対応等精を出している。
「お客さーん、ジェムの宝飾が安いよー」
「現物資産に興味無いかねー?」
まるで魚でも売るような売り言葉は、残念な事に俺に向けられた物では無い。ミスリルの装飾をたっぷり付けた海竜の鎧を着た俺は、可愛いスリがミスリルを剥がしに来る程の見栄えなのだが、天を衝き、光を浴びて輝きを放つペニスケを見るや、売り言葉が右へ左へ逸れて行く。この世界、音は曲がるらしい。
土塁と法面の際は開かれていて、以前ワーリンと入山して子供の小銭稼ぎの真似事をした場所に繋がる。崖の際には階段があり、そこを下ると港があって、鉱山に住む荒くれ者より荒い荒くれ漁師達の縄張りとなっていると、地もピーの二人に聞いた。
君子危うきに近寄らず。俺、一応君子だし、港って関係者以外立入禁止の場所が多いと前世で学んでいるので近寄らず、街の中心に向かって一本路地に入った。今度は左回りで行くかな。
背中合わせに建てられた建屋を抜けて通りに出ると、外側の通りとは雰囲気が変わる。日が当たらない分寒さが増したのだろうか。外側、閉め切られた店舗には武器防具が並び、内側は宿屋に…あれは診療所か。外側より少し物騒な店舗が多くなったな。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる