処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第10章「小さな勝利」

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早朝、セリーヌは町の錬金術師の工房を訪れた。
マリーとレオンが同行した。
扉を開けると、老錬金術師が作業台で何かを調合していた。
「ああ、王女殿下。お待ちしておりました」
「頼んでいたものは」
「できています」
錬金術師は小瓶を取り出した。
「強壮剤です。成分は、殿下が指定された通り。ハーブと鉱物粉末。ただし、毒性物質は一切含まれておりません」
セリーヌは瓶を受け取った。
茶色い液体。見た目は、父が飲んでいるものと同じだ。
「匂いは」
「同じように調整しました。味も、ほぼ同じです」
「完璧です」
セリーヌは金貨を支払った。
「誰にも話さないでください」
「もちろんです。錬金術師の守秘義務です」
工房を出て、王宮へ戻る馬車の中、セリーヌは瓶を見つめた。
これで、父への毒の供給を止められる。
だが、問題は交換の方法だ。
侍医棟に保管されている毒入りの強壮剤を、この無害な強壮剤とすり替える。
侍医ルイに気づかれないように。
そして、ロベルトやバルドにも気づかれないように。
「殿下、計画は」
レオンが聞いた。
「侍医ルイを説得します」
「説得、ですか」
「ええ。ルイは誠実な人です。もし毒のことを知れば、協力してくれるはずです」
「ですが、証拠を見せれば、ロベルト殿下の陰謀が明るみに出ます」
「だから、全ては話しません。ただ、疑念を植えるだけです」
馬車が王宮に到着した。
セリーヌは侍医棟へ向かった。
ルイは朝の診察の準備をしていた。
「殿下、おはようございます」
「ルイ、少しお時間をいただけますか」
「もちろんです」
二人は診察室に入った。
セリーヌは扉を閉めた。
「ルイ、父上の健康状態は」
「変わりありません。強壮剤の効果もあり、体調は良好です」
「その強壮剤ですが」
セリーヌは慎重に言葉を選んだ。
「別の錬金術師に、成分を確認してもらいました」
ルイは驚いた顔をした。
「なぜ、そのようなことを」
「念のためです」
セリーヌは毒の分析結果の一部を見せた。ただし、ヒ素の部分は隠した。
「不純物が検出されました。微量ですが、長期摂取により健康被害の可能性があるとのことです」
ルイは顔色を変えた。
「そんな、まさか」
「ルイ、あなたは誠実な医師です。故意に毒を盛るような人ではないと信じています」
「当然です!」
ルイは立ち上がった。
「私は医師です。人を害するようなことは絶対にしません」
「わかっています。だからこそ、相談したいのです」
セリーヌは無害な強壮剤の瓶を取り出した。
「これは、別の錬金術師に調合してもらった強壮剤です。成分は同じですが、不純物は含まれていません」
「それを、陛下に」
「ええ。ただし、誰にも知られてはいけません」
ルイは戸惑った。
「なぜです。もし本当に不純物があるなら、調査すべきでは」
「調査すれば、騒ぎになります」
セリーヌは真剣な顔をした。
「マルセル商会の信用も損なわれる。宮廷内に疑念が広がる。それは避けたいのです」
「ですが」
「お願いです、ルイ。父上の健康を守ってください。それだけです」
ルイは長い間考え込んでいた。
やがて、頷いた。
「わかりました。陛下のためです」
「ありがとう」
セリーヌは瓶を渡した。
「今日から、これを使ってください。古い強壮剤は、私が預かります」
「預かる、ですか」
「さらに詳しく分析するためです」
ルイは棚から古い瓶を取り出した。
「これです」
セリーヌは受け取り、懐にしまった。
証拠だ。
毒入りの強壮剤。
これを保管し、いずれ法廷で提示する。
「ルイ、もう一つお願いがあります」
「何でしょう」
「このことは、誰にも話さないでください。宰相にも、ロベルト殿下にも」
ルイは不安そうな顔をした。
「なぜです」
「騒ぎを避けるためです。今は静かに対処したいのです」
ルイは渋々頷いた。
「わかりました。殿下のご意向に従います」
「ありがとう」
セリーヌは侍医棟を出た。
胸に、毒入りの瓶。
証拠が、また一つ増えた。
そして、父への毒の供給が止まった。
小さな勝利だ。
だが、確実な一歩だ。
セリーヌは自室に戻り、瓶を引き出しにしまった。
錬金術師の報告書と一緒に。
証拠は積み上がっている。
だが、まだ決定的なものが足りない。
ロベルトが命令したという証拠。
バルドが実行したという証拠。
その繋がりを証明するもの。
それを掴むまで、戦いは続く。
窓の外、朝日が昇っていた。
新しい日。
父は今日も、無害な強壮剤を飲む。
知らずに。
だが、それでいい。
セリーヌが守る。
影で、静かに。
そして、いつか全てを明るみに出す。
法廷で。
証拠と共に。
それまで、耐える。
時を待つ。
機会を掴む。
セリーヌは深呼吸した。
小さな勝利。
だが、戦いはまだ始まったばかりだ。
ロベルトは気づくだろうか。
父の体調が、改善し始めることに。
いや、すぐには気づかない。
毒の効果は緩やかだ。
止めても、すぐに変化は現れない。
数週間、数ヶ月かかる。
その間に、セリーヌは次の手を打つ。
証拠を集め。
味方を増やし。
そして、決戦の準備をする。
扉がノックされた。
「お嬢様、朝食の時間です」
マリーの声。
「すぐ行きます」
セリーヌは立ち上がり、鏡を見た。
母の髪飾りが光っている。
希望を捨てないで。
捨てていない。
今、セリーヌには希望がある。
小さくても、確かな希望。
食堂へ向かう。
父がすでに席についていた。
「セリーヌ、おはよう」
「おはようございます、父上」
セリーヌは席につく。
父の顔色を見る。
まだ疲れているように見える。だが、以前より少しだけ、血色が良い気がする。
気のせいかもしれない。
だが、信じたい。
父は助かる。
この国も、守られる。
そして、セリーヌ自身も、生き延びる。
処刑台ではなく、玉座に立つ。
それが、新しい未来だ。
朝食が運ばれてくる。
父はスープを飲み、満足そうに頷いた。
「今日も良い天気だ。午後、庭を散歩しようか」
「ええ、喜んで」
父と過ごす時間。
前の時間軸では、もう二度と来なかった時間。
今、ここにある。
セリーヌは心から笑顔を見せた。
戦いは続く。
だが、守るべきものがある。
それが、セリーヌの力だ。
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