元魔王おじさん

うどんり

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二章

第63話 元魔王は魔法対決で圧倒する

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ううむ……俺は周囲を見渡した。

とりあえず小屋の火は消えたのでよかったが……焦土となった土地に果たしてまた畑が作れるのか?
それが問題だな。
まあ、また作ってみてから考えるか。

白装束の男は、

「普通の人間というのは、思いのほか役に立ちませんね。せっかく雇ったのに」

ラミナに手足を切断されてうめきながら転がっている野盗どもを魔法の炎で炙り、残らず始末した。

「ぎゃあああ!」

断末魔を上げながら丸焼きにされていく野盗ども。

「…………」

おそらく雇った野盗はこれだけではあるまいな。
奴らの『あるじ』とやらは、何を企んでいるのか……。

「ラミナ、マヤを避難させてくれ」

「は、はひ……そうしていただけると」

涙目で縮こまっていたマヤは俺をすがるように見た。

ラミナはうなずいて空間を切り裂き、マヤの手を引く。

「逃がしませんよ」

白装束は火球を召喚して放つも、ラミナが魔法で固定した空間に阻まれる。

「……!」

白装束が舌打ちをしている間に、マヤとラミナはこの場から脱した。

「空間魔法ですか……まあいいでしょう。狙いは赤毛の魔法使いですしね」

ウォフナーはシオンを守るように下がった。

「シオンは、まあ参考になるかはわからんが、俺の戦い方を見ておけ。いい機会だ」

「は、はい……」

シオンは俺の後ろで、震える声でうなずいた。

「しかし久しぶりだぞ、ここまで侵略されたのは。見事だったな」

「……なんですって?」

俺が賞賛すると、白装束の眉がぴくりと動いた。
皮肉を言われているように聞こえたらしい。

「よい奇襲だったが、足りんな。俺を今のような奇襲で倒すなら、この千倍くらいの戦力を投入してマヤやシオンを人質にとるべきだったな」

「余裕ぶっていられるのも今のうちですよ」

白装束の男は鼻で笑った。

「……《神官》よ、支援はいるかい?」

言いながら、白装束の背後からさらに二人、近づいてくる。

フードをかぶった初老の男と、黒髪の若い男だった。

どうやら後ろのほうで見ていたらしい。

黒髪の方は鉱山で会った名前のない《勇者》だった。

「いりませんよ。《賢者》はそこで見ていてください」

と白装束の男――《神官》は答えた。

「そうかい?」

ローブの男――《賢者》と呼ばれた男は髭の蓄えた顎を撫でた。

「あ、あいつ――」

シオンは、にわかに気色ばんだ。

「先生、あいつです。あいつがぼくの父をさらっていった一人です……!」

と、初老の男を指した。

「私かね?」

初老の男――《賢者》は優しげに微笑むと、

「いつか《騎士》と人間狩りをしたときに取り逃がしたのがいたね、そういえば。あまり気にしてなかったが……」

「ち、父を……どこにやったんですか」

震える声で訊ねるシオン。

「どこにもやっとらんよ。ほれ、ここに」

《賢者》は黒髪の若い男に目線をやって答えた。

「肉の一部として、ちゃんといるだろうがね」

「…………!?」

シオンは戸惑いで目を見開く。

どうやら男の言っている意味が分からない様子だ。

やはり殺されていたらしいな。

となると、体内に魔法石の反応があった《戦士》も、そこの《賢者》や《神官》も、同じように人間狩りで手に入れた死体を使って作られたとみてよいな。

……魔界には、魔法石と魔族の肉を使って強靭な魔族を作る秘術が存在した。

それの人間版といったところか。

「――解せん」

《勇者》は、一言つぶやいてから腕を組んだ。

「奇襲などせずとも、真正面からいけばいい」

「まあそういうな。これも戦いの一つだからね。ちゃんと学習すべきさ」

《勇者》は、鼻持ちならない様子で一歩下がってこの光景を眺めていた。

「あなたもこのごろつきたちのように――」

《神官》が手を掲げると、

「火あぶりにして差し上げますよ」

空中の魔法印から巨大な炎の球体が形作られる。

「なんだ、あれは……!」

ウォフナーがあとずさりながらそれを見上げた。

《火球召喚》の火球よりずっと巨大な球体だった。

それは凍てついた周囲を再び熱し、じりじりと木々を焦がしながら、幾条もの炎の触手のようなものを球体から伸ばした。

「《炎熱操作》の《大蛇おろち》か……《天焦紅雨てんしょうこうう》と並ぶほどの上位魔法ではないか。なるほど人間にしては高い魔力を持っているらしいな」

