7 / 7
番外編
第7話元勇者の後悔
しおりを挟む
床に伏して数年。
私の命も残りわずかだ。
今年の冬は越せない。
そんな気がする。
友人の近衛騎士団団長は「気のせいだ」「病のせいで弱気になっているだけだ」と励ましてくれるが、余命いくばくもないことは間違いない。
今朝は特に具合が悪かった。
寝台から起き上がることもできない。
咳も酷くなる一方だ。
私の病状を主治医から聞いたのか、家族が寝室に入って来た。
妻である王妃。
五人の王子たち。
……家族か。
果たして家族といえるのだろうか。
私に毒を盛ったのがこの家族の誰かだというのに?
涙を堪える妻は美しい。
けれど口元は歪んでいた。
王子たちもだ。
後継者を指名しなかったせいか、長男は恨みがましい表情で睨みつけ、次男は媚びる目で私を見ている。下の三人は私を見ようともしない。
息子たちが幼い頃はよかった。
彼らも私を父親として慕ってくれていた。
いつごろからだろうか。
息子たちがよそよそしくなったのは……。
私に似ても似つかない息子たち。
美しいが脆弱な力しかない息子たち。
王子なのだ。
力がなくても良いのかもしれない。
もっとも『勇者の息子』としては失格だった。
アレでは魔獣と戦うことはできない。
アレでは指揮官にもなれない。
この国の脆弱な軍隊と同じだ。
今はいい。
私の仲間たちがこの国を守ってくれている。
だが、いつまでもつ?
年々、力が弱くなってきていた。
それは私だけではない筈だ。
魔王を倒して世界は平和になった。
それは本当だ。
取りこぼした魔獣はすぐに滅びると誰もが思っただろう。
まさか……あれほど強くなるとは。
ゴホゴホゴホッ。
大きく咳き込む。
「父上!」
息子たちが集まってくる。
「父上!今からでも遅くありません!私を次の王にすると仰ってください!!」
「兄上!卑怯ですよ!」
「なにが卑怯だ!第一王子の私が王になるのは当然だろう!!」
「王子は他にもいます!長男だからといって王になれるわけではありません!!」
「黙れ!!!」
「いいえ!黙りません!」
「なら貴様が王になるとでもいう気か!?」
「少なくとも兄上よりかは玉座に相応しいと自負しております!」
醜い兄弟げんかが勃発した。
我が息子ながら恥ずかしい。
『王太子を第一王子に』
『五人も王子がいるのです。誰を後継者に指名しても問題ございません』
かつてそう言った大臣がいた。
そういう問題ではない。
先代国王との約束がある。
私はその約束を守っているにすぎない。
……思い出すたびに胸が痛い。
体のだるさと胸の痛みが過去を思いださせる。
「国王陛下!!お気を確かに!!」
咳に混ざって吐血した。
ああ、もう限界が近い。
死んだらどうなるのだろうか。
私は天国に行けるだろうか?
天国には最初の妻がいる。
彼女は私を待ってくれているだろうか?
魔王を倒す旅は三年かかった。
その間に妻は死んだ。
病死だったと聞いた。
失意のどん底にいた私を支えてくれたのは旅の仲間たちだった。
彼らの支えで立ち直れた。
先代国王は「王女と結婚してはどうか」と打診してくれた。
いい話だと皆は思っただろう。
私もそう思う。
王は言った。
「勇者と聖女の子供なら、きっと優れた為政者になるだろう。いや、為政者でなくてもいい。素晴らしい剣士になれる。優れた才能を持つ子が生まれるはずだ」と。
王女と結婚した翌年に国王が崩御し、私は新国王に就いた。
王妃になった妻。
彼女は五人も息子を産んでくれた。
ありがたい。
うれしい。
ただ、勇者としての力は一向に目覚めなかった。
それだけが残念でならない。
約束なのだ。
先代国王との。
だから仕方がないのだ。
すまない。
私は義父と約束をした。
『勇者の血を引く者を次の王にする』と。
魔法契約に基づいてのもの。
誰にも覆せない。
知っていた。
王妃が私を裏切っていたことを。
息子は誰一人として私の血を引いていないことを。
ゴホゴホゴホッ。
また咳き込んだ。
苦しい。
「父上!!」
「国王陛下!!」
「誰か!早く医師を呼べ!!」
家族たちが騒ぐ。
ああ、もう駄目だ。
私は死ぬ。
目を開けていられない。
ようやく死ねる。
そうか。
私は死にたかったんだ。
ずっと昔から。
――――のよ……。
声がする。
幻聴か?
――――英雄になる必要なんてないの。
懐かしい声だ。
誰だったか。
女性の柔らかな声。
王妃とは違う。優しい声。
――――無事に帰って来てくれたらそれでいいの。
私を……俺を心配している。
俺を心から想ってくれている人の言葉だ。
――――いってらっしゃい。
そうだ。
最後の日もそうやって送り出してくれた。
「――――、ただいま……」
――――おかえりなさい。
最初の妻が迎えにきてくれた気がした。
やっと眠れる。
私の命も残りわずかだ。
今年の冬は越せない。
そんな気がする。
友人の近衛騎士団団長は「気のせいだ」「病のせいで弱気になっているだけだ」と励ましてくれるが、余命いくばくもないことは間違いない。
今朝は特に具合が悪かった。
寝台から起き上がることもできない。
咳も酷くなる一方だ。
私の病状を主治医から聞いたのか、家族が寝室に入って来た。
妻である王妃。
五人の王子たち。
……家族か。
果たして家族といえるのだろうか。
私に毒を盛ったのがこの家族の誰かだというのに?
