処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第9章「忠義の証明」

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訓練が終わり、レオンは汗を拭っていた。
夏の日差しは容赦なく、体力を奪う。
だが、レオンは手を抜かなかった。
剣士として、騎士として、常に最善を尽くす。それが彼の信条だった。
「レオン」
声がした。
振り返ると、バルドが立っていた。
「宰相閣下」
レオンは姿勢を正した。
「ロベルト殿下がお呼びです。すぐに私室へ」
「私を、ですか」
「はい」
バルドは表情を変えなかった。
「何の用件でしょうか」
「それは殿下から直接聞いてください」
バルドは去った。
レオンは戸惑った。
ロベルトが、自分を呼ぶ?
何のために。
不安が胸をよぎる。
セリーヌのことが、バレたのか。
深夜の地下書庫。あの時、誰かに見られていたのか。
レオンは剣を腰に差し、ロベルトの私室へ向かった。
廊下を歩きながら、考える。
もし問い詰められたら、何と答えるべきか。
セリーヌを守る。それだけだ。
他に選択肢はない。
私室の扉を叩いた。
「入れ」
ロベルトの声。
扉を開けると、広い部屋。豪華な家具。壁には絵画。窓からは庭が見える。
ロベルトは椅子に座り、ワインを飲んでいた。
「レオン、よく来た。座れ」
「いえ、立ったままで」
「堅苦しいな。まあいい」
ロベルトはワインを置いた。
「お前のことは知っている。優秀な若い騎士だとな」
「もったいないお言葉です」
「謙遜するな。訓練場での動きを見た。確かに腕は立つ」
ロベルトは立ち上がり、窓の方へ歩いた。
「お前の父も騎士だったそうだな」
「はい」
「先王陛下に仕え、山賊討伐で戦死した」
「その通りです」
ロベルトは振り返った。
「忠義の家系だ。素晴らしい」
「ありがとうございます」
ロベルトはレオンに近づいた。
「だからこそ、お前に頼みたいことがある」
レオンは警戒した。
「何でしょうか」
「姪のことだ」
心臓が跳ねた。
「セリーヌ殿下、ですか」
「そうだ」
ロベルトは真剣な顔をした。
「彼女のことが心配なのだ」
「心配、とは」
「最近、様子がおかしい。何か悩んでいるようだ」
ロベルトは腕を組んだ。
「評議会での発言もそうだ。急に継承の話を持ち出した。何かに怯えているように見える」
レオンは何も答えなかった。
「お前は、彼女と親しいそうだな」
「親しい、というほどでは」
「いや、聞いているぞ。最近、よく一緒にいるらしい」
バルドが報告しているのだろう。
レオンは冷静さを保った。
「殿下の護衛を仰せつかっております」
「護衛、か」
ロベルトは微笑んだ。
「ならば、ちょうどいい。お前に頼みたい。彼女を見守ってほしい」
「見守る、ですか」
「そうだ。彼女が何をしているか。誰と会っているか。何を考えているか。全て、私に報告してほしい」
監視しろ、ということだ。
レオンの拳が固く握られた。
「なぜ、そのようなことを」
「彼女を守るためだ」
ロベルトは真剣な顔をした。
「セリーヌは若い。世間知らずだ。誰かに利用される可能性がある。だから、私が見守らなければならない」
嘘だ。
レオンにはわかった。
この男は、セリーヌを恐れている。
彼女が何かを知っている、あるいは気づいている。
だから、監視したいのだ。
「もちろん、タダで頼むつもりはない」
ロベルトは机から袋を取り出した。
金貨の音がした。
「これは前金だ。情報の質に応じて、さらに報酬を出そう」
袋がテーブルに置かれた。
レオンはそれを見た。
大金だ。
若い騎士にとって、一年分の給金以上。
「どうだ」
ロベルトが問う。
レオンは深呼吸した。
父の剣が腰にある。
父なら、どうする。
答えは明確だった。
「申し訳ございませんが、お断りします」
ロベルトの表情が変わった。
「断る?」
「はい」
レオンは真っ直ぐにロベルトを見た。
「私の忠誠は、王家に対してです。特定の誰かのために、他の誰かを監視することはできません」
「王家のためだと言っているのだ」
「いえ、違います」
レオンは一歩も引かなかった。
「これは殿下個人の都合です。私は騎士として、そのような命令には従えません」
沈黙。
ロベルトの目が冷たくなった。
「後悔するぞ」
「後悔はしません」
「お前の昇進に、影響するかもしれんぞ」
「構いません」
ロベルトは舌打ちした。
「愚かな奴だ」
「愚かで結構です」
レオンは一礼した。
「失礼します」
部屋を出た。
扉を閉めた瞬間、膝が震えた。
恐ろしかった。
ロベルトの目。あの冷たい目。
だが、レオンは後悔していなかった。
正しいことをした。
それだけだ。
レオンは廊下を急いだ。
セリーヌに報告しなければ。
彼女の部屋に向かう途中、マリーに会った。
「レオン様、どうなさったのです。顔色が」
「セリーヌ殿下は」
「お部屋におられます」
「すぐに会いたい。伝えてくれ」
マリーは頷き、先に行った。
しばらくして、セリーヌの部屋に通された。
「レオン、どうしたの」
セリーヌは心配そうに立ち上がった。
「殿下」
レオンは一礼し、全てを話した。
ロベルトに呼ばれたこと。監視を命じられたこと。金を提示されたこと。そして、断ったこと。
セリーヌは黙って聞いていた。
「レオン」
彼女は静かに言った。
「あなたは危険な立場に立たされました」
「承知しています」
「ロベルトは、あなたを敵と見なすでしょう」
「構いません」
レオンは真剣な顔をした。
「私は殿下を信じています。殿下が何をしようとしているのか、詳しくは知りません。ただ、それが正しいことだと信じています」
セリーヌは目に涙を浮かべた。
「ありがとう」
「いえ」
レオンは膝をついた。
「私は父の剣を継いだ騎士です。忠義を裏切ることはできません」
「立ってください」
セリーヌは手を差し伸べた。
「あなたは対等です。膝をつく必要はありません」
レオンは手を取って立ち上がった。
「これから、さらに危険になります」
セリーヌは窓の外を見た。
「ロベルトは動き出しました。私たちを警戒している」
「ならば、こちらも備えなければ」
「ええ」
セリーヌは引き出しから羊皮紙を取り出した。
「これを見てください」
レオンは受け取った。
毒の分析結果。ロベルトの過去の陰謀記録。密会の目撃記録。
「これは」
「証拠です。まだ不十分ですが、積み上がっています」
セリーヌは真剣な顔をした。
「レオン、これから私と一緒に戦ってくれますか」
「もちろんです」
「命を危険にさらすことになります」
「覚悟の上です」
レオンは剣の柄に手を置いた。
「私の剣は、殿下のために」
セリーヌは微笑んだ。
「ありがとう。あなたがいてくれて、本当に心強い」
二人は窓の外を見た。
夕日が沈み始めている。
戦いは、新しい局面に入った。
ロベルトは警戒している。
バルドも動いている。
時間が限られている。
だが、セリーヌには味方がいる。
レオン。グレン侯爵夫人。そして、まだ見ぬ協力者たち。
一人ではない。
それが、希望だった。
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