追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第2章「復興の女神」

第12話「凱旋の女神」

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ノルディアへの道は、雪に覆われていた。
でも、馬車の中は温かかった。
「もうすぐだね、エリシア」
ミラが、窓から外を覗いている。
「ええ」
私も、窓の外を見た。
見慣れた雪原。見慣れた山々。
たった一ヶ月前まで、ここは地獄だと思っていた。
でも今は――。
「帰ってきたんだ」
心から、そう思えた。
「城が見えたぞ」
ルシアンが、馬車の外から声をかけてきた。
彼は、護衛として馬に乗っている。
「本当だ!」
ミラが、興奮して叫んだ。
「ねえ、人がいっぱいいる!」
私も窓に顔を近づけた。
城門の前に――大勢の人々が集まっていた。
「あれは……」
「民衆だ」
ルシアンが言った。
「お前を迎えるために、集まったんだ」
「私を……?」
馬車が、城門に近づく。
すると――。
「エリシア様だ!」
「帰ってきた!」
「エリシア様、万歳!」
歓声が、爆発した。
数百人の民衆が、手を振り、叫び、喜んでいる。
「すごい……」
ミラが、呆然としている。
「こんなに、みんな……」
馬車が止まった。
扉が開く。
私が降りると――。
「エリシア様!!」
さらに大きな歓声。
「お帰りなさい!」
「無事で良かった!」
「ありがとうございます!」
人々の顔は、涙と笑顔で溢れていた。
「皆さん……」
私は、何も言えなかった。
胸が、熱くなる。
「エリシア様!」
グレンが、人混みをかき分けて現れた。
「お待ちしておりました!」
「グレンさん……」
「鉱山は、順調ですぞ。皆、あなたの帰りを待っておりました」
「ありがとうございます」
次々と、仲間たちが現れる。
鉱山で働いていた人々。
商店の主人たち。
子供たち。
「エリシア様、これ!」
小さな女の子が、雪で作った花束を差し出した。
「ありがとう」
私は、膝をついて受け取った。
「とても、綺麗よ」
女の子が、嬉しそうに笑った。
「皆の者」
ルシアンが、馬から降りて前に出た。
民衆が、静かになる。
「エリシア=ハーランドは、我がノルディアの恩人だ」
彼の声が、響く。
「彼女は、この地を救い、王都で真実を明らかにし、我々の誇りを取り戻してくれた」
ルシアンは、私を見た。
「だから、彼女を――この国の英雄として、迎えよう」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、空に響いた。
私は――。
もう、涙を堪えられなかった。
「ありがとう……ありがとうございます……」
温かい。
こんなにも、人の温かさを感じたことは、前世でも今世でもなかった。
「泣くな」
ルシアンが、そっと私の肩に手を置いた。
「お前は、英雄だ。堂々としていろ」
「……はい」
私は、涙を拭いた。
そして、民衆に向かって笑顔を見せた。
「皆さん、ただいま」
シンプルな言葉。
でも、それで十分だった。
再び、歓声が湧き上がった。

城の大広間。
歓迎の宴が開かれていた。
質素ながらも、温かい料理。民衆も交じっての、賑やかな宴。
「エリシア様、本当にお疲れ様でした」
商人のロバートが、グラスを掲げた。
「あなたのおかげで、我々も名誉を守れました」
「いいえ、皆さんのおかげです」
私も、グラスを掲げた。
「これからも、よろしくお願いします」
「もちろんです」
マリアが、微笑んだ。
「ノルディア産の魔鉱石は、すでに王国中で評判です。注文が殺到しています」
「それは良かった」
「問題は、生産が追いつかないことですが」
「それについては、計画があります」
私は、懐から書類を取り出した。
「採掘の効率化と、加工工場の拡張。それから――」
「エリシア」
ルシアンが、私の隣に座った。
「今夜は、仕事の話は無しだ」
「でも――」
「お前は、休むべきだ」
彼の目が、心配そうだった。
「一ヶ月、ずっと走り続けてきただろう」
「……そうですね」
私は、書類をしまった。
「では、今夜は休みます」
「そうしろ」
ルシアンは、私のグラスに酒を注いだ。
「お前は、よくやった」
「ルシアンも」
私は、彼を見た。
「あなたがいなければ、私は助からなかった」
「当然のことをしただけだ」
「当然……」
私は、小さく笑った。
「あなたにとっては、当然なんですね」
「そうだ」
彼は、窓の外を見た。
「お前は、私の――」
彼の言葉が、止まった。
「私の、何ですか?」
「……重要な人材だ」
また、同じ答え。
でも、彼の耳が――わずかに赤い。
「ルシアン」
「何だ」
「あなたは、不器用ですね」
「……何だと?」
彼が、驚いた顔で私を見た。
「いえ、褒めてるんです」
私は、微笑んだ。
「その不器用さが、好きです」
ルシアンの顔が、一気に赤くなった。
「お、お前……」
「冗談ですよ」
私は、立ち上がった。
「少し、外の空気を吸ってきます」
「待て――」
彼の声を背に、私は大広間を出た。

