3 / 23
3.王女side
しおりを挟む
十一歳の冬、私は祖国を失い、翌年両親が断頭台の露と消えたのです。
そして、それから三年後――
「春が近いと言いますのに、雪とは全く厄介な」
地面に積もった雪を忌々しげに見下ろしながら忌々しそうに言う、アルフォンス・ミュッケンベルガー侯爵はコムーネ王国の宰相であり、私がリベルタ王国の王女だと知る数少ない人物の一人でもありました。
侯爵の言葉通り、今朝から降り出した小糠雨は既にやみ、見上げる空には青空さえ覗いているのですが、地上に降り注いだ白雪は溶ける気配すらなく、今もなお厚く大地を覆っていました。ここ数年、異常気象に見舞われ、近年は特に降雪量が増えている顔を顰めて嘆く侯爵ですが、私としてはむしろ例年よりも積雪量が少なめだった事に驚きを禁じ得ません。とはいえ、それはあくまでも私の感覚であって、侯爵のように長年この国に住んでいる者にとってみれば、この程度の積雪など日常茶飯事なのでしょう。
「申し訳ございません、殿下。……このような時期に出立なさるなど……」
「……構いません。それとアルフォンス侯爵。この場所をでたら私の事は『テレサ・ウェーズル公爵令嬢』です。……敬称は不要ですわ」
「……失礼致しました。ウェーズル公爵令嬢」
深々と頭を垂れて謝罪するアルフォンス侯爵を横目に、私は目の前に広がる光景を見渡します。そこは、数年前に祖母である王太后と共に訪れた風景と同じ――一面の銀世界が広がる広大な雪原地帯でした。あの時は確か、一月の中頃でしたので、もうそろそろ二月になる今の季節とは随分と違う印象を受けます。あれから……四年もの歳月が流れたのですね。運命とは本当に分からないもの。リベルタ王国で革命が起こったその日に私とおばあ様だけが難を逃れ最北端の修道院に匿われる事になるなんて……。
「では、参りましょうか? ミュッケンベルガー宰相閣下?」
「はい、ウェーズル公爵令嬢。足元にお気を付けください」
背後に控えていた老女の手を取り、用意された馬車に乗り込むとすぐに馬車は動き始めました。窓の外に見える景色が徐々にスピードを上げながら後方へと流れていきます。一日が過ぎ、二日、三日と経つにつれて段々と街らしき建物が見えてきました。やがて到着した街の入口で馬車を降りると、そこには既に迎えの人々が待っており、私は彼らの誘導に従って歩き出しました。
「お待ちしておりました。テレサ様」
「ご苦労さまです。ミケリーノ司祭殿」
出迎えてくれた初老の男性司祭に労いの言葉を掛けつつ、挨拶を交わした私は案内されるまま、とある屋敷へと足を踏み入れました。そして通された応接室で待つ事しばし――扉が開かれ一人の女性が入って来られました。
「ようこそおいで下さいました。テレサ様」
そして、それから三年後――
「春が近いと言いますのに、雪とは全く厄介な」
地面に積もった雪を忌々しげに見下ろしながら忌々しそうに言う、アルフォンス・ミュッケンベルガー侯爵はコムーネ王国の宰相であり、私がリベルタ王国の王女だと知る数少ない人物の一人でもありました。
侯爵の言葉通り、今朝から降り出した小糠雨は既にやみ、見上げる空には青空さえ覗いているのですが、地上に降り注いだ白雪は溶ける気配すらなく、今もなお厚く大地を覆っていました。ここ数年、異常気象に見舞われ、近年は特に降雪量が増えている顔を顰めて嘆く侯爵ですが、私としてはむしろ例年よりも積雪量が少なめだった事に驚きを禁じ得ません。とはいえ、それはあくまでも私の感覚であって、侯爵のように長年この国に住んでいる者にとってみれば、この程度の積雪など日常茶飯事なのでしょう。
「申し訳ございません、殿下。……このような時期に出立なさるなど……」
「……構いません。それとアルフォンス侯爵。この場所をでたら私の事は『テレサ・ウェーズル公爵令嬢』です。……敬称は不要ですわ」
「……失礼致しました。ウェーズル公爵令嬢」
深々と頭を垂れて謝罪するアルフォンス侯爵を横目に、私は目の前に広がる光景を見渡します。そこは、数年前に祖母である王太后と共に訪れた風景と同じ――一面の銀世界が広がる広大な雪原地帯でした。あの時は確か、一月の中頃でしたので、もうそろそろ二月になる今の季節とは随分と違う印象を受けます。あれから……四年もの歳月が流れたのですね。運命とは本当に分からないもの。リベルタ王国で革命が起こったその日に私とおばあ様だけが難を逃れ最北端の修道院に匿われる事になるなんて……。
「では、参りましょうか? ミュッケンベルガー宰相閣下?」
「はい、ウェーズル公爵令嬢。足元にお気を付けください」
背後に控えていた老女の手を取り、用意された馬車に乗り込むとすぐに馬車は動き始めました。窓の外に見える景色が徐々にスピードを上げながら後方へと流れていきます。一日が過ぎ、二日、三日と経つにつれて段々と街らしき建物が見えてきました。やがて到着した街の入口で馬車を降りると、そこには既に迎えの人々が待っており、私は彼らの誘導に従って歩き出しました。
「お待ちしておりました。テレサ様」
「ご苦労さまです。ミケリーノ司祭殿」
出迎えてくれた初老の男性司祭に労いの言葉を掛けつつ、挨拶を交わした私は案内されるまま、とある屋敷へと足を踏み入れました。そして通された応接室で待つ事しばし――扉が開かれ一人の女性が入って来られました。
「ようこそおいで下さいました。テレサ様」
100
あなたにおすすめの小説
政略結婚の意味、理解してますか。
章槻雅希
ファンタジー
エスタファドル伯爵家の令嬢マグノリアは王命でオルガサン侯爵家嫡男ペルデルと結婚する。ダメな貴族の見本のようなオルガサン侯爵家立て直しが表向きの理由である。しかし、命を下した国王の狙いはオルガサン家の取り潰しだった。
マグノリアは仄かな恋心を封印し、政略結婚をする。裏のある結婚生活に楽しみを見出しながら。
全21話完結・予約投稿済み。
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
お飾り妻は天井裏から覗いています。
七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。
何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?
恋を再び
Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。
本編十二話+番外編三話。
当然だったのかもしれない~問わず語り~
章槻雅希
ファンタジー
学院でダニエーレ第一王子は平民の下働きの少女アンジェリカと運命の出会いをし、恋に落ちた。真実の愛を主張し、二人は結ばれた。そして、数年後、二人は毒をあおり心中した。
そんな二人を見てきた第二王子妃ベアトリーチェの回想録というか、問わず語り。ほぼ地の文で細かなエピソード描写などはなし。ベアトリーチェはあくまで語り部で、かといってアンジェリカやダニエーレが主人公というほど描写されてるわけでもないので、群像劇?
『小説家になろう』(以下、敬称略)・『アルファポリス』・『Pixiv』・自サイトに重複投稿。
【完結】私との結婚は不本意だと結婚式の日に言ってきた夫ですが…人が変わりましたか?
まりぃべる
ファンタジー
「お前とは家の為に仕方なく結婚するが、俺にとったら不本意だ。俺には好きな人がいる。」と結婚式で言われた。そして公の場以外では好きにしていいと言われたはずなのだけれど、いつの間にか、大切にされるお話。
☆現実でも似たような名前、言葉、単語、意味合いなどがありますが、作者の世界観ですので全く関係ありません。
☆緩い世界観です。そのように見ていただけると幸いです。
☆まだなかなか上手く表現が出来ず、成長出来なくて稚拙な文章ではあるとは思いますが、広い心で読んでいただけると幸いです。
☆ざまぁ(?)は無いです。作者の世界観です。暇つぶしにでも読んでもらえると嬉しいです。
☆全23話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
☆感想ありがとうございます。ゆっくりですが、返信させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる