12 / 40
第2章「復興の女神」
第12話「凱旋の女神」
しおりを挟む
ノルディアへの道は、雪に覆われていた。
でも、馬車の中は温かかった。
「もうすぐだね、エリシア」
ミラが、窓から外を覗いている。
「ええ」
私も、窓の外を見た。
見慣れた雪原。見慣れた山々。
たった一ヶ月前まで、ここは地獄だと思っていた。
でも今は――。
「帰ってきたんだ」
心から、そう思えた。
「城が見えたぞ」
ルシアンが、馬車の外から声をかけてきた。
彼は、護衛として馬に乗っている。
「本当だ!」
ミラが、興奮して叫んだ。
「ねえ、人がいっぱいいる!」
私も窓に顔を近づけた。
城門の前に――大勢の人々が集まっていた。
「あれは……」
「民衆だ」
ルシアンが言った。
「お前を迎えるために、集まったんだ」
「私を……?」
馬車が、城門に近づく。
すると――。
「エリシア様だ!」
「帰ってきた!」
「エリシア様、万歳!」
歓声が、爆発した。
数百人の民衆が、手を振り、叫び、喜んでいる。
「すごい……」
ミラが、呆然としている。
「こんなに、みんな……」
馬車が止まった。
扉が開く。
私が降りると――。
「エリシア様!!」
さらに大きな歓声。
「お帰りなさい!」
「無事で良かった!」
「ありがとうございます!」
人々の顔は、涙と笑顔で溢れていた。
「皆さん……」
私は、何も言えなかった。
胸が、熱くなる。
「エリシア様!」
グレンが、人混みをかき分けて現れた。
「お待ちしておりました!」
「グレンさん……」
「鉱山は、順調ですぞ。皆、あなたの帰りを待っておりました」
「ありがとうございます」
次々と、仲間たちが現れる。
鉱山で働いていた人々。
商店の主人たち。
子供たち。
「エリシア様、これ!」
小さな女の子が、雪で作った花束を差し出した。
「ありがとう」
私は、膝をついて受け取った。
「とても、綺麗よ」
女の子が、嬉しそうに笑った。
「皆の者」
ルシアンが、馬から降りて前に出た。
民衆が、静かになる。
「エリシア=ハーランドは、我がノルディアの恩人だ」
彼の声が、響く。
「彼女は、この地を救い、王都で真実を明らかにし、我々の誇りを取り戻してくれた」
ルシアンは、私を見た。
「だから、彼女を――この国の英雄として、迎えよう」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、空に響いた。
私は――。
もう、涙を堪えられなかった。
「ありがとう……ありがとうございます……」
温かい。
こんなにも、人の温かさを感じたことは、前世でも今世でもなかった。
「泣くな」
ルシアンが、そっと私の肩に手を置いた。
「お前は、英雄だ。堂々としていろ」
「……はい」
私は、涙を拭いた。
そして、民衆に向かって笑顔を見せた。
「皆さん、ただいま」
シンプルな言葉。
でも、それで十分だった。
再び、歓声が湧き上がった。
城の大広間。
歓迎の宴が開かれていた。
質素ながらも、温かい料理。民衆も交じっての、賑やかな宴。
「エリシア様、本当にお疲れ様でした」
商人のロバートが、グラスを掲げた。
「あなたのおかげで、我々も名誉を守れました」
「いいえ、皆さんのおかげです」
私も、グラスを掲げた。
「これからも、よろしくお願いします」
「もちろんです」
マリアが、微笑んだ。
「ノルディア産の魔鉱石は、すでに王国中で評判です。注文が殺到しています」
「それは良かった」
「問題は、生産が追いつかないことですが」
「それについては、計画があります」
私は、懐から書類を取り出した。
「採掘の効率化と、加工工場の拡張。それから――」
「エリシア」
ルシアンが、私の隣に座った。
「今夜は、仕事の話は無しだ」
「でも――」
「お前は、休むべきだ」
彼の目が、心配そうだった。
「一ヶ月、ずっと走り続けてきただろう」
「……そうですね」
私は、書類をしまった。
「では、今夜は休みます」
「そうしろ」
ルシアンは、私のグラスに酒を注いだ。
「お前は、よくやった」
「ルシアンも」
私は、彼を見た。
「あなたがいなければ、私は助からなかった」
「当然のことをしただけだ」
「当然……」
私は、小さく笑った。
「あなたにとっては、当然なんですね」
「そうだ」
彼は、窓の外を見た。
「お前は、私の――」
