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伯爵家長男side
しおりを挟むヴィランは5歳下の弟だ。
その下に末の弟がいる。7歳下のフェリィー。末っ子は未熟児で産まれたため酷く病弱だった。「だった」というのは今は健康体だからだ。フェリィーが病弱だったのは6歳までの話。もっとも、末っ子特有の抜け目のなさで時々「病弱」になる時がある。構って欲しいという合図だ。僕以上に母似のフェリィーは色彩も母親似だった。愛らしい顔立ちに金髪碧眼。聖堂から抜け出した天使のような容貌は屋敷の使用人達からも絶賛され、人気が高い。仮病だと分かっていても、ついつい構って甘やかしてしまう。
両親は仕事人間、兄は2人は自分達を常に優先する。弟は要領よく親や兄に構ってもらえる。ヴィランは不器用だった。そして誰もヴィランを振り返る事をしなかった。ヴィランは家族の愛を知らない子供に育った。本来、愛情を向けて教育し、人としての道徳を教え道理を諭さなければならない家族が、ヴィランに対してだけそれを怠った。怠ってしまっていた事すら気が付かないまま、弟を孤立させていたのだ。気付いた時は何もかも手遅れだった。
「ああ! どうしてこんな事に!」
「落ち着きなさい、マイラ」
「でも貴方!」
「ジタバタしても変わらない」
「それでは何もせずにいろと仰るの!?」
「何とか示談にしてもらう他ない。我が家の弁護士に今すぐ連絡をいれて対策をとろう」
「……ああっ…なんて事」
玄関が大騒ぎになっていた。
両親がスタンリー公爵家から戻って来た。公爵家から帰って来る時は何時も上機嫌のはずなのに、その日は別だった。喧騒が気になり部屋から出ると、口を布で巻かれた上に両手を後ろで拘束されたヴィランの姿が目に入った。門番に連行されて行くところだった。疲れ切った顔の父と泣きながら父の後を歩く母の様子に愕然とした。
「煩いな……一体どうしたっ……ヴィラン!?」
屋敷の慌ただしさにウォーリも部屋から出てきたようだ。
「おいおい……マジかよ」
両親とヴィランの様子に只ならない何かを感じているようだ。
僕とウォーリは顔を真っ青にさせた執事を捕まえて、事情を聞いた。
「……ヴィラン様とスタンリー公爵令嬢が婚約を解消なさったんです」
執事の言葉に耳を疑った。
「ヴィラン様は平民の恋人を結婚後にも愛人として囲うおつもりだったらしく、その者をスタンリー公爵家に住まわせようとした処、公爵家の門番と護衛に取り押さえられ事なきを得たのですが……。ヴィラン様は自分が公爵家の跡取りだから愛人を連れ込んでも問題はないと言い……スタンリー公爵令嬢のヘスティア様と平民の愛人候補を同列に扱う始末。しかも愛人が産む子供を公爵家の跡取りにするとまで宣言なさって。公爵様は『ヤルコポル伯爵家は一族でスタンリー公爵家を乗っ取る計画を立てていたのか』と、大変にお怒りでその場で婚約解消と裁判所へ訴えると仰ったそうです」
執事は簡潔に分かり易く説明してくれた。
言葉が無かった。
隣に立つウォーリも絶句している。
この時、僕の脳裏に最悪の未来がよぎった。
僕達双子の才能は皆が認めている。17歳で正式に王太子殿下の側近になったのがその証拠だ。例え王太子殿下の側近にならずとも、宰相や高官、騎士団長達が引き立ててくれる位に優秀だと自負している。
――――だが、今その全てが無になろうとしていた。
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