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第2章「復興の女神」
第14話「温室の奇跡」
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復興計画開始から二週間。
最初の温室建設現場は、混乱していた。
「ダメだ、また魔法陣が不安定になった!」
技術者の一人が、叫んだ。
魔法陣が描かれた床が、明滅している。
「温度が上がらない……これでは、植物が育たない」
私は、設計図を見直した。
「魔力の流れが、どこかで滞っている……」
「エリシア様」
ヨハンが、困った顔で近づいてきた。
「農民たちが、不安がっています」
「わかっています」
私は、額の汗を拭った。
「もう少し、待ってください」
「でも、もう一週間も――」
「わかってる!」
思わず、声を荒げてしまった。
ヨハンが、驚いた顔をする。
「……すみません」
私は、深呼吸をした。
「焦っているんです。でも、必ず解決します」
「皆、信じてはいるんです」
ヨハンが、優しく言った。
「でも、やはり不安なんです。これまで、何度も――」
「裏切られてきた、ですね」
私は、頷いた。
「だから、今度こそ成功させます」
でも、正直――。
私自身も、不安だった。
その夜。
執務室で、私は一人設計図と格闘していた。
「どこが間違っているの……」
魔法陣の理論は、この世界のものだ。
前世の知識だけでは、解決できない。
「温度制御の魔法陣……熱の拡散……」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
ルシアンが、入ってきた。
「まだ、起きていたのか」
「ええ……解決策が見つからなくて」
私は、設計図を見つめた。
「私のせいです。農民たちに期待させて、でも実現できなくて――」
「自分を責めるな」
ルシアンが、私の肩に手を置いた。
「お前は、十分頑張っている」
「でも――」
「エリシア」
彼は、私の顔を見た。
「失敗しても、いいんだ」
「え……?」
「お前は、完璧である必要はない」
ルシアンの声が、優しかった。
「失敗して、また挑戦すればいい。それが、人間だ」
その言葉に――。
「ルシアン……」
涙が、溢れそうになった。
前世では、失敗は許されなかった。
常に結果を出すことを求められた。
でも、今――。
「ありがとうございます」
「一人で抱え込むな」
ルシアンが、設計図を見た。
「私も、力になる」
「でも、あなたは魔法陣の専門家では――」
「だが、戦場で暖房魔法陣は何度も使った」
彼は、設計図を指差した。
「この部分、魔力の流れが逆じゃないか?」
「え?」
私は、設計図を見直した。
「本当だ……魔力の入力と出力が――」
「逆になっている」
ルシアンが、修正を書き込んだ。
「これで、どうだ?」
私は、頭の中で計算した。
「これなら……いける!」
希望の光が、見えた。
「ルシアン、天才です!」
「お前ほどじゃない」
彼は、微笑んだ。
「さあ、明日試してみよう」
「はい!」
翌朝。
修正した魔法陣を、温室の床に描いた。
農民たち、技術者たち、そして多くの民衆が見守っている。
「では、起動します」
私は、魔法陣に魔力を注いだ。
魔法陣が、青く光り始めた。
そして――。
「温かい……!」
温室の中の温度が、上がり始めた。
「成功だ!」
技術者たちが、歓声を上げた。
「本当に、温かくなってる!」
農民たちも、温室に入ってくる。
「これなら、冬でも野菜が育つ……!」
ヨハンが、涙を流していた。
「本当に、できたんだ……」
「はい」
私は、微笑んだ。
「これから、種を植えましょう」
それから一ヶ月。
温室の中では、緑の芽が顔を出していた。
「見てください、エリシア様!」
ヨハンが、興奮して私を呼んだ。
「レタスが、もうこんなに!」
小さな、でも確かな緑の葉。
「トマトも、実をつけ始めました!」
別の農民が、嬉しそうに報告する。
「素晴らしい……」
私は、その緑を見つめた。
極寒のノルディアで、冬に育つ野菜。
これが、奇跡の第一歩。
「エリシア」
ルシアンが、温室に入ってきた。
「見てください、成功しました」
「ああ、見事だ」
彼も、野菜を見て微笑んでいた。
「お前の計画は、本物だったんだな」
「いいえ、皆の力です」
私は、周りの農民たちを見た。
「皆が信じて、協力してくれたから」