彼の言葉が、止まった。
「私の、何ですか?」
「……重要な人材だ」
また、同じ答え。
でも、彼の耳が――わずかに赤い。
「ルシアン」
「何だ」
「あなたは、不器用ですね」
「……何だと?」
彼が、驚いた顔で私を見た。
「いえ、褒めてるんです」
私は、微笑んだ。
「その不器用さが、好きです」
ルシアンの顔が、一気に赤くなった。
「お、お前……」
「冗談ですよ」
私は、立ち上がった。
「少し、外の空気を吸ってきます」
「待て――」
彼の声を背に、私は大広間を出た。
城のバルコニー。
雪が、静かに降っていた。
「綺麗……」
満月の光が、雪原を照らしている。
「エリシア」
後ろから、声がした。
振り返ると――ルシアンが立っていた。
「追いかけてきたんですか?」
「……話がある」
彼は、バルコニーの手すりに手をついた。
「何でしょう?」
「お前に、頼みたいことがある」
「頼み?」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア、私の――」
彼は、私を見た。
「私の、副王になってくれ」
「副王……?」
予想外の言葉に、私は固まった。
「この国を、共に治めてほしい」
ルシアンの目が、真剣だった。
「お前の才能が必要だ。お前の知識が必要だ。お前の――」
彼は、言葉を選んだ。
「お前自身が、必要だ」
心臓が、激しく打った。
「でも、副王というのは――」
「政治的な意味だ」
ルシアンは、慌てて付け加えた。
「婚姻とは、別の話だ。お前に、そんな義務を負わせるつもりはない」
「……そうですか」
なぜか、わずかに残念な気持ちになった。
「だが」
ルシアンが、私の手を取った。
「いつか――」
「いつか?」
「いつか、お前が望むなら――」
彼の言葉が、震えている。
「私は――」
「ルシアン」
私は、彼の言葉を遮った。
「答えは、もう決まっています」
「……断るのか」
彼の顔が、曇った。
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「受けます。副王として、あなたと共にこの国を治めます」
ルシアンの目が、見開かれた。
「本当か?」
「ええ」
私は、彼の手を握り返した。
「私も、この国が好きです。ここの人々が好きです。だから――」
私は、雪原を見た。
「一緒に、素晴らしい国を作りましょう」
ルシアンは、しばらく私を見つめていた。
そして――。
「ありがとう」
低く、でも温かい声。
「私は、幸運だ」
「私もです」
二人で、雪を見つめた。
静かな夜。
でも、心は温かかった。
「エリシア」
「はい?」
「お前が来てから、この国は変わった」
ルシアンが、珍しく饒舌になった。
「人々が笑うようになった。希望を持つようになった。未来を語るようになった」
彼は、私を見た。
「それは、全てお前のおかげだ」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「それは、皆の力です。私は、ただ――」
「きっかけを作った」
ルシアンが、私の言葉を継いだ。
「それが、どれほど重要か」
彼の手が、わずかに震えている。
「ルシアン、あなた――」
「私は、ずっと一人だった」
彼が、告白した。
「この地に来てから、十年。ずっと、一人で戦ってきた」
「……」
「だが、お前が来てから――」
彼は、空を見上げた。
「初めて、仲間がいると感じた」
その言葉が、胸に染みた。
「私も同じです」
私は、彼の隣に立った。
「前世では、私も一人でした」
「前世?」
「……長い話です」
私は、微笑んだ。
「でも、今は違います。あなたがいて、ミラがいて、皆がいる」
「そうだな」
ルシアンも、微笑んだ。
初めて見る、本当の笑顔。
「これから、どうする?」
「まずは、復興計画の本格化です」
私は、頭の中で計画を整理した。
「食糧生産の増強、道路の整備、教育機関の設立――」
「お前は、本当に仕事が好きだな」
ルシアンが、苦笑した。
「だって、やりがいがあるんです」
私は、笑った。
「前世では、会社のために働いていました。でも今は――」
「今は?」
「自分の意志で、大切な人たちのために働いている」
私は、城の明かりを見た。
「それが、嬉しいんです」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア」
「はい」
「お前は、素晴らしい」
シンプルな言葉。
でも、それが一番嬉しかった。
「ありがとうございます」
雪が、二人を包んでいた。
冷たいはずなのに、温かく感じた。
「さあ、戻りましょう」
私は、城の方を向いた。
「明日から、また忙しくなりますから」
「そうだな」
ルシアンも、立ち上がった。
二人で、城に戻る。
廊下を歩きながら、私は思った。
これから、どんな未来が待っているのだろう。
困難も、きっとたくさんある。
でも――。
「大丈夫」
小さく呟いた。
だって、私には仲間がいる。
信じられる人たちがいる。
そして――。
隣を歩く、この人がいる。
「どうした?」
ルシアンが、不思議そうに訊いた。
「いえ、何でも」
私は、微笑んだ。
「ただ、幸せだなって思っただけです」
ルシアンの顔が、わずかに赤くなった。
「……そうか」
二人で、大広間に戻った。
宴は、まだ続いていた。
ミラが、グレンに何か話している。
商人たちが、笑い合っている。
騎士たちが、酒を酌み交わしている。
「エリシア様!」
子供たちが、駆け寄ってきた。
「お話聞かせて! 王都での冒険!」
「ふふ、いいわよ」
私は、子供たちに囲まれて座った。
「それはね、ある雪の夜から始まったの――」
物語を語りながら、私は思った。
これが、私の居場所。
これが、私の家族。
前世では、得られなかった温かさ。
今、ここにある。
「エリシア様、それで!?」
子供たちの目が、キラキラしている。
「それで、私は言ったの。『真実の時間よ』って」
「かっこいい!」
「エリシア様、すごい!」
子供たちの歓声。
大人たちの笑い声。
温かい空気。
「幸せ……」
本当に、幸せだ。
これが、私が守りたいもの。
これが、私が作りたい未来。
「さあ、続きを話しましょうか」
私は、微笑んだ。
そして、物語を続けた。
長い夜が、ゆっくりと更けていく。
でも、誰も眠ろうとしない。
この温かさを、少しでも長く味わいたくて。
窓の外では、雪が降り続けていた。
明日への、祝福のように。
新しい章の、始まりのように。
でも、馬車の中は温かかった。
「もうすぐだね、エリシア」
ミラが、窓から外を覗いている。
「ええ」
私も、窓の外を見た。
見慣れた雪原。見慣れた山々。
たった一ヶ月前まで、ここは地獄だと思っていた。
でも今は――。
「帰ってきたんだ」
心から、そう思えた。
「城が見えたぞ」
ルシアンが、馬車の外から声をかけてきた。
彼は、護衛として馬に乗っている。
「本当だ!」
ミラが、興奮して叫んだ。
「ねえ、人がいっぱいいる!」
私も窓に顔を近づけた。
城門の前に――大勢の人々が集まっていた。
「あれは……」
「民衆だ」
ルシアンが言った。
「お前を迎えるために、集まったんだ」
「私を……?」
馬車が、城門に近づく。
すると――。
「エリシア様だ!」
「帰ってきた!」
「エリシア様、万歳!」
歓声が、爆発した。
数百人の民衆が、手を振り、叫び、喜んでいる。
「すごい……」
ミラが、呆然としている。
「こんなに、みんな……」
馬車が止まった。
扉が開く。
私が降りると――。
「エリシア様!!」
さらに大きな歓声。
「お帰りなさい!」
「無事で良かった!」
「ありがとうございます!」
人々の顔は、涙と笑顔で溢れていた。
「皆さん……」
私は、何も言えなかった。
胸が、熱くなる。
「エリシア様!」
グレンが、人混みをかき分けて現れた。
「お待ちしておりました!」
「グレンさん……」
「鉱山は、順調ですぞ。皆、あなたの帰りを待っておりました」
「ありがとうございます」
次々と、仲間たちが現れる。
鉱山で働いていた人々。
商店の主人たち。
子供たち。
「エリシア様、これ!」
小さな女の子が、雪で作った花束を差し出した。
「ありがとう」
私は、膝をついて受け取った。
「とても、綺麗よ」
女の子が、嬉しそうに笑った。
「皆の者」
ルシアンが、馬から降りて前に出た。
民衆が、静かになる。
「エリシア=ハーランドは、我がノルディアの恩人だ」
彼の声が、響く。
「彼女は、この地を救い、王都で真実を明らかにし、我々の誇りを取り戻してくれた」
ルシアンは、私を見た。