涙を堪える妻は美しい。
けれど口元は歪んでいた。
王子たちもだ。
後継者を指名しなかったせいか、長男は恨みがましい表情で睨みつけ、次男は媚びる目で私を見ている。下の三人は私を見ようともしない。
息子たちが幼い頃はよかった。
彼らも私を父親として慕ってくれていた。
いつごろからだろうか。
息子たちがよそよそしくなったのは……。
私に似ても似つかない息子たち。
美しいが脆弱な力しかない息子たち。
王子なのだ。
力がなくても良いのかもしれない。
もっとも『勇者の息子』としては失格だった。
アレでは魔獣と戦うことはできない。
アレでは指揮官にもなれない。
この国の脆弱な軍隊と同じだ。
今はいい。
私の仲間たちがこの国を守ってくれている。
だが、いつまでもつ?
年々、力が弱くなってきていた。
それは私だけではない筈だ。
魔王を倒して世界は平和になった。
それは本当だ。
取りこぼした魔獣はすぐに滅びると誰もが思っただろう。
まさか……あれほど強くなるとは。
ゴホゴホゴホッ。
大きく咳き込む。
「父上!」
息子たちが集まってくる。
「父上!今からでも遅くありません!私を次の王にすると仰ってください!!」
「兄上!卑怯ですよ!」
「なにが卑怯だ!第一王子の私が王になるのは当然だろう!!」
「王子は他にもいます!長男だからといって王になれるわけではありません!!」
「黙れ!!!」
「いいえ!黙りません!」
「なら貴様が王になるとでもいう気か!?」
「少なくとも兄上よりかは玉座に相応しいと自負しております!」
醜い兄弟げんかが勃発した。
我が息子ながら恥ずかしい。
『王太子を第一王子に』
『五人も王子がいるのです。誰を後継者に指名しても問題ございません』
かつてそう言った大臣がいた。
そういう問題ではない。
先代国王との約束がある。
私はその約束を守っているにすぎない。
……思い出すたびに胸が痛い。
体のだるさと胸の痛みが過去を思いださせる。
「国王陛下!!お気を確かに!!」
咳に混ざって吐血した。
ああ、もう限界が近い。
死んだらどうなるのだろうか。
私は天国に行けるだろうか?
天国には最初の妻がいる。
彼女は私を待ってくれているだろうか?
魔王を倒す旅は三年かかった。
その間に妻は死んだ。
病死だったと聞いた。
失意のどん底にいた私を支えてくれたのは旅の仲間たちだった。
彼らの支えで立ち直れた。
先代国王は「王女と結婚してはどうか」と打診してくれた。
いい話だと皆は思っただろう。
私もそう思う。
王は言った。
「勇者と聖女の子供なら、きっと優れた為政者になるだろう。いや、為政者でなくてもいい。素晴らしい剣士になれる。優れた才能を持つ子が生まれるはずだ」と。
王女と結婚した翌年に国王が崩御し、私は新国王に就いた。
王妃になった妻。
彼女は五人も息子を産んでくれた。
ありがたい。
うれしい。
ただ、勇者としての力は一向に目覚めなかった。
それだけが残念でならない。
約束なのだ。
先代国王との。
だから仕方がないのだ。
すまない。
私は義父と約束をした。
『勇者の血を引く者を次の王にする』と。
魔法契約に基づいてのもの。
誰にも覆せない。
知っていた。
王妃が私を裏切っていたことを。
息子は誰一人として私の血を引いていないことを。
ゴホゴホゴホッ。
また咳き込んだ。
苦しい。
「父上!!」
「国王陛下!!」
「誰か!早く医師を呼べ!!」
家族たちが騒ぐ。
ああ、もう駄目だ。
私は死ぬ。
目を開けていられない。
ようやく死ねる。
そうか。
私は死にたかったんだ。
ずっと昔から。
――――のよ……。
声がする。
幻聴か?
――――英雄になる必要なんてないの。
懐かしい声だ。
誰だったか。
女性の柔らかな声。
王妃とは違う。優しい声。
――――無事に帰って来てくれたらそれでいいの。
私を……俺を心配している。
俺を心から想ってくれている人の言葉だ。
――――いってらっしゃい。
そうだ。
最後の日もそうやって送り出してくれた。
「――――、ただいま……」
――――おかえりなさい。
最初の妻が迎えにきてくれた気がした。
やっと眠れる。
985
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(6件)
あなたにおすすめの小説
閉じ込められた幼き聖女様《完結》
アーエル
ファンタジー
「ある男爵家の地下に歳をとらない少女が閉じ込められている」
ある若き当主がそう訴えた。
彼は幼き日に彼女に自然災害にあうと予知されて救われたらしい
「今度はあの方が救われる番です」
涙の訴えは聞き入れられた。
全6話
他社でも公開
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
異世界追放《完結》
アーエル
ファンタジー
召喚された少女は世界の役に立つ。
この世界に残すことで自分たちの役に立つ。
だったら元の世界に戻れないようにすればいい。
神が邪魔をしようと本人が望まなかろうと。
操ってしまえば良い。
……そんな世界がありました。
他社でも公開
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
元勇者さん。それ、最初の奥さん違う。幻覚や。
あんたの最初の奥さんはハンスと結婚して幸せになってるんだぞ()
う~ん・・・冒険者グレイのお母さんとハンスは、勇者は悪くないと言っていますが、そもそも勇者が人の悪意を理解できる、マトモな神経の持ち主であれば、グレイは一人言を口にする事もなく、「未必の故意」は起きなかったのでは?
元勇者は心変わりや権力に屈したのでなく騙されてしまっただけだったんですね…確かに「そんな人間ではない」です。少しでも他人の言葉を疑う気持ちを持っていたら結末は違ったかも…不憫な人