「エリシア様」
若い農民が、前に出た。
「私たち、最初は疑っていました」
「知っています」
「でも、今は違います」
彼は、深く頭を下げた。
「あなたを、心から信じています」
他の農民たちも、次々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「あなたが、希望をくれました!」
その光景に、胸が熱くなった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
私も、深く頭を下げた。
「これからも、一緒に頑張りましょう」
一週間後。
最初の収穫日。
温室には、百人以上の人々が集まっていた。
「では、収穫します」
私は、最初のレタスに手を伸ばした。
新鮮な、緑の葉。
それを、高く掲げる。
「成功です!」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、温室を揺らした。
「冬に、野菜が採れた!」
「奇跡だ!」
「エリシア様の奇跡だ!」
人々が、次々と温室に入ってくる。
トマト、レタス、ほうれん草――。
どれも、みずみずしく育っている。
「試食してください」
私は、収穫したトマトを切り分けた。
「どうぞ」
ヨハンが、一口食べた。
その顔が――。
「うまい……!」
彼の目から、涙が溢れた。
「こんなに、美味しいトマト、初めて食べた……!」
他の人々も、次々と試食する。
「本当だ! 甘い!」
「新鮮で、瑞々しい!」
「これが、冬に食べられるなんて……!」
喜びの声が、あふれていた。
「エリシア様」
ミラが、私の袖を引いた。
「見て」
彼女が指差す先――。
子供たちが、野菜を抱えて笑っている。
老人たちが、涙を流している。
若者たちが、希望に満ちた目をしている。
「……成功したんだ」
私は、小さく呟いた。
「本当に、成功したんだ」
「ああ」
ルシアンが、隣に立った。
「お前は、奇跡を起こした」
「奇跡じゃありません」
私は、首を横に振った。
「これは、科学と魔法の融合。そして、皆の努力の結果です」
「だが、それを成し遂げたのは――」
ルシアンが、私の手を取った。
「お前だ」
その手の温かさに、心が満たされた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、私の方だ」
ルシアンは、温室の外を見た。
「この成功で、計画への信頼が固まった」
確かに。
人々の目が、変わっていた。
疑念から、信頼へ。
不安から、希望へ。
「エリシア様!」
グレンが、息を切らして走ってきた。
「大変です! いえ、良い知らせです!」
「どうしたんですか?」
「隣村から、使者が来ました!」
「隣村?」
「はい! 温室の噂を聞いて、自分たちも作りたいと!」
「本当ですか!?」
これは――。
「技術の普及が、始まったのね」
私は、ルシアンを見た。
「計画、順調です」
「ああ」
彼は、誇らしげに微笑んだ。
「お前は、本当に素晴らしい」
その夜。
収穫祭が開かれた。
温室で採れた野菜を使った料理が、並んでいる。
「乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
民衆、貴族、農民、商人――。
全ての立場の人々が、一緒に祝っている。
「エリシア」
ルシアンが、グラスを掲げた。
「お前に、感謝を」
「私にではなく、皆に」
私も、グラスを掲げた。
「皆で成し遂げたんです」
カチン。
グラスが触れ合う。
「ねえ、エリシア」
ミラが、野菜を頬張りながら言った。
「これって、王都でも売れるよね?」
「ええ、確実に」
私は、頷いた。
「冬の野菜は、王都では高級品。需要は大きい」
「じゃあ、また儲かるね!」
ミラの目が、キラキラしている。
「その資金で、次の計画に――」
「そうね」
私は、微笑んだ。
「次は、道路整備と学校建設」
「まだやるの?」
オスカーが、苦笑した。
「もちろんです」
私は、立ち上がった。
「皆さん!」
声を張り上げる。
宴が、静かになった。
「今日は、素晴らしい日です」
私は、全員を見渡した。
「温室の成功は、第一歩に過ぎません」
「これから、もっと素晴らしいことを成し遂げます」
人々の目が、輝いている。
「道路を作り、学校を建て、この国を豊かにします」
「そして――」
私は、ルシアンを見た。