「だから、彼女を――この国の英雄として、迎えよう」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、空に響いた。
私は――。
もう、涙を堪えられなかった。
「ありがとう……ありがとうございます……」
温かい。
こんなにも、人の温かさを感じたことは、前世でも今世でもなかった。
「泣くな」
ルシアンが、そっと私の肩に手を置いた。
「お前は、英雄だ。堂々としていろ」
「……はい」
私は、涙を拭いた。
そして、民衆に向かって笑顔を見せた。
「皆さん、ただいま」
シンプルな言葉。
でも、それで十分だった。
再び、歓声が湧き上がった。
城の大広間。
歓迎の宴が開かれていた。
質素ながらも、温かい料理。民衆も交じっての、賑やかな宴。
「エリシア様、本当にお疲れ様でした」
商人のロバートが、グラスを掲げた。
「あなたのおかげで、我々も名誉を守れました」
「いいえ、皆さんのおかげです」
私も、グラスを掲げた。
「これからも、よろしくお願いします」
「もちろんです」
マリアが、微笑んだ。
「ノルディア産の魔鉱石は、すでに王国中で評判です。注文が殺到しています」
「それは良かった」
「問題は、生産が追いつかないことですが」
「それについては、計画があります」
私は、懐から書類を取り出した。
「採掘の効率化と、加工工場の拡張。それから――」
「エリシア」
ルシアンが、私の隣に座った。
「今夜は、仕事の話は無しだ」
「でも――」
「お前は、休むべきだ」
彼の目が、心配そうだった。
「一ヶ月、ずっと走り続けてきただろう」
「……そうですね」
私は、書類をしまった。
「では、今夜は休みます」
「そうしろ」
ルシアンは、私のグラスに酒を注いだ。
「お前は、よくやった」
「ルシアンも」
私は、彼を見た。
「あなたがいなければ、私は助からなかった」
「当然のことをしただけだ」
「当然……」
私は、小さく笑った。
「あなたにとっては、当然なんですね」
「そうだ」
彼は、窓の外を見た。
「お前は、私の――」
彼の言葉が、止まった。
「私の、何ですか?」
「……重要な人材だ」
また、同じ答え。
でも、彼の耳が――わずかに赤い。
「ルシアン」
「何だ」
「あなたは、不器用ですね」
「……何だと?」
彼が、驚いた顔で私を見た。
「いえ、褒めてるんです」
私は、微笑んだ。
「その不器用さが、好きです」
ルシアンの顔が、一気に赤くなった。
「お、お前……」
「冗談ですよ」
私は、立ち上がった。
「少し、外の空気を吸ってきます」
「待て――」
彼の声を背に、私は大広間を出た。
城のバルコニー。
雪が、静かに降っていた。
「綺麗……」
満月の光が、雪原を照らしている。
「エリシア」
後ろから、声がした。
振り返ると――ルシアンが立っていた。
「追いかけてきたんですか?」
「……話がある」
彼は、バルコニーの手すりに手をついた。
「何でしょう?」
「お前に、頼みたいことがある」
「頼み?」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア、私の――」
彼は、私を見た。
「私の、副王になってくれ」
「副王……?」
予想外の言葉に、私は固まった。
「この国を、共に治めてほしい」
ルシアンの目が、真剣だった。
「お前の才能が必要だ。お前の知識が必要だ。お前の――」
彼は、言葉を選んだ。
「お前自身が、必要だ」
心臓が、激しく打った。
「でも、副王というのは――」
「政治的な意味だ」
ルシアンは、慌てて付け加えた。
「婚姻とは、別の話だ。お前に、そんな義務を負わせるつもりはない」
「……そうですか」
なぜか、わずかに残念な気持ちになった。
「だが」
ルシアンが、私の手を取った。
「いつか――」
「いつか?」
「いつか、お前が望むなら――」
彼の言葉が、震えている。
「私は――」
「ルシアン」
私は、彼の言葉を遮った。
「答えは、もう決まっています」
「……断るのか」
彼の顔が、曇った。
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「受けます。副王として、あなたと共にこの国を治めます」
ルシアンの目が、見開かれた。
「本当か?」
「ええ」
私は、彼の手を握り返した。