挑発するように言うと、また《神官》は眉をぴくりと動かす。

「私の魔法を受け止める覚悟はまだおありでないようで」

《神官》が言うと触手が鞭のようにしなり、周囲の木々を薙ぎ払いながら俺たちのいる場所を襲う。

「!」

とっさにウォフナーはシオンをかばう。

俺は上空に魔法印を展開し、魔力障壁を作り出した。

炎の鞭打は障壁に当たって弾かれる。

が、力づくで突破するつもりらしい。
矢継ぎ早に何本もの触手が障壁を叩く。

このままでは障壁も破られてしまうな。

……このまま何もしなければ、だが。

「そちらこそ覚悟はできておろうな? 畑を焼いた罪は死をもって贖ってもらうぞ。――そこの《勇者》と《賢者》とやらもだ」

俺は殺気を込めてにらみつける。

「防戦一方なのに何を言っているのです」

「あいにくだが俺の魔法はもうすでに発動している」

「……!?」

瞬間、《神官》の真下――地中から黒い影のような腕が何本もうねりながら出現し、《神官》の両足にとりついた。

「なっ!?」

《神官》が驚いているうちに、影の手は四方八方から絡みついて動きを封じる。

「まさか――地中に魔法印を!?」

「お前が派手な魔力の使い方をしたおかげで感づかれず仕込めたわ」

闇の下位魔法《黒影召喚》――黒い手は《神官》の動きを封じるだけでなく、

「ぐあああっ!?」

あっという間に関節を破壊し、握りつぶすようにその体を飲み込んでいく。

上空でなおも攻撃を続けようとしていた《大蛇》が掻き消えた。

「こ、こんな魔法が存在していたなど……」

《神官》は言うが、闇の魔法を学ぶ上での基本の魔法だ。
特別強力というわけではない。

まあ魔力を練って強化はしているが。

「これは、少しまずいねえ」

《賢者》が迫る影の手をよけながら、空間転移の門を開いた。

どうやら《勇者》を連れて逃げるつもりらしい。

「おい、やつら逃げるぞ」

ウォフナーが言ったが、俺はうなずいた。

「よいよい」

そうしているうちに、《賢者》と《勇者》は影の手を振り切って、この場を離脱する。

俺の啖呵はブラフだ。
逃げさせるのが本当の目的である。

「あえて泳がせよう。……ツエニリニ、奴らの顔は覚えたな?」

「まったく魔族使いが荒いの」

「そう言うな。相手が魔界の魔法を使えるならば、魔力感知を防ぐ結界も貼っているだろうからな。お前らの隠密行動が頼りなのだ」

そして、逃げた《賢者》らと一緒にいるのが『あるじ』の正体だ。

話しているうちに、黒い手の群れは《神官》を完全に飲み込む。

悲鳴と枝の折れるような音が連続して聞こえたが――しばらくすると静かになった。

「もともと死体なら死体へ帰すのは道理なのだろうが、ひどい倒し方だ……絶対シオンの参考にはならんぞ」

ウォフナーは若干引いていた。

いや、魔界ならやさしい方だし……。

「で、大丈夫かシオン?」

「は、はい……」

シオンは立っているだけで精いっぱいといった様子だったが、どうにかうなずいた。

「シオンはどうするのだ?」

「え……?」

「やつらの口ぶりからして、お前の父親はもう生きてはいまい」

「あ……」

思い出したように、シオンから力ない声が漏れた。

シオンは預けていた鉈を取り落とす。

「お前の父親をさらった男は本当の仇ではない。本当の仇は、それを命じた『あるじ』だ。もし仇を討つ覚悟があるのなら、俺たちはサポートに回ろう」

「仇討ちの、覚悟……」

「もししたくないのなら、それでもいい。復讐なんて何も生まない――それも一つの選択だ。どちらも正しいし、どちらが間違っているものでもない。正解を決めるのは、シオンお前だ」

俺が言うと、シオンはうつむいた。

長めの前髪が顔にかかったまま、放心したように表情を失う。

「すぐに答えを出さなくていい。だから自分が納得する決断をしろ」

「…………っ」

シオンは、無言のまま走り出した。

「お、おい!」

ウォフナーが止めようとするのを俺は制す。

「まあ待て。一人で考える時間がいるだろう」

「しかし子どもにはつらすぎる現実だぞ」

「だが決断はせねばならん」

シオンが走り去るのを見届けてから、俺は魔王ダストへの土産である燻製肉の安否を確認しに歩き出した。

燻製肉の確認をしたら、次は周囲の消火だな……。《大蛇》のおかげで周りの木々が燃えて火の海になってしまっている。

「しかしショックでかいな……」

「まだ言ってるのか。というか肉の確認より消火が先だろうが」
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