「皆で、新しい未来を作りましょう」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、夜空に響いた。
宴は、夜遅くまで続いた。
笑い声、歌声、そして希望の声。
私は、バルコニーで一人星を見上げていた。
「疲れたか?」
ルシアンが、隣に立った。
「いいえ、むしろ元気です」
「お前は、本当に――」
彼は、言葉を選んだ。
「強いな」
「強くなんて、ありません」
私は、首を横に振った。
「ただ、守りたいものがあるだけです」
「守りたいもの?」
「ええ」
私は、宴の明かりを見た。
「あの笑顔。あの希望。あの未来」
「……そうか」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア」
「はい」
「私も、守りたいものがある」
「何ですか?」
彼は、私を見た。
「お前だ」
心臓が、止まりそうになった。
「ルシアン……」
「お前を、守りたい」
彼の声が、震えていた。
「お前の夢を、お前の笑顔を、お前の全てを」
「……私も」
私は、彼の手を取った。
「あなたを、守りたい」
二人で、手を繋いで星を見上げた。
冷たい夜風。
でも、心は温かかった。
「これから、どんな困難が待っているだろうな」
ルシアンが、呟いた。
「たくさん、あるでしょうね」
「怖いか?」
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「だって、あなたがいるから」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「……お前は、ずるいな」
「何がですか?」
「そういうこと、平然と言うところだ」
二人で、笑った。
遠くで、宴の音楽が聞こえている。
明日への希望の音楽。
「さあ、戻りましょう」
私は、ルシアンの手を引いた。
「皆が、待っています」
「ああ」
二人で、宴に戻った。
温かい光の中へ。
未来への、第一歩を踏み出した夜。
それは、忘れられない夜になった。
最初の温室建設現場は、混乱していた。
「ダメだ、また魔法陣が不安定になった!」
技術者の一人が、叫んだ。
魔法陣が描かれた床が、明滅している。
「温度が上がらない……これでは、植物が育たない」
私は、設計図を見直した。
「魔力の流れが、どこかで滞っている……」
「エリシア様」
ヨハンが、困った顔で近づいてきた。
「農民たちが、不安がっています」
「わかっています」
私は、額の汗を拭った。
「もう少し、待ってください」
「でも、もう一週間も――」
「わかってる!」
思わず、声を荒げてしまった。
ヨハンが、驚いた顔をする。
「……すみません」
私は、深呼吸をした。
「焦っているんです。でも、必ず解決します」
「皆、信じてはいるんです」
ヨハンが、優しく言った。
「でも、やはり不安なんです。これまで、何度も――」
「裏切られてきた、ですね」
私は、頷いた。
「だから、今度こそ成功させます」
でも、正直――。
私自身も、不安だった。
その夜。
執務室で、私は一人設計図と格闘していた。
「どこが間違っているの……」
魔法陣の理論は、この世界のものだ。
前世の知識だけでは、解決できない。
「温度制御の魔法陣……熱の拡散……」
コンコン。
ノックの音。
「どうぞ」
ルシアンが、入ってきた。
「まだ、起きていたのか」
「ええ……解決策が見つからなくて」
私は、設計図を見つめた。
「私のせいです。農民たちに期待させて、でも実現できなくて――」
「自分を責めるな」
ルシアンが、私の肩に手を置いた。
「お前は、十分頑張っている」
「でも――」
「エリシア」
彼は、私の顔を見た。
「失敗しても、いいんだ」
「え……?」
「お前は、完璧である必要はない」
ルシアンの声が、優しかった。
「失敗して、また挑戦すればいい。それが、人間だ」
その言葉に――。
「ルシアン……」
涙が、溢れそうになった。
前世では、失敗は許されなかった。
常に結果を出すことを求められた。
でも、今――。
「ありがとうございます」
「一人で抱え込むな」
ルシアンが、設計図を見た。
「私も、力になる」
「でも、あなたは魔法陣の専門家では――」
「だが、戦場で暖房魔法陣は何度も使った」
彼は、設計図を指差した。
「この部分、魔力の流れが逆じゃないか?」
「え?」
私は、設計図を見直した。
「本当だ……魔力の入力と出力が――」
「逆になっている」
ルシアンが、修正を書き込んだ。
「これで、どうだ?」
私は、頭の中で計算した。
「これなら……いける!」
希望の光が、見えた。
「ルシアン、天才です!」
「お前ほどじゃない」
彼は、微笑んだ。
「さあ、明日試してみよう」
「はい!」
翌朝。
修正した魔法陣を、温室の床に描いた。
農民たち、技術者たち、そして多くの民衆が見守っている。
「では、起動します」
私は、魔法陣に魔力を注いだ。
魔法陣が、青く光り始めた。
そして――。
「温かい……!」
温室の中の温度が、上がり始めた。
「成功だ!」
技術者たちが、歓声を上げた。
「本当に、温かくなってる!」
農民たちも、温室に入ってくる。
「これなら、冬でも野菜が育つ……!」
ヨハンが、涙を流していた。
「本当に、できたんだ……」
「はい」
私は、微笑んだ。
「これから、種を植えましょう」
それから一ヶ月。
温室の中では、緑の芽が顔を出していた。
「見てください、エリシア様!」
ヨハンが、興奮して私を呼んだ。
「レタスが、もうこんなに!」
小さな、でも確かな緑の葉。
「トマトも、実をつけ始めました!」
別の農民が、嬉しそうに報告する。
「素晴らしい……」
私は、その緑を見つめた。
極寒のノルディアで、冬に育つ野菜。
これが、奇跡の第一歩。
「エリシア」
ルシアンが、温室に入ってきた。
「見てください、成功しました」
「ああ、見事だ」
彼も、野菜を見て微笑んでいた。
「お前の計画は、本物だったんだな」
「いいえ、皆の力です」
私は、周りの農民たちを見た。
「皆が信じて、協力してくれたから」
「エリシア様」
若い農民が、前に出た。
「私たち、最初は疑っていました」
「知っています」
「でも、今は違います」
彼は、深く頭を下げた。
「あなたを、心から信じています」
他の農民たちも、次々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「あなたが、希望をくれました!」
その光景に、胸が熱くなった。
「こちらこそ、ありがとうございます」
私も、深く頭を下げた。
「これからも、一緒に頑張りましょう」
一週間後。
最初の収穫日。
温室には、百人以上の人々が集まっていた。
「では、収穫します」
私は、最初のレタスに手を伸ばした。
新鮮な、緑の葉。
それを、高く掲げる。
「成功です!」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、温室を揺らした。
「冬に、野菜が採れた!」
「奇跡だ!」
「エリシア様の奇跡だ!」
人々が、次々と温室に入ってくる。
トマト、レタス、ほうれん草――。
どれも、みずみずしく育っている。
「試食してください」
私は、収穫したトマトを切り分けた。
「どうぞ」
ヨハンが、一口食べた。
その顔が――。
「うまい……!」
彼の目から、涙が溢れた。
「こんなに、美味しいトマト、初めて食べた……!」
他の人々も、次々と試食する。
「本当だ! 甘い!」
「新鮮で、瑞々しい!」
「これが、冬に食べられるなんて……!」
喜びの声が、あふれていた。
「エリシア様」
ミラが、私の袖を引いた。
「見て」
彼女が指差す先――。
子供たちが、野菜を抱えて笑っている。
老人たちが、涙を流している。
若者たちが、希望に満ちた目をしている。
「……成功したんだ」
私は、小さく呟いた。
「本当に、成功したんだ」
「ああ」
ルシアンが、隣に立った。
「お前は、奇跡を起こした」
「奇跡じゃありません」
私は、首を横に振った。
「これは、科学と魔法の融合。そして、皆の努力の結果です」
「だが、それを成し遂げたのは――」
ルシアンが、私の手を取った。
「お前だ」
その手の温かさに、心が満たされた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは、私の方だ」
ルシアンは、温室の外を見た。
「この成功で、計画への信頼が固まった」
確かに。
人々の目が、変わっていた。
疑念から、信頼へ。
不安から、希望へ。
「エリシア様!」
グレンが、息を切らして走ってきた。
「大変です! いえ、良い知らせです!」
「どうしたんですか?」
「隣村から、使者が来ました!」
「隣村?」
「はい! 温室の噂を聞いて、自分たちも作りたいと!」
「本当ですか!?」
これは――。
「技術の普及が、始まったのね」
私は、ルシアンを見た。
「計画、順調です」
「ああ」
彼は、誇らしげに微笑んだ。
「お前は、本当に素晴らしい」
その夜。
収穫祭が開かれた。
温室で採れた野菜を使った料理が、並んでいる。
「乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
民衆、貴族、農民、商人――。
全ての立場の人々が、一緒に祝っている。
「エリシア」
ルシアンが、グラスを掲げた。
「お前に、感謝を」
「私にではなく、皆に」
私も、グラスを掲げた。
「皆で成し遂げたんです」
カチン。
グラスが触れ合う。
「ねえ、エリシア」
ミラが、野菜を頬張りながら言った。
「これって、王都でも売れるよね?」
「ええ、確実に」
私は、頷いた。
「冬の野菜は、王都では高級品。需要は大きい」
「じゃあ、また儲かるね!」
ミラの目が、キラキラしている。
「その資金で、次の計画に――」
「そうね」
私は、微笑んだ。
「次は、道路整備と学校建設」
「まだやるの?」
オスカーが、苦笑した。
「もちろんです」
私は、立ち上がった。
「皆さん!」
声を張り上げる。
宴が、静かになった。
「今日は、素晴らしい日です」
私は、全員を見渡した。
「温室の成功は、第一歩に過ぎません」
「これから、もっと素晴らしいことを成し遂げます」
人々の目が、輝いている。
「道路を作り、学校を建て、この国を豊かにします」
「そして――」
私は、ルシアンを見た。
「皆で、新しい未来を作りましょう」
「「「おおおおお!!」」」
歓声が、夜空に響いた。
宴は、夜遅くまで続いた。
笑い声、歌声、そして希望の声。
私は、バルコニーで一人星を見上げていた。
「疲れたか?」
ルシアンが、隣に立った。
「いいえ、むしろ元気です」
「お前は、本当に――」
彼は、言葉を選んだ。
「強いな」
「強くなんて、ありません」
私は、首を横に振った。
「ただ、守りたいものがあるだけです」
「守りたいもの?」
「ええ」
私は、宴の明かりを見た。
「あの笑顔。あの希望。あの未来」
「……そうか」
ルシアンは、しばらく黙っていた。
そして――。
「エリシア」
「はい」
「私も、守りたいものがある」
「何ですか?」
彼は、私を見た。
「お前だ」
心臓が、止まりそうになった。
「ルシアン……」
「お前を、守りたい」
彼の声が、震えていた。
「お前の夢を、お前の笑顔を、お前の全てを」
「……私も」
私は、彼の手を取った。
「あなたを、守りたい」
二人で、手を繋いで星を見上げた。
冷たい夜風。
でも、心は温かかった。
「これから、どんな困難が待っているだろうな」
ルシアンが、呟いた。
「たくさん、あるでしょうね」
「怖いか?」
「いいえ」
私は、微笑んだ。
「だって、あなたがいるから」
ルシアンの顔が、赤くなった。
「……お前は、ずるいな」
「何がですか?」
「そういうこと、平然と言うところだ」
二人で、笑った。
遠くで、宴の音楽が聞こえている。
明日への希望の音楽。
「さあ、戻りましょう」
私は、ルシアンの手を引いた。
「皆が、待っています」
「ああ」
二人で、宴に戻った。
温かい光の中へ。
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それは、忘れられない夜になった。
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ファンタジー
呪いを浄化する『浄化師』の一族に生まれたセレン。
しかし、微弱な魔力しか持たない彼女は『ゴミ溜め場の聖女』と蔑まれ、命を削る危険な呪具の浄化ばかりを押し付けられる日々を送っていた。
ある日、一族の次期当主である兄に、身代わりとして死の呪いがかかった遺物の浄化を強要される。
死を覚悟した瞬間、セレンは前世の記憶を思い出す。――自分が、歴史的な遺物を修復する『文化財修復師』だったことを。
「これは、呪いじゃない。……経年劣化による、素材の悲鳴だ」
化学知識と修復技術。前世のスキルを応用し、奇跡的に生還したセレンは、搾取されるだけの人生に別れを告げる。
これは、ガラクタ同然の呪具に秘められた真の価値を見出す少女が、自らの工房を立ち上げ、やがて国中の誰もが無視できない存在へと成り上がっていく物語。
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