城のバルコニー。
雪が、静かに降っていた。
「綺麗……」
満月の光が、雪原を照らしている。
「エリシア」
後ろから、声がした。
振り返ると――ルシアンが立っていた。
「追いかけてきたんですか?」
「……話がある」
彼は、バルコニーの手すりに手をついた。
「何でしょう?」
「お前に、頼みたいことがある」
「頼み?」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア、私の――」
彼は、私を見た。
「私の、副王になってくれ」
「副王……?」
予想外の言葉に、私は固まった。
「この国を、共に治めてほしい」
ルシアンの目が、真剣だった。
「お前の才能が必要だ。お前の知識が必要だ。お前の――」
彼は、言葉を選んだ。
「お前自身が、必要だ」
心臓が、激しく打った。
「でも、副王というのは――」
「政治的な意味だ」
ルシアンは、慌てて付け加えた。
「婚姻とは、別の話だ。お前に、そんな義務を負わせるつもりはない」
「……そうですか」
なぜか、わずかに残念な気持ちになった。
「だが」
ルシアンが、私の手を取った。
「いつか――」
「いつか?」
「いつか、お前が望むなら――」
彼の言葉が、震えている。
「私は――」
「ルシアン」
私は、彼の言葉を遮った。
「答えは、もう決まっています」
「……断るのか」
彼の顔が、曇った。
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「受けます。副王として、あなたと共にこの国を治めます」
ルシアンの目が、見開かれた。
「本当か?」
「ええ」
私は、彼の手を握り返した。
「私も、この国が好きです。ここの人々が好きです。だから――」
私は、雪原を見た。
「一緒に、素晴らしい国を作りましょう」
ルシアンは、しばらく私を見つめていた。
そして――。
「ありがとう」
低く、でも温かい声。
「私は、幸運だ」
「私もです」
二人で、雪を見つめた。
静かな夜。
でも、心は温かかった。
「エリシア」
「はい?」
「お前が来てから、この国は変わった」
ルシアンが、珍しく饒舌になった。
「人々が笑うようになった。希望を持つようになった。未来を語るようになった」
彼は、私を見た。
「それは、全てお前のおかげだ」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「それは、皆の力です。私は、ただ――」
「きっかけを作った」
ルシアンが、私の言葉を継いだ。
「それが、どれほど重要か」
彼の手が、わずかに震えている。
「ルシアン、あなた――」
「私は、ずっと一人だった」
彼が、告白した。
「この地に来てから、十年。ずっと、一人で戦ってきた」
「……」
「だが、お前が来てから――」
彼は、空を見上げた。
「初めて、仲間がいると感じた」
その言葉が、胸に染みた。
「私も同じです」
私は、彼の隣に立った。
「前世では、私も一人でした」
「前世?」
「……長い話です」
私は、微笑んだ。
「でも、今は違います。あなたがいて、ミラがいて、皆がいる」
「そうだな」
ルシアンも、微笑んだ。
初めて見る、本当の笑顔。
「これから、どうする?」
「まずは、復興計画の本格化です」
私は、頭の中で計画を整理した。
「食糧生産の増強、道路の整備、教育機関の設立――」
「お前は、本当に仕事が好きだな」
ルシアンが、苦笑した。
「だって、やりがいがあるんです」
私は、笑った。
「前世では、会社のために働いていました。でも今は――」
「今は?」
「自分の意志で、大切な人たちのために働いている」
私は、城の明かりを見た。
「それが、嬉しいんです」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア」
「はい」
「お前は、素晴らしい」
シンプルな言葉。
でも、それが一番嬉しかった。
「ありがとうございます」
雪が、二人を包んでいた。
冷たいはずなのに、温かく感じた。
「さあ、戻りましょう」
私は、城の方を向いた。
「明日から、また忙しくなりますから」
「そうだな」
ルシアンも、立ち上がった。
二人で、城に戻る。
廊下を歩きながら、私は思った。
これから、どんな未来が待っているのだろう。
困難も、きっとたくさんある。
でも――。
「大丈夫」
小さく呟いた。
だって、私には仲間がいる。
信じられる人たちがいる。
そして――。
隣を歩く、この人がいる。
「どうした?」
ルシアンが、不思議そうに訊いた。
「いえ、何でも」
私は、微笑んだ。
「ただ、幸せだなって思っただけです」
ルシアンの顔が、わずかに赤くなった。
「……そうか」
二人で、大広間に戻った。
宴は、まだ続いていた。
ミラが、グレンに何か話している。
商人たちが、笑い合っている。
騎士たちが、酒を酌み交わしている。
「エリシア様!」
子供たちが、駆け寄ってきた。
「お話聞かせて! 王都での冒険!」
「ふふ、いいわよ」
私は、子供たちに囲まれて座った。
「それはね、ある雪の夜から始まったの――」
物語を語りながら、私は思った。
これが、私の居場所。
これが、私の家族。
前世では、得られなかった温かさ。
今、ここにある。
「エリシア様、それで!?」
子供たちの目が、キラキラしている。
「それで、私は言ったの。『真実の時間よ』って」
「かっこいい!」
「エリシア様、すごい!」
子供たちの歓声。
大人たちの笑い声。
温かい空気。
「幸せ……」
本当に、幸せだ。
これが、私が守りたいもの。
これが、私が作りたい未来。
「さあ、続きを話しましょうか」
私は、微笑んだ。
そして、物語を続けた。
長い夜が、ゆっくりと更けていく。
でも、誰も眠ろうとしない。
この温かさを、少しでも長く味わいたくて。
窓の外では、雪が降り続けていた。
明日への、祝福のように。
新しい章の、始まりのように。
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