処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka

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第11章「火の宴」

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グレン侯爵邸の庭園は、篝火の光で照らされていた。
夏の夜。星が輝く空の下、数十人の貴族が集まっている。
テーブルには料理が並び、楽団が陽気な曲を奏でる。貴族たちは笑い、踊り、ワインを飲んでいる。
セリーヌは庭園の入口に立ち、その光景を見渡した。
火の宴。
グレン侯爵が毎年夏に開く、社交の場。
ここでは、表の顔と裏の顔が交錯する。
昼間は礼儀正しく振る舞う貴族たちが、夜になり酒が入ると本音を漏らす。
それを聞くために、セリーヌは来た。
「殿下、お気をつけください」
レオンが小声で言った。彼は護衛として、常にセリーヌの近くにいる。
「わかっています」
セリーヌは庭園に入った。
すぐに、グレン侯爵夫人が近づいてきた。
「殿下、ようこそ。お待ちしておりました」
「お招きいただき、ありがとうございます」
夫人は腕を取った。
「さあ、皆様にご挨拶を」
夫人に案内され、セリーヌは貴族たちの輪に加わった。
最初に会ったのは、商人ギルド代表のマルコだった。
「殿下、お美しい」
マルコは丁寧に頭を下げた。太った体。商人特有の計算高い目。
「マルコ、ご機嫌いかがですか」
「おかげさまで。商売は順調です」
「それは良かった」
セリーヌは周囲を見た。他の貴族たちも、こちらを見ている。
その中に、ロベルトの姿があった。
彼は黒い礼服を着て、貴族たちと談笑している。笑顔で、親しげに。
人気がある。
それが、ロベルトの強さだった。
社交に長け、人を惹きつける魅力を持っている。
セリーヌは視線を逸らし、別の貴族に挨拶をした。
やがて、ロベルトが演説を始めた。
篝火の前に立ち、手を広げる。
「皆様、今宵はお集まりいただき、ありがとうございます」
貴族たちが静まる。
「私たちは、この美しい王国リオネールに生きています。豊かな土地、勤勉な民、そして偉大な王。全てに感謝すべきです」
拍手が起こる。
「しかし、私たちは油断してはなりません。国の繁栄は、私たち貴族の努力によって支えられています。王だけでは、国は治められない。私たちの知恵と協力が必要なのです」
ロベルトは貴族たちを見回した。
「だからこそ、私たちは団結しなければなりません。互いに助け合い、支え合い、この国を守る。それが私たちの使命です」
また拍手。
セリーヌは冷静に聞いていた。
巧妙な演説だ。
王を称えながら、実際には貴族の重要性を強調している。
そして、自分がその中心にいることを暗示している。
「さあ、今宵は楽しみましょう。明日の繁栄のために、今日を祝いましょう」
ロベルトが杯を掲げる。
全員が杯を掲げ、乾杯した。
セリーヌも形だけ杯を口に運んだ。
演説が終わり、宴が再開された。
貴族たちは再び談笑し始める。
セリーヌは人混みを抜け、庭園の奥へ向かった。
そこで、二人の男が話しているのが聞こえた。
セリーヌは彫像の陰に身を隠し、耳を澄ませた。
「あの件、ロベルト殿下に相談したのか」
一人が言った。声からして、中年の貴族。
「ああ、した。殿下は快く引き受けてくださった」
もう一人が答えた。
「借金の件か」
「そうだ。東の領地が不作でな。税収が足りない。殿下が金を貸してくださった」
「利子は」
「なしだ。ただし、評議会で殿下を支持することが条件だ」
セリーヌは息を呑んだ。
買収だ。
ロベルトは金を貸し、その代わりに忠誠を買っている。
「俺も同じだ」
最初の男が言った。
「商人との契約で揉めていたが、殿下が仲介してくださった。おかげで損失を免れた」
「ロベルト殿下は頼りになる」
「ああ。エドワード陛下も素晴らしい王だが、殿下の方が私たち貴族のことをよく理解している」
二人は笑った。
セリーヌは拳を握った。
ロベルトは長い時間をかけて、貴族たちを自分の陣営に取り込んでいる。
金、便宜、仲介。
