1 / 9
第1話約束
しおりを挟む「僕とずっと一緒にいて」
「はい」
「お父様が仰っていたんだ。僕たちは将来結婚するって。今はその約束をしてる最中なんだって。 だからずっと一緒だよ」
「はい」
「約束だよ」
「はい!約束です!」
王城の中庭。
そこで初々しいカップルが今まさに誕生した瞬間だった。春の暖かな日差しと色とりどりの花々。演出効果もバッチリだと思う私は一般的な幼子と比べて冷めていた。
ホンワカとした雰囲気を醸し出している小さな恋人達を生暖かい目で見る周りの大人達と違って。
今年七歳になる王太子と同い年の姉。
二人の婚約は決定事項。というよりも殆ど王家のゴリ押しと粘り勝ちといった処だろう。王家はどうしても姉を次期王妃にしたいらしい。我が家としては大変遠慮したいのだが聞き入れて貰えなかった。
王家と公爵家との縁組。
他の公爵家なら喜ぶ縁組ではあるが我がノノミヤ公爵家にとっては迷惑極まりないものだった。
それにしても、あの王太子は理解しているのだろうか?
姉と約束を交わす意味を……。
「僕は何れ王様になる。イツキはお妃様だ」
「はい!」
「二人で良い国を作ろう!」
「はい!」
「僕は歴史に残る偉大な王になる!この国を世界で一番素晴らしい国にするんだ。豊かで楽しくて皆が笑顔に溢れている国に!皆で幸せになるんだ。イツキも手伝ってくれる?」
「勿論です!」
「約束だよ?」
「はい!約束です!」
微笑ましい会話が聞こえてきますが、私の心は複雑です。
『約束』
実の妹でも姉とこんな恐ろしい事は出来ない。 何しろ、他の人と違って軽々しく出来るものではないからだ。
姉と約束をするという事は『契約』をするという事だ。『精霊の愛し子』である姉と交わした約束は恐ろしい程の効力を発揮する。
王太子が『約束』を守れたなら、彼は『王』としての未来が保証される。彼自身に才能がなくともだ。例え、王太子がアッパラパーであっても姉の『加護』を得ている以上、歴史に残る名君になる事は約束されたようなものだ。それこそ建国の英雄と謳われる初代国王にも手が届く程に。もしくは、それ以上の存在に。
けれどそれは、『約束』を守る事が絶対条件。どんな事があろうとも、何が起ころうとも守らなければならない。ある意味、呪いと言ってもいい。
もしも、王太子が『約束』という名の契約を破棄した場合、与えられた『加護』は消滅する。王太子が約束を反故した気が無くとも、精霊達が約束に反したと受け取れば契約違反とみなされる。
契約違反とみなされて自分一人が破滅するならまだしも、反動で他者にまで被害が覆いかぶさる可能性が高いのが愛し子との約束。
愛し子との約束を守れない人間には相応しい末路が待っている。
それは歴史書でも書かれている事実。
あの様子では王太子は知らないのでは? 後で知って後悔しなければいいのだけど……。知ったとしても姉との約束を生涯守れば良いだけの話ではある。が、それ自体が中々難しい。
歴史を紐解けば、過去に何人もの人間が『精霊の愛し子』に加護を願った。
基本、愛し子は「善人」だ。
皆が快く応じた。
加護を与えるために人と『約束』という名の契約をした。
その『約束』を守った人もいるが、大半は『約束』を反故して破滅していった。
『約束』をした人間の中には国王や王子も数多おり、彼らの国々は今はもうない。『約束』を破ったがために国も民を失い歴史の闇に埋もれてしまった。
欲を掻いた者の末路――
歴史書ではそう描かれている。
けれど、人とはそういうものだ。
あの王太子がどうなるのかは誰にも分からない。
王太子が過去の愚か者達と同じにならない事を祈っておこう。
494
あなたにおすすめの小説
男の仕事に口を出すなと言ったのはあなたでしょうに、いまさら手伝えと言われましても。
kieiku
ファンタジー
旦那様、私の商会は渡しませんので、あなたはご自分の商会で、男の仕事とやらをなさってくださいね。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
聖女の妹によって家を追い出された私が真の聖女でした
天宮有
恋愛
グーリサ伯爵家から聖女が選ばれることになり、長女の私エステルより妹ザリカの方が優秀だった。
聖女がザリカに決まり、私は家から追い出されてしまう。
その後、追い出された私の元に、他国の王子マグリスがやって来る。
マグリスの話を聞くと私が真の聖女で、これからザリカの力は消えていくようだ。
堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。
木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。
彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。
そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。
彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。
しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。
だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。
現聖女ですが、王太子妃様が聖女になりたいというので、故郷に戻って結婚しようと思います。
和泉鷹央
恋愛
聖女は十年しか生きられない。
この悲しい運命を変えるため、ライラは聖女になるときに精霊王と二つの契約をした。
それは期間満了後に始まる約束だったけど――
一つ……一度、死んだあと蘇生し、王太子の側室として本来の寿命で死ぬまで尽くすこと。
二つ……王太子が国王となったとき、国民が苦しむ政治をしないように側で支えること。
ライラはこの契約を承諾する。
十年後。
あと半月でライラの寿命が尽きるという頃、王太子妃ハンナが聖女になりたいと言い出した。
そして、王太子は聖女が農民出身で王族に相応しくないから、婚約破棄をすると言う。
こんな王族の為に、死ぬのは嫌だな……王太子妃様にあとを任せて、村に戻り幼馴染の彼と結婚しよう。
そう思い、ライラは聖女をやめることにした。
他の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!
林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。
マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。
そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。
そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。
どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。
2022.6.22 第一章完結しました。
2022.7.5 第二章完結しました。
第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。
第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。
第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。
わたくしを追い出した王太子殿下が、一年後に謝罪に来ました
柚木ゆず
ファンタジー
より優秀な力を持つ聖女が現れたことによってお払い箱と言われ、その結果すべてを失ってしまった元聖女アンブル。そんな彼女は古い友人である男爵令息ドファールに救われ隣国で幸せに暮らしていたのですが、ある日突然祖国の王太子ザルースが――アンブルを邪険にした人間のひとりが、アンブルの目の前に現れたのでした。
「アンブル、あの時は本当にすまなかった。謝罪とお詫びをさせて欲しいんだ」
現在体調の影響でしっかりとしたお礼(お返事)ができないため、最新の投稿作以外の感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
聖女の婚約者と妹は、聖女の死を望んでいる。
ふまさ
恋愛
聖女エリノアには、魔物討伐部隊隊長の、アントンという婚約者がいる。そして、たった一人の家族である妹のリビーは、聖女候補として、同じ教会に住んでいた。
エリノアにとって二人は、かけがえのない大切な存在だった。二人も、同じように想ってくれていると信じていた。
──でも。
「……お姉ちゃんなんか、魔物に殺されてしまえばいいのに!!」
「そうだね。エリノアさえいなければ、聖女には、きみがなっていたのにね」
深夜に密会していた二人の会話を聞いてしまったエリノアは、愕然とした。泣いて。泣いて。それでも他に居場所のないエリノアは、口を閉ざすことを選んだ。
けれど。
ある事件がきっかけで、エリノアの心が、限界を迎えることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる