追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第2章「復興の女神」

第13話「復興計画始動」

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朝六時。
私は、すでに執務室にいた。
机の上には、山積みの書類と地図。
「まずは、現状把握から」
ノルディアの人口、食糧生産量、魔鉱石の採掘量――全てのデータを確認する。
「人口は約五千人。うち、労働可能人口は三千人」
ペンを走らせる。
「食糧は、冬季の備蓄が常に不足。医療施設は皆無。学校も――」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
扉が開き、ミラが入ってきた。
「エリシア、もう起きてたんだ」
「ええ。やることが山ほどあるから」
「まだ朝早いのに……」
ミラが、呆れた顔をした。
「昨日あんなに疲れてたのに」
「大丈夫よ。むしろ、やる気に満ち溢れてる」
私は、立ち上がった。
「ミラ、お願いがあるの」
「何?」
「今日の午前中に、緊急会議を開きたい」
私は、メモを渡した。
「この人たちを集めて」
ミラが、メモを見る。
「ルシアン様、グレンさん、オスカー、商人たち……それに、農民の代表?」
「ええ。復興計画には、全ての立場の人の意見が必要だから」
「わかった。すぐに手配する」
ミラが、走って出ていった。
私は、再び机に向かった。
「さあ、プレゼンテーション資料を作らないと」
前世のスキルが、今、全開になる。

午前十時。
会議室には、二十人以上が集まっていた。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます」
私は、壁に大きな地図を貼った。
「これから、ノルディア復興計画について説明します」
全員が、固唾を呑んで見守っている。
「まず、目標です」
私は、大きく書いた紙を掲げた。
「三年後、ノルディアを王国で最も豊かな地域にします」
場内が、どよめいた。
「三年で!?」
「無理だろう、いくらなんでも」
「静かに」
ルシアンの声で、場が静まった。
「続けろ、エリシア」
「ありがとうございます」
私は、地図を指差した。
「計画は、三つの柱で構成されています」
指で、順番に示していく。
「第一の柱:食糧生産の革命」
「革命?」
農民の代表――ヨハンという老人が、訊いた。
「どういう意味だ?」
「現在、ノルディアの農業は非効率です」
私は、データを示した。
「同じ面積で、南部の農地の半分しか収穫できていません」
「それは、土地が痩せているからだ」
ヨハンが、防御的に言った。
「それに、冬が長い」
「その通りです」
私は、頷いた。
「だからこそ、新しい農法を導入します」
私は、図を広げた。
「温室栽培です」
「温室……?」
「魔法陣を使って温度を保つ建物を作り、その中で野菜を育てます」
説明を続ける。
「冬でも栽培できる。しかも、収穫量は通常の三倍」
「そんなこと、可能なのか?」
「可能です」
私は、別の図を見せた。
「魔鉱石の副産物である魔力残渣を、暖房に使います。採掘で出る廃棄物を、有効活用するんです」
グレンが、目を輝かせた。
「なるほど! 廃棄していた魔力残渣を使えば――」
「燃料費がほぼゼロになります」
私は、微笑んだ。
「これなら、コストも抑えられる」
ヨハンが、考え込んでいる。
「試してみる価値は、ありそうだ」
「では、第二の柱です」
私は、別の地図を指差した。
「インフラ整備。具体的には、道路網の構築です」
「道路?」
商人のロバートが、身を乗り出した。
「ノルディアと王都を結ぶ、整備された街道を作ります」
私は、ルートを示した。
「現在、王都まで一週間かかります。でも、整備すれば三日に短縮できます」
「三日!?」
「流通が加速すれば、商売も活発になります」
ロバートが、うなずいた。
「確かに。輸送コストが下がれば、利益も増える」
「そして、第三の柱」
私は、最後の図を見せた。
「教育です」
場内が、静まった。
「学校を作ります。子供たち全員が、読み書きと計算を学べる学校を」
「学校……」
ミラが、目を輝かせた。
「でも、教師はどうする?」
オスカーが訊いた。
「最初は、私が教えます」
私は、はっきりと言った。
「そして、優秀な生徒を育て、その生徒たちが次の世代を教える」
「あなたが、直接?」
「ええ。週に三回、午後の授業を担当します」
全員が、驚いた顔をした。
「副王自らが、教師に?」
「知識は、最も重要な資源です」
私は、力強く言った。
「教育なくして、真の復興はありません」
ルシアンが、微笑んでいた。
「素晴らしい計画だ」
「でも、問題があります」
私は、正直に言った。
「資金です」
「資金……」
「この計画を実行するには、莫大な初期投資が必要です」
私は、試算を示した。
「温室建設、道路整備、学校建設――合計で、金貨五万枚」
場内が、ざわめいた。
「五万枚!?」
「そんな金、どこにある!?」
「あります」
私は、別の書類を取り出した。
「魔鉱石の先行契約です」
商人たちが、前のめりになった。
「来年度分の魔鉱石を、前払いで購入していただきます」
「なるほど……」
マリアが、うなずいた。
「我々が前払いすれば、資金が――」
「はい。そして、品質と供給量は保証します」
私は、契約書の案を配布した。
「利率は、市場価格の九割。十分に魅力的な条件だと思います」
商人たちが、契約書を検討し始めた。
「……いいだろう」
ロバートが、最初に署名した。
「私は、あなたを信じる」
「我が商会も」
次々と、商人たちが署名していく。
十五分後――。
「集まりました」
私は、契約書の束を掲げた。
「金貨五万五千枚。計画を上回る資金です」
場内から、拍手が起こった。
「では」
私は、全員を見渡した。
「これより、ノルディア復興計画を正式に始動します」
「「「おおおお!!」」」
歓声が、部屋を満たした。

会議が終わり、一人になった。
「ふう……」
椅子に座り込む。
正直、疲れた。
「でも、やるしかない」
立ち上がろうとした時――。
「エリシア」
ルシアンが、入ってきた。
「まだ、いたのか」
「ええ。書類の整理を」
「休め」
彼は、私の前に立った。
「お前は、働きすぎだ」
「でも――」
「いいから」
ルシアンが、私の手を取った。
「少し、散歩するぞ」
「え?」
「いいから、来い」
半ば強引に、外に連れ出された。

城の中庭。
雪が静かに降っている。
「綺麗……」
「だろう?」
ルシアンが、空を見上げた。
「この景色を守りたい。お前と一緒に」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「ルシアン……」
「エリシア」
彼は、私を見た。
「お前の計画は、素晴らしい」
「ありがとうございます」
「だが、一つだけ言わせてくれ」
「何ですか?」
「お前は、自分を大切にしろ」
ルシアンの目が、優しかった。
「お前が倒れたら、計画もすべて止まる」
「……わかっています」
「本当か?」
彼は、私の頬に手を伸ばした。
「目の下に、隈ができているぞ」
その優しい仕草に、胸が熱くなった。
「心配、してくれるんですね」
「当たり前だ」
ルシアンが、ぼそりと言った。
「お前は、私の――」
「私の、何ですか?」
「……大切な、パートナーだ」
またしても、同じような答え。
でも、今回は――。
「私にとっても」
私は、彼の手を取った。
「あなたは、大切なパートナーです」
ルシアンの顔が、真っ赤になった。
「お、お前……」
「冗談じゃありませんよ」
私は、微笑んだ。
「本気です」
しばらく、二人で雪を見ていた。
静かな時間。
でも、心は騒がしかった。
「エリシア」
「はい」
「私は、お前を――」
彼の言葉が、続く前に――。
「ルシアン様! エリシア様!」
ミラの声が響いた。
「大変です!」
彼女が、走ってきた。
「どうしたの?」
「街の広場で、暴動が!」
「暴動!?」
私たちは、すぐに広場に向かった。

広場には、百人以上の民衆が集まっていた。
「復興計画なんて、信じられるか!」
一人の男が、叫んでいた。
「どうせ、また裏切られる!」
「そうだそうだ!」
他の者たちも、同調している。
「あれは……」
「元・ヴィクターの手下たちだ」
ルシアンが、低く言った。
「裁判後、釈放された者たちだ」
「つまり、反対勢力……」
「そうだ。お前の計画を、潰したいのだろう」
私は、前に出た。
「皆さん!」
声を張り上げる。
民衆が、私を見た。
「私はエリシア=ハーランド。あなたたちの声を、聞かせてください」
「聞くだって?」
男が、鼻で笑った。
「お前は貴族だ。俺たちの苦しみなんて、わからない」
「わからないかもしれません」
私は、正直に答えた。
「だから、教えてください」
男は、意外そうな顔をした。
「何が、不安なんですか?」
「……信用できない」
男が、吐き捨てるように言った。
「これまで、何度も裏切られてきた。貴族に、役人に、商人に」
「その通りです」
私は、頷いた。
「あなたたちは、裏切られ続けてきた」
「なら――」
「だから、今度は違います」
私は、男の目を見た。
「私は、約束を守ります」
「口だけなら、誰でも言える」
「では、契約書を作りましょう」
私は、その場で紙を取り出した。
「復興計画の全てを、文書化します。期限、内容、責任者――全て明記します」
男が、驚いた顔をした。
「そして、もし計画が失敗したら――」
私は、ペンを走らせた。
「私の全財産を、民衆に分配します」
場内が、静まり返った。
「本気か……?」
「本気です」
私は、契約書を掲げた。
「私は、あなたたちと共に生きます。あなたたちと共に、この国を作ります」
男は、しばらく黙っていた。
そして――。
「……わかった」
彼は、手を差し出した。
「信じてみるか」
私は、その手を握った。
「ありがとうございます」
周囲の民衆も、徐々に表情を緩めていった。
「エリシア様を、信じよう」
「ああ、もう一度だけ」
暴動は、収まった。

その夜。
自室で、私は契約書を清書していた。
コンコン。
「どうぞ」
ルシアンが、入ってきた。
「まだ、起きていたのか」
「ええ。契約書を完成させないと」
「……お前は、本当に」
ルシアンは、私の隣に座った。
「真面目すぎる」
「そうですか?」
「ああ」
彼は、契約書を見た。
「でも、だからこそ――」
「だからこそ?」
「人が、お前を信じるんだ」
その言葉が、嬉しかった。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、私の方だ」
ルシアンが、私の手に手を重ねた。
「お前が来てから、この国は変わった。人々が変わった。そして――」
彼は、私を見た。
「私も、変わった」
心臓が、激しく打った。
「ルシアン……」
「エリシア、私は――」
その時、扉が開いた。
「エリシア! 契約書の下書き持ってきた――あ」
ミラが、固まった。
「え、ええと……邪魔、した?」
ルシアンが、すっと手を離した。
「いや、何でもない」
「そ、そう?」
ミラが、ニヤニヤしている。
「もう、ミラ」
私は、顔が熱くなった。
「ごめんごめん」
ミラが、笑いながら言った。
「でも、お似合いだよ、二人とも」
「ミラ!」
三人で、笑った。
温かい夜。
明日からまた、忙しい日々が始まる。
でも――。
「大丈夫」
私は、窓の外を見た。
仲間がいる。
信じてくれる人がいる。
そして、守りたいものがある。
「必ず、成功させる」
その決意を、胸に刻んだ。
復興計画は、今日から本当に始まったのだ。
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