「私も、この国が好きです。ここの人々が好きです。だから――」
私は、雪原を見た。
「一緒に、素晴らしい国を作りましょう」
ルシアンは、しばらく私を見つめていた。
そして――。
「ありがとう」
低く、でも温かい声。
「私は、幸運だ」
「私もです」
二人で、雪を見つめた。
静かな夜。
でも、心は温かかった。
「エリシア」
「はい?」
「お前が来てから、この国は変わった」
ルシアンが、珍しく饒舌になった。
「人々が笑うようになった。希望を持つようになった。未来を語るようになった」
彼は、私を見た。
「それは、全てお前のおかげだ」
「いいえ」
私は、首を横に振った。
「それは、皆の力です。私は、ただ――」
「きっかけを作った」
ルシアンが、私の言葉を継いだ。
「それが、どれほど重要か」
彼の手が、わずかに震えている。
「ルシアン、あなた――」
「私は、ずっと一人だった」
彼が、告白した。
「この地に来てから、十年。ずっと、一人で戦ってきた」
「……」
「だが、お前が来てから――」
彼は、空を見上げた。
「初めて、仲間がいると感じた」
その言葉が、胸に染みた。
「私も同じです」
私は、彼の隣に立った。
「前世では、私も一人でした」
「前世?」
「……長い話です」
私は、微笑んだ。
「でも、今は違います。あなたがいて、ミラがいて、皆がいる」
「そうだな」
ルシアンも、微笑んだ。
初めて見る、本当の笑顔。
「これから、どうする?」
「まずは、復興計画の本格化です」
私は、頭の中で計画を整理した。
「食糧生産の増強、道路の整備、教育機関の設立――」
「お前は、本当に仕事が好きだな」
ルシアンが、苦笑した。
「だって、やりがいがあるんです」
私は、笑った。
「前世では、会社のために働いていました。でも今は――」
「今は?」
「自分の意志で、大切な人たちのために働いている」
私は、城の明かりを見た。
「それが、嬉しいんです」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア」
「はい」
「お前は、素晴らしい」
シンプルな言葉。
でも、それが一番嬉しかった。
「ありがとうございます」
雪が、二人を包んでいた。
冷たいはずなのに、温かく感じた。
「さあ、戻りましょう」
私は、城の方を向いた。
「明日から、また忙しくなりますから」
「そうだな」
ルシアンも、立ち上がった。
二人で、城に戻る。
廊下を歩きながら、私は思った。
これから、どんな未来が待っているのだろう。
困難も、きっとたくさんある。
でも――。
「大丈夫」
小さく呟いた。
だって、私には仲間がいる。
信じられる人たちがいる。
そして――。
隣を歩く、この人がいる。
「どうした?」
ルシアンが、不思議そうに訊いた。
「いえ、何でも」
私は、微笑んだ。
「ただ、幸せだなって思っただけです」
ルシアンの顔が、わずかに赤くなった。
「……そうか」
二人で、大広間に戻った。
宴は、まだ続いていた。
ミラが、グレンに何か話している。
商人たちが、笑い合っている。
騎士たちが、酒を酌み交わしている。
「エリシア様!」
子供たちが、駆け寄ってきた。
「お話聞かせて! 王都での冒険!」
「ふふ、いいわよ」
私は、子供たちに囲まれて座った。
「それはね、ある雪の夜から始まったの――」
物語を語りながら、私は思った。
これが、私の居場所。
これが、私の家族。
前世では、得られなかった温かさ。
今、ここにある。
「エリシア様、それで!?」
子供たちの目が、キラキラしている。
「それで、私は言ったの。『真実の時間よ』って」
「かっこいい!」
「エリシア様、すごい!」
子供たちの歓声。
大人たちの笑い声。
温かい空気。
「幸せ……」
本当に、幸せだ。
これが、私が守りたいもの。
これが、私が作りたい未来。
「さあ、続きを話しましょうか」
私は、微笑んだ。
そして、物語を続けた。
長い夜が、ゆっくりと更けていく。
でも、誰も眠ろうとしない。
この温かさを、少しでも長く味わいたくて。
窓の外では、雪が降り続けていた。
明日への、祝福のように。
新しい章の、始まりのように。
92
あなたにおすすめの小説
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる