追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

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第2章「復興の女神」

第15話「学び舎の誕生」

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城の東棟を改装した校舎。
白い壁に、大きな窓。暖炉が設置され、机と椅子が並んでいる。
「完成しました、エリシア様」
オスカーが、報告してくれた。
「ありがとうございます」
私は、教室を見回した。
三十人分の机。黒板。本棚。
「明日、開校式ですね」
ミラが、緊張した顔で言った。
「ええ。準備は整った」
でも、正直――不安もあった。
この世界の教育システムは、貴族と平民で大きく異なる。
平民の子供たちの多くは、文字すら読めない。
「大丈夫かな……」
「大丈夫だよ」
ミラが、私の手を握った。
「エリシアなら、絶対できる」
その言葉に、勇気をもらった。
「ありがとう、ミラ」

開校式の朝。
教室には、二十人の子供たちが集まっていた。
年齢は六歳から十二歳まで。
皆、緊張した顔で座っている。
「皆さん、おはようございます」
私は、教室の前に立った。
「私はエリシア。今日から、皆さんの先生です」
子供たちが、じっと私を見ている。
「ここは、学校です。文字を学び、計算を学び、世界を学ぶ場所」
「せんせい」
小さな女の子が、手を上げた。
「はい、どうぞ」
「がっこうって、なに?」
その質問に、他の子供たちもうなずいている。
そうだ。彼らは、学校の概念すら知らない。
「学校というのはね」
私は、黒板に絵を描いた。
木、家、人――簡単な絵。
「色々なことを学んで、大きくなる場所です」
「おおきくなる?」
「そう。知識という宝物を、たくさん集める場所」
子供たちの目が、少し輝いた。
「たからもの……」
「では、最初の授業を始めましょう」
私は、黒板に大きく「あ」と書いた。
「これが、文字です」

最初の一週間は、苦労の連続だった。
「せんせい、むずかしい……」
文字を覚えられずに、泣き出す子。
「もう、やだ!」
授業中に走り出す子。
「アイツがバカにした!」
喧嘩を始める子。
「大変だ……」
私は、毎晩頭を抱えていた。
「前世の知識だけじゃ、足りない」
コンコン。
扉をノックする音。
「どうぞ」
ミラが、入ってきた。
「エリシア、アタシも手伝うよ」
「ミラ……でも、あなたも生徒の一人でしょう?」
そう、ミラも授業に参加していた。
彼女は、読み書きを必死に学んでいる。
「だからこそだよ」
ミラが、微笑んだ。
「子供たちの気持ち、アタシにはわかる。文字が読めない辛さ、知らないって怖さ」
「……ありがとう」
私は、彼女を抱きしめた。
「一緒に、頑張ろう」

翌週、私は教育方法を変えた。
「今日は、ゲームをします」
子供たちの顔が、明るくなった。
「ゲーム!?」
「そう。文字探しゲーム」
私は、教室中に文字カードを貼った。
「『あ』の文字を見つけた人は、手を上げて」
「はい!」
「はい!」
子供たちが、教室中を走り回る。
「見つけた!」
「アタシも!」
遊びながら、文字を覚える。
「次は、『い』の文字を――」
子供たちの目が、輝いていた。
そして――。
「せんせい、もっとやりたい!」
「まだ、おわらないで!」
彼らは、学ぶことを楽しみ始めた。

二週間後。
「せんせい、見て!」
小さな男の子が、紙を持ってきた。
そこには、たどたどしい文字で――。
「ありがとう」
と書いてあった。
「上手に書けたね」
私は、彼の頭を撫でた。
「これ、おかあさんにあげるんだ」
男の子が、嬉しそうに笑った。
「きっと、喜ぶわ」
「うん!」
彼は、走って教室を出ていった。
「良かったね、エリシア」
ミラが、隣で微笑んでいた。
「ええ」
私も、微笑んだ。
「これが、教育の力ね」

一ヶ月後。
算数の授業。
「では、問題です」
私は、黒板に書いた。
「リンゴが三つあります。お母さんが二つくれました。全部でいくつ?」
「はい!」
元気よく手を上げたのは――。
背の高い、痩せた少年。
名前は、エドワード。十歳。
「エドワード、答えは?」
「五つです」
「正解! よくできました」
エドワードは、いつも正解する。
それだけじゃない。
「せんせい、質問です」
「はい、どうぞ」
「もし、リンゴを半分に切ったら、何個になりますか?」
鋭い質問。
「良い質問ね。では、みんなで考えてみましょう」
エドワードの目が、知的好奇心で輝いていた。
この子――。
「天才かもしれない」

放課後、エドワードを呼び止めた。
「エドワード、少し話せる?」
「はい、先生」
彼は、緊張した顔で座った。
「あなた、とても優秀ね」
「そんな……」
「本当よ。算数も、文字も、すぐに覚える」
私は、彼の目を見た。
「何か、特別に学びたいことはある?」
エドワードは、少し考えた。
「……星が、好きです」
「星?」
「はい。夜空を見るのが好きで――」
彼の目が、輝いた。
「星の動き、星座、全部知りたいんです」
「素晴らしい」
私は、微笑んだ。
「では、特別授業をしましょう」
「本当ですか!?」
「ええ。週に一度、星について教えます」
エドワードの顔が、喜びで溢れた。
「ありがとうございます!」

その夜、ルシアンに報告した。
「天才児を見つけました」
「天才児?」
「ええ。エドワードという少年です」
私は、興奮して説明した。
「彼の理解力、記憶力は並外れています。適切な教育を受ければ――」
「お前は、本当に」
ルシアンが、笑った。
「教育が好きなんだな」
「……そうかもしれません」
私は、窓の外を見た。
「前世では、企業を再生させていました。でも――」
「でも?」
「人を育てる方が、ずっと楽しい」
心から、そう思った。
「企業は、一時的に救えても、また衰退するかもしれない。でも、教育は――」
「一生残る」
ルシアンが、私の言葉を継いだ。
「そうです」
私は、彼を見た。
「子供たちは、未来そのものです」
ルシアンは、しばらく私を見つめていた。
「お前は、本当に――」
彼は、私の手を取った。
「素晴らしい」
その手の温かさに、心が満たされた。

三ヶ月後。
学校では、初めての発表会が開かれた。
「では、始めます」
子供たちが、前に出てきた。
「あいうえおの歌~!」
元気よく、歌い始める。
観客席には、両親たち、民衆、そして――。
国王陛下の使者まで来ていた。
「これは……」
使者が、驚いた顔をしている。
「辺境の子供たちが、こんなに……」
子供たちの歌が終わると、大きな拍手。
次は、算数の発表。
「三たす二は、五です!」
「五ひく三は、二です!」
元気よく、答えていく。
そして、最後――。
エドワードが、前に出た。
「僕は、星について学びました」
彼は、自分で描いた星座の図を見せた。
「これは、オリオン座です。冬の夜空に見えます」
詳しい説明。正確な知識。
観客たちが、息を呑んでいる。
「この子、本当に十歳か?」
「まるで、学者のようだ」
発表が終わると――。
大きな、大きな拍手。
エドワードの顔が、喜びで輝いていた。

発表会の後、使者が私に近づいてきた。
「エリシア様」
「はい」
「素晴らしい教育です」
使者が、深く頭を下げた。
「国王陛下も、お喜びになるでしょう」
「ありがとうございます」
「それで――」
使者が、書類を取り出した。
「陛下から、正式な要請があります」
「要請?」
「この教育システムを、王国全土に広めてほしいと」
私は、驚いた。
「王国全土に……?」
「はい。あなたを、王国教育総監に任命したいと」
「それは……」
私は、ルシアンを見た。
彼は、うなずいた。
「受けろ。お前の教育は、この国全体に必要だ」
「でも、ノルディアを離れるわけには――」
「離れる必要はない」
使者が言った。
「ここを拠点に、各地に教師を派遣すればいい」
つまり――。
「ノルディアが、教育の中心地になる」
「その通りです」
新しい可能性が、広がった。
「……わかりました」
私は、深く頭を下げた。
「お引き受けします」

その夜、子供たちと祝賀会。
「せんせい、すごいね!」
「王国全部の先生になるんでしょ?」
子供たちが、目を輝かせている。
「でも、皆の先生でもあり続けるわ」
私は、子供たちを抱きしめた。
「ずっと、一緒よ」
「やった!」
子供たちの笑顔。
これが、私の宝物。
「エリシア」
エドワードが、近づいてきた。
「はい」
「僕、大きくなったら――」
彼は、決意を込めて言った。
「先生みたいになりたいです」
その言葉に、涙が溢れそうになった。
「きっと、なれるわ」
私は、彼の頭を撫でた。
「あなたなら、絶対に」
エドワードが、嬉しそうに笑った。

深夜、一人校舎に残っていた。
明日の授業の準備をしながら、考える。
「教育総監か……」
責任は重い。
でも――。
「やりがいがある」
この小さな教室から始まった夢が、王国全体に広がる。
「せんせい、まだいたの?」
ミラが、入ってきた。
「ミラ、どうしたの?」
「心配で。また徹夜するんじゃないかって」
彼女は、私の隣に座った。
「ねえ、エリシア」
「何?」
「アタシ、字が読めるようになった」
ミラが、本を取り出した。
「この本、全部読めるんだ」
「すごいじゃない!」
「全部、エリシアのおかげ」
ミラの目に、涙が浮かんでいた。
「アタシ、昔は何もできなかった。盗みしかできなかった」
「ミラ……」
「でも今は、字も読めるし、計算もできる。仕事もできる」
彼女は、私の手を握った。
「エリシアが、アタシの人生を変えてくれた」
その言葉が、胸に響いた。
「私こそ、ありがとう」
私は、ミラを抱きしめた。
「あなたがいてくれて、本当に良かった」
二人で、しばらく抱き合っていた。
温かい沈黙。
「さあ、寝よう」
「うん」
校舎を出る。
満天の星空。
「綺麗……」
「エドワードが好きな、星ね」
ミラが、空を見上げた。
「あの子、将来すごい学者になるかもね」
「きっと、なるわ」
私も、星を見上げた。
「ここから、何人もの才能が育っていく」
「そうだね」
二人で、城に戻った。
明日への希望を胸に。
教育という種が、確実に芽吹いている。
そして、その種は――。
やがて、王国全体を変える大樹になる。
「楽しみね、未来が」
「うん」
ミラが、笑った。
「エリシアがいれば、絶対いい未来になるよ」
その言葉を、心に刻んだ。
星空の下、二人の影が城に消えていった。
新しい時代の、幕開けの夜。
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