あらゆる手段で。
そして、その見返りに忠誠を求める。
だから、処刑の時、誰もセリーヌを守らなかった。
皆、ロベルトの側についていた。
セリーヌは別の場所へ移動した。
今度は、女性たちの会話が聞こえた。
「ロベルト殿下、素敵よね」
「ええ、魅力的だわ」
「もし殿下が王になったら、きっと素晴らしい治世になるわ」
「でも、エドワード陛下がまだお元気だから」
「そうね。でも、もし何かあったら」
女性たちは小声で笑った。
セリーヌは立ち去った。
吐き気がした。
皆、父の死を待っている。
いや、期待している。
そして、ロベルトの即位を望んでいる。
庭園の端に、マルコがいた。
彼は一人でワインを飲んでいる。
セリーヌは近づいた。
「マルコ、一人ですか」
マルコは驚いて振り返った。
「殿下、これは」
彼は少し酔っているようだった。頬が赤い。
「賑やかな宴ですね」
「ええ、まあ」
マルコは曖昧に笑った。
「マルコ、あなたは評議会で中立を保っていますね」
「はい、商人ですから。政治には深入りしないのが賢明です」
「ですが、いずれ選ばなければならない時が来るかもしれません」
マルコは表情を曇らせた。
「殿下、何をおっしゃりたいのですか」
「ロベルト伯父は、多くの貴族を味方につけています」
「存じております」
「あなたも、彼から何か提案を受けましたか」
マルコは沈黙した。
やがて、小声で言った。
「通商路の拡大について、殿下が便宜を図ると申されました」
「その代わりに」
「評議会で殿下を支持することを」
セリーヌは頷いた。
「あなたは、どう答えたのですか」
「まだ返事をしていません」
マルコは困った顔をした。
「殿下、私は商人です。利益を追求するのが仕事です。ですが、不正には加担したくありません」
「不正、ですか」
「ロベルト殿下のやり方は、少し強引です。金で忠誠を買うのは、商売ではありません。それは買収です」
マルコは真剣な顔をした。
「私は、正しい取引を好みます。公正で、透明で、双方に利益がある取引を」
セリーヌは微笑んだ。
「マルコ、あなたは誠実な商人ですね」
「いえ、ただの商人です」
「もし、私が正しい取引を提案したら、あなたは考えてくれますか」
マルコは目を見開いた。
「殿下」
「私も、公正な取引を望んでいます。金で買収するのではなく、互いに利益がある協力を」
セリーヌは一歩近づいた。
「私は次の王になるつもりです。そのためには、あなたのような誠実な人々の支持が必要です」
「殿下、しかし」
「今すぐ答えなくていい。ただ、覚えておいてください。私は、正しい道を歩む者を裏切りません」
マルコは黙って頷いた。
セリーヌは立ち去った。
一人、味方の可能性を得た。
まだ確約ではない。だが、種を蒔いた。
宴は深夜まで続いた。
セリーヌは疲れたが、最後まで残った。
観察し、聞き、記憶する。
誰が誰と話すか。誰が誰を避けるか。誰がロベルトに従順か。
全てを記憶する。
やがて、宴が終わった。
貴族たちは馬車で帰っていく。
セリーヌもレオンと共に馬車に乗った。
「殿下、収穫はありましたか」
レオンが聞いた。
「ええ、たくさん」
セリーヌは窓の外を見た。
「ロベルトの支持基盤は強固です。多くの貴族が、彼に借りを作っています」
「ならば、難しいのでは」
「いいえ」
セリーヌは微笑んだ。
「借りで繋がった忠誠は、脆いのです。より良い条件があれば、簡単に裏切る」
「つまり」
「私も同じ手を使えばいいのです。ただし、もっと正当な方法で」
馬車が王宮に到着した。
セリーヌは自室に戻り、記録を更新した。
貴族の名前。借金の額。ロベルトとの取引内容。
全てを記録する。
これらは、いずれ武器になる。
法廷で、あるいは交渉で。
窓の外、夜空に月が昇っていた。
火の宴。
欲望と権力の宴。
セリーヌはその中で、敵の弱点を見つけた。
ロベルトは強い。だが、完璧ではない。
彼の支持基盤は、金と便宜で成り立っている。
ならば、それを崩せばいい。
正義と法で。
セリーヌは羽根ペンを置いた。
戦いは、次の段階へ進む。
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